第3話
日曜日。待ち合わせの時間よりそれなりに早く公園についた。なんでおれはこんなにはりきってるんだろうな。
しばらく待っていると、宮下がやってきた。
「おはよう、雅人くん」
「よう宮下。…で、なんで秋吉までここにいるんだ!?」
「あら? 私がいっしょじゃ不満なの?」
「いや…そうじゃなくてだな…」
…なんで秋吉がいるんだろうな。この間は、私じゃだめなの、とか言ってた気がするんだけどな。
「お願い雅人くん。しずるちゃんもいっしょに行ってもいい? 三人の方がもっと楽しいと思うのだから…だめかな?」
「! …わ、わかったよ。宮下がそこまでいうんなら…混ぜてやってもいいぜ」
しまった…秋吉の同伴を了承しちまった…ってなんでおれは落ち込んでんだ?
「ほんとに!? よかったねっ! しずるちゃんっ!」
「ええ。ありがとう、加奈。…そして、チンチクリン」
「…てめぇやっぱつれていかねぇ!」
こいつ何しに来たんだよ。
「つれていってもらわなくても結構よ、勝手について行くから。最初からそのつもりだったし」
「このやろうぉ…!」
じゃあどうしておれに宮下を誘わせたんだよ! 意味わかんねぇし!
「な、なかよくしようよ二人とも~!」
その後、とりあえず行きたいところを考えながら三人で駅に向かった。すると秋吉が「ちょうどいいところに遊園地の割引券が―(棒読み)」とか言い出した。…ぜってぇこいつ最初から遊園地に行くつもりだったな。
「じゃあ、遊園地でいいか? 秋吉が割引券持ってるしな」
「うん、いいよ」
「加奈がいいならいいわ」
いや秋吉おまえ最初から行くつもりだっただろ。
それからしばらくして遊園地についた。
「うわぁ…人がいっぱいだね」
「そうね。人がゴミのようだわ」
「…よし、入るぞ」
「あら、スルー? つれないわね」
「いちいちかまってられるかっ!」
秋吉のしょうもないボケにいちいちツッコミをいれるほどおれも暇じゃない。
三人分のチケットをおれが代表して買う。園内に入ろうとしたところで秋吉に小声で話しかけられた。
「ちゃんと加奈を元気づけてね。じゃないとどうなるか…わかるわよね?」
どうなるのかわからなかったがおれは首を縦に振った。ほんとにこいつ何考えてんのかわかんねぇ…。
「どれにする?」
秋吉が地図を広げて宮下に尋ねている。
「じゃあまずは…コーヒーカップ!」
「えっ!? 最初にコーヒーカップにのるのか!?」
「嫌なら紀野君は来なくていいわよ。さあ行きましょう加奈」
「お、おいっ! ちょっと待てよっ!」
あれ? 誘ったのおれだよな?
コーヒーカップにのった後も、いくつかのアトラクションで遊んだ。
「ちょ、ちょタンマ! もう無理だ! 休ませてくれ!」
「何よ、男のくせに弱々しいしいわね。それでも運動部なの?」
「う、うるせぇよ!」
おれはもう疲れていた。少し休みたい。
「わたしはいいよしずるちゃん。それに、もうお昼すぎちゃってるし。わたし、おなかすいちゃった」
「そうね、わかったわ加奈。それじゃあ少し遅いけど、お昼にしましょうか」
「…なんなんだろうな…この扱いの差は」
とりあえず昼食をとるためにレストランや売店のあるところに向かう。歩いていると、秋吉が立ち止まった。
「ん? どうした?」
秋吉は向かっている方とは逆の方向を見ていた。
「いえ、気のせいだったみたい」
「?」
何か気になることでもあったのか?
「ふたりともはやく~!」
前を歩いていた宮下がおれたちを呼んでいる。
「おう」
「今行くわ」
「…なあ、ここにあったたこやきがなくなってるんだが…何があったか知らないか?」
「さあ…自分の食事に気をとられててよくみてなかったわ」
「わたしもみてなかったからわからないよ?」
………………………………………
「…そうか…じゃあ、おまえらのほっぺたについているソースはなんだ?」
「え!? …なぁんだソースなんかついてないじゃん驚かさ……あ…」
「やっぱり食ったのかよ! せめておれに一言ことわってから食えよ!」
「だって…おいしそうだったんだもん…」
「! …いやいやいやだからって勝手に食うなよ」
「うるさいわね。小さなことをいつまでもグチグチ言って、男らしくないわね」
「おまえも食ったくせして何言ってんだよ! ちょっとはあやまれよ」
「ゴメンネー」
「このやろぉ…」
「ご、ごめんね! 今度はちゃんと食べていいか聞いてから食べるから!」
「な、ならいいけど」
「紀野君のせいでせっかくの食事が台無しよ」
「おまえらがおれのたこ焼きたべるからだろ! しかもおまえもう自分の食い終わってるじゃねぇか!」
「さあ、食事もすんだことだし次はどのアトラクションに行く?」
「おい! おれまだ食べてねぇよ!」
「じゃあ、先に行ってるから」
「ちょ待てよ!」
たこやきが二人に食べられている間に頼んだものを急いで食べてから二人を追いかける
「そろそろ帰る時間ね」
秋吉が言った。空を見ると、日が傾きかけていた。そうか、明日も学校があるんだったな。
「それじゃあ、最後に観覧車にのろう?」
宮下の提案で三人で観覧車にのった。今日あったことを振り返って、おれはどっと疲れが増した。宮下は目を輝かせながら外の景色を眺めていたが、あいにくおれにはそんな余力は残っていなかった。ただ、宮下が元気になったみたいで、おれは今日の目的が達成されてよかったと思った。
帰りに、日が暮れているからと言って、おれと秋吉は宮下を家まで送った。
「今日はありがとう。とっても楽しかった! また、いっしょに行こうねっ!」
「ああ」
「ええ、そうね」
おれも秋吉も笑って答えた。
「じゃあ、また明日な」
「うん」
「おやすみ、加奈」
「おやすみ、しずるちゃん」
お決まりのあいさつを済ませて、おれは宮下の家を後にした。
………が、
「おまえ家こっちじゃねぇだろ、なんでいるんだよ」
「そんな! かよわい女の子に夜道を一人で帰れっていうの!?」
「どこがかよわい女の子だ! てめぇ有段者じゃねぇか! まあ確かにおまえといえど夜道に女子を一人にすんのは危ないな。けど、そんな理由じゃおまえはついてこないだろ」
「そうね。実は、今日のお礼を言おうと思ってね」
「いいよ別に…」
別にお礼言われるためにしたわけじゃないしな。宮下が元気ねぇのはおれも嫌だっただけだ。
「今日のたこやき、本当においしかったわ」
「そっちかよ! まさかそんなこと言うためだけについてきたのか!?」
「そうよ」
「ふざけんなぁああああああああああああああああ!!」
夜の静寂の中おれの絶叫がこだました。
あの後、秋吉は不敵に微笑んでからさっさと帰って行った。超うぜぇ…。それにしても疲れた…まさか遊園地で遊ぶという行為がこんなにも重労働だったとは…認識を改めないといけないみたいだな。そんなことを考えていたら、疲れがピークに達していたのだろう…おれは早々に眠りについた。
宮下視点にはなかったところも付け足してみました。