三話
「眠れたかしら?」
そう言って声をかけてくれたのはファンさんだ。
「はい。おかげさまで」
本当は不安でいっぱいだった。
父のこと。
これからのこと。
だけどここでくよくよしていても何も解決しないのだ。
「そう・・・。これに着替えてくれるかしら」
そう言って差し出されたのは自分の着ている服とは違って新品の服だった。
「ごめんなさいね。本当はもっと綺麗な服を着させてあげたいけど規則だから」
王宮に入れる人は限られた人だけだ。
身分によって着れる服も変わってくる。
「いえ、こんなに立派な服ありがとうございます」
フランはそう言って新しい服に袖を通す。
「問題はなさそうね。それじゃ、行きましょうか」
「はい」
リーシャルは今朝早く家を出ていった。
一緒にいては怪しまれるからだ。
隙を見て一度街を離れほとぼりが冷めた頃に戻って来るそうだ。
恐らく数年は戻ってこれない。
長い別れになることはわかっていたが笑顔で見送った。
今はすることをしなければ。
そう気合を入れなおしファンさんが手配した馬車に乗り込む。
フランという名前はありきたりな名前だ。
なのでミスをしない為にもそのままの名前で通すことになった。
馬車は中央の道を進み街の中心に向かっていく。
貴族街を抜け街の中心にある建物、王宮に辿り着いた。
馬車で移動できるのは門まででここからは歩いていくことになる。
ファンさんが門番とやり取りをするとすんなり門の中へと入ることが出来た。
門を潜り抜けると多くの人が働いている姿が見える。
「今日は騒がしいわね。仕方のないことだけど・・・」
ファンさんはちらりとこちらを見てそう言ってくる。
漏れ聞こえてくる話から罪人の刑が執行されているからだ。
その罪人の中にはフランの父親も含まれている。
涙は見せられない。
今は怪しまれないように不安でいっぱいで何も理解していない小娘を演じなければ。
しばらく歩いていると王宮の外れにある小屋に辿り着いた。
ここが今日からの住処になる下女達の住まいだ。
「急に頼んで悪かったわね」
「いいえ、ファンさんからの頼みなら大歓迎よ。それでそちらの子がフランね。私は下女をまとめているリリーよ」
「よろしくお願いします」
「下女の仕事は力仕事も多くて大変だけど食いっぱぐれることはないわ」
そう言って笑顔を見せてくれる。
フランは親が借金の末に蒸発して食うに困ってファンさんを訪ねたということになっていた。