一話
フランの父親は武官に仕える下男だった。
母親は既に亡くなっており父親と近くに住む少し上の兄のような存在であるリーシャルだけが家族だった。
金銭的に余裕があるわけではないがそれでも信頼できる人々に囲まれて幸せな日々を送っていた。
そんなある日、街をぶらついていたフランに必死な様子で走ってきたリーシャルは逃げろと言ってきた。
わけもわからずリーシャルの後を追うと普段は絶対に足を踏み入れてはいけないと言われていたスラム街に足を踏み入れていた。
リーシャルは何かを確認して一つのボロ小屋に入っていった。
「フラン。いいかい。ここに隠れているんだ」
「ちょっと。何が何だかわからないわ」
「君の父上が国賊として捕まった」
「えっ?」
「今、必死に衛兵達が君を探している」
「私、何もしてないわ」
「そう。君は何もしていない。だけど衛兵達には関係ないんだ」
リーシャルの話ではこうだ。
高官の1人が殺された。
その高官を殺したのが自由の火という自警組織だった。
フランの父親はその自由の火の頭目だった。
フランの父親は武官に仕えながら自由の火の頭目として日々困っている人達の手助けをしていたのだ。
むろん、自由の火は高官を殺したりしていない。
しかし、現場には自由の火のメンバーの証であるハンカチが残されていた。
メンバーは次々に捕縛されそして頭目であるフランの父親も国賊として捕まった。
国賊として捕まった者の親族も捕縛の対象だった。
このまま捕まればフランも殺されてしまう。
だから、リーシャルは必死にフランを探し出しここに匿ったのだ。
ここは自由の火の隠れ家の1つだ。
いつまで隠れていられるかはわからない。
「日が暮れたら街を出よう」
「いやよ。このまま逃げるなんて出来ないわ」
「じゃぁ、どうする?」
「ファンさんに頼んで王宮に潜り込むわ」
「王宮に潜り込むだって?」
「そう、そして真犯人を見つけるのよ」
「無茶だ。バレたらすぐに捕まってしまう」
「灯台下暗しっていうじゃない。国賊の娘が紛れ込んでるなんて誰も思わないわ」
リーシャルは溜息をついていた。
こうなったフランは誰にも止められない。
長い付き合いでそれがわかってしまったために覚悟を決めた。
「わかった。だが、絶対に無茶をするなよ?」
「私を誰だと思っているの?絶対に上手くいくわよ」
二人は暗くなってからファンさんの家に向かって移動を開始した。