四話
「早速で悪いけれど水汲みをお願いできるかしら」
「わかりました」
「桶はこれを使ってね。汲んできた水はこっちの壺に入れて頂戴」
「はい」
「井戸はここを真っ直ぐ行けばあるわ」
「行ってきます」
水汲みは庶民であれば子供の仕事だ。
フランの家からは共同の井戸が遠く大変な重労働だった。
最初の仕事が慣れた水汲みでよかった。
家事、洗濯は一通りできるとは言えどこでボロが出るかわからない。
ミスをすればせっかく潜り込ませてくれたファンさんにも迷惑がかかる。
それだけは避けなければならない。
そんなことを考えていると井戸に到着した。
井戸から桶に水を汲みそれを持って下女小屋へと戻る。
壺をいっぱいにするには何度か繰り返す必要がありそうだ。
フランは黙々と井戸と下女小屋を往復した。
水がいっぱいになり少し休んでいると食材を積んだ手押し車を押してリリーさんがやってきた。
「おや、仕事が早いね。悪いけどこれを中に入れるのを手伝っておくれ」
「はい」
食材がいっぱい入った箱を2人で協力して運ぶ。
箱の中には家では見たこともない食材で溢れていた。
それを見てリリーさんは笑っている。
「珍しいかい?でも、ここだとどれも捨てる部位でね。お偉いさん達が食べないような部位が私達にまわってくるのさ」
「そうなんですか・・・」
世界が変わればというけれど一般人からしたら捨てる部位でもお宝だ。
これだけの食材が捨てられてしまうだなんてお偉いさん達とはなんて贅沢なのだろう。
「よし、これでいいね。あんたは休んでな」
そう言ってリリーさんは腕捲りをして食材に手を伸ばした。
フランはそれをじーっと眺めている。
リリーさんはとても手馴れており次々に料理が完成していく。
いい匂いが立ち込めてきた頃、ガヤガヤと騒がしくなる。
どうやら同僚となる下女達が戻ってきたようだ。
「おや、見ない顔だね。あんた新入りかい?」
「はい。本日からお世話になるフランです」
「ふぅ~ん。まぁ、いいや」
そう言って手慣れたように皿を用意しはじめる。
リリーさんは完成した料理を手早く皿によそっていく。
フランの前には野菜を煮込んだスープに白パンとお肉が並んでいる。
他の人のところにはスープとお肉しかない。
「私だけいいんですか?」
庶民が食べているのは固い黒パンだ。
白パンは一般にはあまり出回っていない。
「あぁ。新しく入って来た子には特別さ。頑張って働いてもらわないとね」
他の料理も美味しかったが白パンはふわふわして柔らかくとても美味しかった。