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第5話(完)

「ほらお兄ちゃん起きて!」


   んー…。ん?


「…どうしたんだ未織? そんなにおしゃれして」


   いぶかしみ、ため息をつく未織。


「何言ってるのお兄ちゃん。今日はお姉ちゃんたちとショッピングに行く日でしょ?」


   寝ぼけてるおれ。時計をみる。


「まだ待ち合わせまで時間あるだろ?」


「その時計、実は遅くしといたっ♪」


   にこにこしながら言う未織。と、いうことは…時間やばくね?


「なんでだぁああああああ!」




「…おい」


「何?」


「…まだ誰も来てないんだが」


「早めに着いたからね!」


「…時計遅くしたんじゃなかったのか?」


「え? なんのこと?」


   携帯の時刻を確認。家にある電波じゃない時計の時刻と寸分たがわない。


「嘘かよ!」


「だってお兄ちゃんそう言わないと準備しないじゃん」


「…なんでそんな嘘ついたんだ?」


「一番に来たかったんだよね!」


   妹のわがままは即ち、おれの貴重な睡眠時間が奪われたことを意味していた。おれはというと、すでに疲れていた。




「お待たせっ!」


「よう、宮下」


「お姉ちゃんおそーい!」


「こんにちは、宮下さん」


   宮下が来た。その少し前に須藤は来ている。


「ごめんね未織ちゃん、用意に手間取っちゃって」


   笑って未織に言う宮下。この前遊園地に行った時と何かが違う。宮下と視線がぶつかる。


「? わたし何かおかしなところとかある?」


「い、いや! 全然おかしくないぞ!」


   宮下に聞かれて慌てて返してしまった。ふと、一人まだ来ていないことが気に掛かった。


「それにしても、秋吉のやつ遅ぇな」


「え? まだしずるちゃん来てないの?」


「私ならここにいるわよ?」


「「うわっ!?」」


   急に秋吉が出てきて宮下と同時に驚いた。


「ど、どこから出やがった!?」


「何よ、人を化け物みたいに。ずっとそこにいたわ」


   そう言っておれたちから死角になっている場所を指さす秋吉。


「…いつからいたんだ?」


「んー…紀野君が未織ちゃんといちゃいちゃしながら来たところから?」


「いちゃいちゃしてねぇよ! しかも、おもいっきり最初からいたんじゃねぇか!」


「だから言ったじゃない、ずっとそこにいたって」


「何のためにそんな…」


「何のためって…からかうために決まってるじゃない」


   さも当然といった顔で答える秋吉。呆れてものも言えない。


「こんにちは、秋吉さん」


   場を仕切りなおすためか、秋吉に話しかける須藤。


「しずるさん! こんにちわです!」


   それに続いて未織も秋吉にあいさつする。そして未織は秋吉におもいっきり抱きついた。きちんと受けとめる秋吉。


「みんなそろったみたいだし、何か食べようか」


   須藤が食事を勧める。


「そうだな。秋吉なんかに構ってないでさっさと…っておい! おれをおいてくな!」


   この間の遊園地といい、どうしておれを無視するんだ。




   建物の入り口から移動して、手頃なファーストフード店に入って食事を済ませ、そこらへんの店を回っていく。


「会った時から思ってたんだけど、秋吉さんが髪留めしてるなんて珍しいね」


「そうそう。それに、その髪留めかわいいね」


「しずるさん、すごく似合ってます!」


   須藤の発言をきっかけにして、宮下とと未織が続いて言う。


「そう? ありがとう」


   秋吉は少し嬉しそうだ。純粋に喜ぶなんて、珍しい。


「ほんとだな…気づかなかった」


   おれは秋吉の髪留めにまったく気づかなかった。


「そんなだから紀野君はいつまでたっても…」


   哀れむように言って、途中で言葉を切る秋吉。


「な、なんだよ!? 言いたい事があるならはっきり言えよ!」


   さっきとは一転して冷めた目でおれを見る秋吉。


「なんでもないわ。気にしないで」


   満面の笑みで言う秋吉。…全然笑ってる気がしないんだけどな。




「そうだわ。紀野君、ここの店の服着なさい」


   あるお店に入ると、何か閃いたらしい秋吉が、おれにここの店の服を着るように勧める。


