十六話
「さてと、そろそろ仕事に行きましょうか」
「はい」
「しばらくは私が面倒をみるから安心してね」
「よろしくお願いします」
そう言ってフランと眼鏡をかけた侍女は仕事に向かった。
その頃、王宮の奥では例の高貴な男性と明らかに身分の高いと思われる女性が向かい合っていた。
「貴方が女性の人事に口を出してくるとはね」
「ちょっと気になる子だったからね」
「そう・・・。貴方がその子のところに足繁く通っていたという話があるのだけど?」
「事実ではあるけれど深い意味はないよ」
「ふぅん・・・」
どこか女性は不審げに男性を見る。
「こっほん。それはそうと頼んでいた件はどうなったかな?」
「それとなく調べさせたけどかなりきな臭いわね」
「ふむ・・・」
女性に調べて貰っていたのは自分が動けば警戒されると思ったからだ。
「そもそも、自分達の後ろ盾を殺す必要がないのよね。何かで揉めて衝動的にと言うのは考えられるけれどあまり関りの無い相手を自宅に呼ぶというのがかなり不自然よ」
下手人とされた男は自警団の一員とはいってもグランとの関りは全くなかった。
そして、積極的に調査に乗り出したのはグランの派閥ではなく敵対していた派閥だった。
証拠も色々出たがそれらも全て敵対した派閥が提出してきたものだ。
「そう考えると貴族による暗殺か?」
「その可能性がかなり高いわね」
「こちらでも動いてみるが引き続き調査を頼む」
「わかったわ」
そう言って女性は退室していった。
「ふぅ・・・。頭の痛い問題だな」
そう言って男性は頭を振った。
フランは眼鏡の侍女と共に王宮中を歩き回っていた。
眼鏡の侍女は侍女の中で身分が高いようで他の侍女に指示を出したりしている。
今は他の侍女の動きを見て仕事を覚えるようにと言われていた。
侍女の仕事は実に様々だ。
掃除をしていたり官吏にお茶を出したり。
中には頼まれて書類を運んでいる侍女もいる。
フランの目的である真実を突き止める為には今までよりも近づいたようだ。
とは言え、しばらくは大人しくしていよう。
チャンスはいくらでもあるだろう。
そう決意して先輩の侍女達の動きを集中してみる。
すると自分とそう歳の変わらなそうな侍女が桶をひっくり返した。
あたりに水がばら撒かれる。
「もう。また貴方は・・・」
そう言って眼鏡をかけた侍女は駆け寄っていく。
フランもその後に続いた。
「悪いけど貴方も片付けに加わって頂戴」
「わかりました」
こうしてフランの初の侍女仕事はおっちょこちょいな侍女の後拭いだった。




