二話
ファンさんの家に着いた二人は裏口からこそこそと家の中に入った。
「ファンさん。いますか?」
ドタバタと音がして家の主であるファンさんが現れた。
ファンさんはかつて女官として王宮に勤めていた女性だった。
「フランちゃん!よかった。無事だったのね」
そう言って心底ほっとしたような顔をしている。
「貴方のお父さんが国賊として捕まったって聞いて心配していたのよ」
「ファンさん。フランの親父さんがどうなったかわかりませんか?」
「残念だけど助けるのは難しいわ。明日にでも刑が執行されるでしょう」
「そうですか・・・」
「今はそんなことよりフランちゃんよ。必要ならいつまででも匿うわ」
「ファンさん。お願いがあります」
「何かしら?」
「私を王宮で働けるようにしてください」
「フランちゃん。本気?」
ファンは女官時代の伝手で今もそれなりに王宮との繋がりを保っている。
その伝手を使えばフランを王宮に潜り込ませることも不可能ではない。
「リーシャル君もそれでいいの?」
「こいつは一度決めたことは変えない奴だからな。何を言っても無駄だよ」
「そう・・・。本気なのね?」
「はい」
「わかったわ。明日、王宮に行きましょう。今日はもう休みなさい」
そう言ってファンさんは家人に部屋の準備をするように指示を出して奥に下がっていった。
「なぁ。頼むから本当のことを言ってくれ」
そう言って何度も頼み込んでくるのは若い武官だ。
この若い武官は元雇い主であるリオンである。
私はリオンの父親の代から仕えてきた。
今のリオンは平常心とは程遠い。
今も聞き耳を立てている奴がいるというのにそれにすら気が付いていないようだ。
自由の火の頭目を継いだ時からこのような事態になることは想定していた。
自警団を鬱陶しいと思っていた役人はごまんといるだろう。
それでも自由の火が活動できていたのはそれなりの後ろ盾があったからだ。
リオンの父親はその1人だった。
今回、殺されたのはそのリオンの父親だったのだ。
自由の火は嵌められたのだ。
だが、それを証明する方法はない。
なら、せめてこの若者だけでも守るしかない。
だが1つぐらい頼みごとをしても許されるだろう。
「俺から言うことは1つもない。ただ、頼みがある」
「なんだ?言ってみろ」
「娘を頼む」
リーシャルの奴がきっとうまくやってくれている。
それにフランも頭がいい。
きっとうまく逃げてくれているはずだ。
親としてしてやれることはこれぐらいしかなかった。