「…おまえはバカか?」


   おれたちが今いる店は、女性用の服だけを売っている店だ。


「え? どうして?」


「何不思議そうな顔してんだ! この店の服は女物だろうが!」


「そうよ?」


「わかってるなら、な・ん・で・おれに着せようとするんだ?」


「いいからとりあえず着なさいよ」


「よくねぇよ!」


   秋吉の無茶苦茶な要求に抗議すると、秋吉は宮下のところに行った。なんかこそこそ話している。と、秋吉が宮下を連れてきた。


「あの…わたし、雅人くんが女の子の格好してるのみてみたいなぁ…なんてっ」


「! ほ、ほんとにみたいのか?」


   まさか宮下にまで言われるとは思ってなかった。


「う、うん!」


   宮下が首を縦に振りながら答える。秋吉を見ると…なんかおれ睨まれてるんだけど?


「…わかった。着てやるよ」


   …これよりもさらにひどいことになるかもしれないのでおれは折れることにした。なんでこうなるんだ…。


「これなんかどうだ?」


「さすがね須藤君。用意がいいわ」


   さっそく須藤がもってきた服を試着させられる。


「お兄ちゃんすっごく似合ってる! あははっ!」


「紀野。おまえって、そんな隠れた才能があったんだな…」


「雅人くん、かわいいよ!」


「さすがね、紀野君」


   みんないろいろ褒めているみたいだが、ちっとも嬉しくない。


「な、なんか足がスースーするな…」


   おれが今着ているのはワンピースだ。下半身がすーすーする…。


「じゃあ今から紀野君は、この格好のままお店をまわるわよ」


「は!?」


「すいませーん。これくださーい」


「えっ!? ちょ待てよおま…」




   おれにメイクを施すらしい。秋吉と宮下と未織は化粧品を買いに行った。その間おれは須藤といっしょに待つことになった。周りのお客さんやら従業員さんやらがチラチラこっちをみているのがとても気になる。


「…しかし本当は女だったとはな」


   半笑いでいう須藤。


「男だっつうの!」


「本当の自分をさらすのはいいことだぞ?」


「この格好で恥以外何をさらせと?」


「おまえ生まれてくる性別間違えたんじゃないか?」


「うるせえよ!」

   



   そうこうしているうちに、三人が戻っってきた。


「動かないでよ…」


   秋吉がおれに命令する。秋吉と宮下が交互にメイクを施していく。


「よし出来た! はい!」


「「お~!」」


   須藤と未織がおれの顔面を見て驚く。


「え? おれ今どうなってんの?」


   みんなが一斉に写メを撮りだす。


「撮るなぁ!」


   おれの制止の声も空しく携帯におれの画像が収められる。秋吉に至っては連写してやがる。


「で、おれ今どうなってるんだ?」


「紀野君にはみせないわ」


「は? なんでだ?」


「だって、そのほうがおもしろいじゃない」


「…おまえなあ」


  


   そのあともおれは女の子の格好のまま、みんなで建物内のゲームセンターにいった。遊んでいるとき、まわりの人たちの視線が痛かった。




「そろそろ帰る時間ね」


   秋吉がみんなに向けて言う。


「今日はすっごく楽しかったです!」


「そうだね」


「わたしも!」


「ええ、そうね」


   未織の感想に、須藤、宮下、秋吉の順に答える。


「…おれはどう言えばいいんだ?」


「雅人くんは、楽しくなかった…?」


「ま、まあ楽しかったけどよ…」


「じゃあ、帰りましょうか」


   そう秋吉が言って、みんな帰ろうとする。


「ところで紀野、その格好のままで帰るのか?」


「え?…ああ! す、すぐに着替えてくる!」


   須藤が気づいておれに言った。おれは近くの服屋さんにダッシュ。…慣れって恐ろしいな。


「あと少しだったのに…」


「秋吉! てめぇ覚えてろよ!」


   おれは急いで着替えて戻り、みんなで帰った。




   まったく…今日も散々な日だった。みんなでおれを女装させやがって…。だけど、なんだかんだ言ってもおれは、こんなやつらのいるところにいたいんだと思った。

これで紀野編はおしまいです。


自分の気持ちに気付いてないようにしました。

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