勇者が高校生と入れ替わったら 7
♢告白と本音 俺様勇者視点
勇者ミカゲではなくなった元勇者。この現実世界では羽柴翔という名前だ。
しかしながら、不便な体だ。すぐ疲れるし息は切れるし重いものは持てないし……俺様の体を返せ。見た目もずいぶんキャラクター性の薄いどこにでもあるモブ顔だ。
とりあえず人の悪口ばかりしゃべる女とは別れた。秒速で断りを入れた。うんざりだ。なぜ俺様があんな性悪と付き合わなければいけないのだ。
「やっぱり友達に戻ろう」さらっと言えたぞ。
るみかという女も、そこまで羽柴には執着がなかったのか、しつこく言い寄ってくることも復縁を迫ることもなかった。むしろ私が付き合ってやったのに……とでも思っていたのかもしれない。
あれは以前よく話した、新城芽久美じゃないか? 俺様が主人公の漫画の原作を持っているではないか。これは主人公本人としてゲーム世界について語らなければな。
「その漫画好きなのか?」
背後から話しかけてみた。
「羽柴君、彼女さんに悪いから、気を遣わないで」
「別れたから彼女などいない」
「なんか羽柴君キャラ変わったよね。俺様キャラになったというか。この漫画の主人公みたい」
まぁ、主人公本人だからな。貴様、なかなか鋭いな。
「以前の俺がどうかしていただけだ。どのキャラが好きなのだ?」
まぁ俺様だろうな。主人公だし 勇者なのだから。
自信満々の俺だったのだが―――
「私は、ルマ女医かな」
なにぃ、あの女医のことが好きなのか?
そこはイケメン主人公じゃないのか? 少し動揺してしまった。
「本当は、ミカルマ推しなんだよね」
「なんだそれは?」
「ルマ女医と勇者ミカゲが恋人にならないかなぁって応援しているの」
どいつもこいつも余計な応援などしやがって。
「残念だがそれはない」
「残念だな。勇者ミカゲってかっこいいよね」
「そうだな」納得する俺様。
「でも、自分勝手というか、我が強すぎて付き合うのは大変そう」
「そうか? 意外といい奴かもしれないぞ。勇者だからな」
一応フォローしておかなくては。名誉のために。
「でも、羽柴君がこんなに話しやすい人でよかった。クラスの女子に馴染めなくて。話し相手もいなかったし」
美少女は微笑んだ。
最近、スマホから妙な光が出る。もしかして、無理に開いた扉のせいだろうか? 二つの世界のゆがみが発生しているのではないか? 不安がよぎる。
「私、羽柴君のこと好きだな」
それは突然の美少女からの告白だった。勇者のような恋愛に不慣れなタイプでも、彼女の寄せる好意には薄々気づいていた。いつも話しているときに、にこにこ笑っている新城のことは大好きだ。ただ、勇者にはライクなのかラブなのか、その気持ちは自身ではわからなかった。
自分がいた世界のアニメやゲームが好きだという彼女には親しみが持てたし、断る理由は思いつかなかった。
「俺も貴様は好きだな……ひとつ話しておきたいことがある」
そう言うと、勇者はスマホを彼女に見せた。
信じてもらえないかもしれないけれど――自分はゲームの世界の人間で、中身のみ入れ替わっているという事実を伝えた。
彼女は最初こそ驚いた顔をしたが――
「以前と性格が違うのは、そういうことなのか」と納得した。
意外だが、不思議な話を信じる天然系らしい反応だともいえる。
「ねぇ、何度も1からゲームが始まったり、何度もやられたりするゲームキャラクターは理不尽なもの?」
「いちいち気にしていられないさ。何度ループしようとそれがさだめだしな。リセットできることは割と便利なものだ。こちらの世界の人間はリセットできないから大変だろうな」
「たしかに、私たちは不便かもしれないね。その発想、やっぱり勇者って面白い!」
ささいなやり取りだったが、なんとなく、二人の距離が近づいたような気がしたのだ。