十八話
侍女の仕事場を一通りまわった頃には昼食の時間となっていた。
侍女達の区画には食堂もあり専門の料理人が食事を作ってくれるとのことだった。
そこには美味しそうな料理に籠いっぱいに白いパンが山盛りに乗っている。
配膳を受けて料理に口をつけてみる。
今まで食べていた料理に不満があるわけではないが別次元の美味しさだった。
野菜をたっぷり使ったスープ。
肉を丁寧に焼いた物もある。
そして柔らかい白パン。
これだけで夢のようである。
「お味の方はどうかしら?」
侍女長であるリリアさんがそう言ってくる。
「とっても美味しいです」
「しっかり食べておいてね。午後からは貴方にも働いてもらうから」
「はい」
夢のような昼食はあっという間に過ぎていった。
午後からの仕事は先輩の侍女達と共に官吏のお手伝いだった。
呼ばれるまで待機するのが基本なのだという。
時折、頼まれて書類を運んだりお茶を入れたり。
下女の時はずっと動いていたが侍女というのは待ち時間も多い。
官吏達の邪魔にならないようにおしゃべりもできない。
待つのは意外と辛いのだとはじめて知ったのだった。
途中でリリアさんが様子を見に来たがすぐに他の場所へと行ってしまった。
時間となり官吏達が帰っていく。
自分の仕事も終わりかと思ったらここからが忙しかった。
夕食までの間に部屋の掃除を済ませなければならない。
先輩の侍女に指示を出されテキパキと動いていく。
他の侍女達も手慣れており部屋の掃除はあっという間に終わった。
侍女区画の食堂に戻ってきた。
「貴方、中々やるわね」
そう言って先ほどまで一緒に働いていた侍女が話しかけてくる。
「ご迷惑はおかけしませんでしたか?」
「そんなことはないわ。新人と聞いて戦力外を押し付けられたと思ったけどよくやってくれたわ」
「ありがとうございます」
「今後もこの調子で頼むわね」
そう言って先輩の侍女は離れていった。
配膳が済んだところでリリアさんが声をかける。
「はい。皆、注目。新人のフランよ。仲良くしてあげてね」
「フランです。よろしくお願いします」
ぱちぱちと拍手が聞こえる。
よく見れば午後に一緒に仕事をした侍女達だった。
貴族や豪商の娘達と聞いて萎縮していたが認めてくれる人もいるのだと勇気を貰った気がした。
食事を終えた後はリリアさんに案内されて自室となる部屋に移動した。
そこには相部屋となるナナリーがいて少し安心したのだった。