十七話
おっちょこちょいな侍女の名前はナナリーと言った。
男爵家の四女で行儀見習いとして王宮で侍女の仕事をしている。
周囲の評価はドジっ子である。
しかし、彼女の本当の顔は極限られた人物だけが知っている。
彼女の家は身分は低いが国にとって重要な仕事をしていた。
そんな家に生まれた彼女も幼い頃から特殊な訓練を受けている。
それは自分自身を偽ることだ。
あえて侮られることで相手の口を軽くする。
そうして集めた情報を主人に伝えるのだ。
彼女の今の主は皇后だった。
皇后からは新しく配属される侍女を徹底的に洗うように指示を出されている。
こういった仕事は珍しくない。
王宮で働く侍女というのは少なからず同じようなことをしている。
自分の親や贔屓にしている男性に気に入られようと仕事の合間に情報を集め流すのなんて普通のことだった。
まずは、新人の近くでミスをする。
そうすることで同情的な感情を抱くだろう。
自分がミスをするのはいつものことだ。
そう言って自分自身を納得させる。
侍女長まで一緒に巻き込んだのだけは計算違いだったが今更自分の評価は変わらない。
三人で廊下にばら撒かれた水をふき取る。
三人で取りかかったからか思った以上に早く片付けることが出来た。
「ありがとう。私はナナリー。貴方は?」
「フランって言います。よろしくお願いします」
ファーストコンタクトとしては普通だ。
私がミスをして手伝わされたというのに不満を覚えている様子もない。
侍女になる子というのは少なからずプライドが高い子が多い。
貴族の子女、豪商の娘など。
親からちやほやされて育ったのだから我儘に育つのは当たり前だ。
だというのにこの子にはそれがない。
皇后様から指示を出されたという以外にもこの子に興味を持った。
注意深く観察していこう。
フランは掃除が終わると侍女長に連れられて行ってしまった。
ナナリーから少し離れたところで眼鏡の侍女に頭を下げられた。
「案内の途中にごめんなさいね。助かったわ。あの子も悪い子じゃないのだけど困っているところを見かけたら助けてあげてね」
「はい」
「そうそう。名乗るのを忘れていたわね。私は侍女長をしているリリアよ」
「侍女長だったのですね」
偉い人だとは思っていたけれど侍女長だったとは驚きだ。
「私なんかの為にすみません」
「いいのよ。どちらにせよ立場上色々な所に顔を出さないといけないから」
侍女長の仕事のメインは侍女達がきちんと働いているか目を光らせることなのだと教えてくれた。




