紀野雅人のいたいところ

第2話

「ふぁあ…」

　　　今日も朝から眠い。ときどきあくびをしつつ学校に向かう。少し先に宮下がいるのが見えた。

「おーいっ！　宮下ー！」

　　　思い切って声をかける。宮下は立ち止まって、振り向いた。軽く手を振って、宮下の側まで小走りに行く。

「おはよう、雅人くん」

「おう」

　　　側に行くと、宮下からあいさつをされた。一言返していっしょに歩きだす。走ってきたおかげで眠気も失せていた。そういえば、宮下は昨日なんでグラウンドにいたんだろうな。せっかくだし聞いてみるか。

「あのさ、おれ…宮下に聞きたい事があるんだけど」

「え？　わたしに？」

　　　宮下は不思議そうに聞き返した。

「昨日さ、宮下グラウンドにいただろ？　帰宅部なのに」

「えっ？」

　　　宮下が少し動揺したのがわかった。

「なんか用事でもあったのか？」

　　　とりあえず、当たり障りなく聞いてみた。

「ちょっとね」

　　　曖昧に返された。そんなに人に言えないようなことなのか？　やっぱりちゃんと聞くべきだな。

「どんな用事？」

「えっ？　そ、それは…」

　　　宮下は少し困った表情になった。どうやら宮下はさっきので話を切り上げたかったらしい。

「あ！　し、しずるちゃん！」

　　　宮下が、前を歩いていた秋吉に声をかける。秋吉は振り向いて、おれたちが来るまで待っていた。

「おはよう、しずるちゃん」

「おはよう、加奈。…と、どこのおこちゃまかな？」

「おれは子供じゃねぇ！」

「君いくつ？　お姉さん今飴もってるんだ。はい、あげるね」

「だーかーらぁ！　子供じゃねぇっつってんだろ！」

「えっ！？　そうなの！？　私よりもこんなに背が低いのに！？」

「いつもそう言ってんだろ！　毎回毎回人を子供呼ばわりしやがって…」

　　　なんなんだこいつはいつもいつも人を小馬鹿にしやがって！　こ・ど・も・じゃ・ねぇ！　って何度言えば気が済むんだ！ったく。

「あははっ！」

「わ、笑うなよ！」

　　　宮下に笑われてしまった。今のおれと秋吉の会話がおもしろかったみたいだ。おれはちっともおもしろくないんだけどな。

　　　そのあとも、一方的に秋吉にやりこまれるおれ。くそっ…なんでこいつはこんなに口が達者なんだよ！？　教室の前まで来たあたりで、宮下たちの前に出て二人を正面から見た。

「秋吉！　今度子供扱いしたらただじゃおかねぇからな！」

「私よりもうんと背の低い紀野君に、一体何ができるっていうのかしら？」

「うるせぇ！　おまえがでかいだけだろうが！」

「ま、まあまあ二人とも。しずるちゃんは男子と変わらないくらい高いけど、雅人くんだってわたしより高いじゃない」

「うっ……ぜってぇ秋吉の身長抜いてやるからな！」

　　　まさかの宮下からの遠回しな発言にうろたえるおれ。いじめかよ…。

「どうぞご自由に」

　　　できないとおもってやがる…くそっ…いまに見てろよっ！

　　　昼休みになると、秋吉がおれを訪ねてきた。

「紀野君、加奈が昨日グラウンドにいた理由気になる？」

　　　唐突になんなんだろうなこいつは。

「宮下に聞いたのか」

「ええ」

「まあ、おれが質問したときにあんなに動揺されたら、気にならない方がおかしいだろ」

「それもそうね」

　　　秋吉は含み笑いをしておれを見た。…何が言いたいんだ。

「いいわよ。教えてあげても」

「…おまえが絡んできた時点で、聞くのが不安なんだが」

「そう。じゃあ話すわね」

　　　おれの話聞いてないなこいつ。

「昨日ね、加奈は須藤君に気持ちを伝えて、ふられたの」

「は？」

　　　なんだそれ？

「…じゃあ、昨日おまえが須藤を連れだしたのは…」

「そう。加奈のところに来てもらうためよ」

　　　マジかよ。…そうか…だから、あの時須藤のやつ、少し様子がおかしかったのか。

「そこで、紀野君にお願いしたいことがあるんだけど」

「なんだよ？」

「加奈を励ましてくれないかしら？」

　　　なるほどな。本命はその話だったのか。

「いいけどよ…何すりゃいいかわかんねぇぞ？」

「そうね…遊びにでも誘ったらどうかしら？」

「いきなり誘うのか？　理由も無いのに？」

「そうよ」

　　　まったく…無茶いいやがる。

「まあ、それが一番手っ取りばやいかもしれないが…断られたらどうするんだ？」

「そのときは、私がなんとかするから問題ないわ」

　　　じゃあ、おまえが誘えばいいだろうが。

「おまえが誘えばいいんじゃないか？」

「私ではだめよ。だからあなたに頼んでるんじゃない。そんなこともわからないの？」

　　　こ、このやろう…！　人が親切に話を聞いてやってるってのによ！

「はいはいそうですか。おれが悪かったよ」

「じゃあ、今日の放課後に加奈を誘ってね？」

「は！？　今日！？」

「そうよ。善は急げっていうじゃない」

「マジでか…」

「じゃあ、よろしくね」

　　　用件だけおれに押し付けて、秋吉は教室を出ていった。

　　　放課後。帰る準備をしている宮下を見つけた。教室の入り口から宮下を呼ぶ。宮下はおれの方を見た後に、秋吉と少し話してから、おれのところまで来た。

「あ、あのさ…今度の日曜日…なんか予定あるか？」

「え？…別にないけど？」

　　　宮下はきょとんとした顔で答える。今さらだが、よく考えると女子を遊びに誘うとか何してんだろうなおれ。だめだ…意識するとうまく話せない。

「な、なら、二人でどっか遊びに行かねえか？　たまの休みくらい、思いっきり遊びたいしさ」

「え？　わたしと？」

「そ、そう、宮下と」

　　　明らかにろれつがまわってない。宮下は少し考えているみたいだ。

「うん、いいよ」

「え？　いいのか？　やったぜ！　じゃあ、日曜の朝九時に公園に集合な！」

「うん、わかった。　いつも集合に使ってるあの公園ね」

「そうそう。じゃあ今度な！」

「うん、じゃあね」

　　　宮下と別れてから、おれは部活に行った。みたか秋吉！　おまえの助けなんて必要なかったぜ！

　　　部活が終わって、今日は一人で帰る。まさか宮下が須藤を好きだったなんてな…。あいつのどこがいいんだか。まあ、見た目はそれなりだけどな。なんだか自分でもよくわからないイライラを抱えておれは帰宅した。

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謎がひとつ解けた！　という感じにしてみました。