セバスと歩むケチケチ令嬢の異世界探索
私はケチケチ令嬢。決してツンデレではございませんの。
ツンデレなのは寧ろ、あれこれ口を挿みつつ、こうして私が物語を読んでいる時でも傍らに寄り添うこのセバスでしょう。
私がまだ読んでいる途中だというのに、早く次のページと主である私に向かって指図したかと思えば、読み疲れたと瞳を閉じる。
この穏やかな温もりを齎す時間でなければ、太々しい従者にガツンと言ってやりたい所ですわ。
ですが、最近私を悩ませているのはセバスだけではありません。
私の旧友がよくある貴族の陰謀によって憂き目に遭い、行方を眩ませてしまったのです。
高位貴族としては珍しく意見の合う方で、とても親しくして頂いておりました。
国一番の美貌と謳われたそのお姿は気高くも可憐で、勿論人の恨みや妬みも買うでしょうが、それ以上に多くの方から好かれる女性でした。
それがまさかあのような事態になるとは……。
自らの非力さをあれ程悔いたこともそうないでしょう。
私の魔法はある面に特化し過ぎていて、非常に用途が限られてしまっています。
自分で言うのも憚られますが、素晴らしい魔法の才であることは確か。
ですが、もう少し融通が利いて欲しいというのもまた、確かな私の気持ちですわ。
そんな私の無聊を慰めるように、私は今日も魔法を使って世界の図書館へとアクセスします。
かのアカシックレコード。
その足元程度には匹敵するであろう厖大な物語の数々を実らせる大木、世界樹。
現地人たちからは『よろう』などと呼ばれているようですわね。
そんな物語が幾重にも紡がれる世界の中枢で、私の心を射止め……コホン、私としたことが間違えましたわ。私の心にかすった物語たち。
私はいつも仕方なくポイントを入れて差し上げているのですが、それでも途中で更新が途絶えたままの作品が如何に多いことか。
「悩ましいですわ」
数十ポイントではやる気が持続しないのも無理からぬこと。しかし、私一人のポイントには限界がありますの。
私の魔法に、貴族である私の鶴の一声の2つがあれば、数百や数千ポイント程度、実に容易いことではあります。
ですが、一人の読み手、そして一人の書き手として、やはり作品に感銘を受けた上で評価して欲しいというのは我が儘でしょうか。
「悩ましいですわ」
言いながら、今日も無数に枝分かれする世界樹から落ちた実で埋もれた大地──図書館を巡ります。
恋人との甘く刺激的な日々を紡ぐように、実って落ちたばかりの物語や既に芽や花を咲かせている物語を観賞して読み耽り、まあまあの出来に仕方なくポイントを投下。
この私から☆5を貰おうなどと、思い上がらないで頂きたいものね。
ブックマークだって、後でまた読みたくなった時に便利だから付けているに過ぎませんのよ?
これによる2ポイント追加はシステム上、已む無くですわ。それが目的ではないのですからね。勘違いしないで下さいませ?
それに☆5を入れたら、まるで私があなたの物語に身も心も満たされ、読後の余韻にとても他人様には見せられないような顔して浸っているようではありませんの。
私、そんなに安い女ではなくてよ。
色鮮やかに色彩を変える余韻。その虜になっている至福のひと時を邪魔しないで頂きたいものね。
それが淑女に対する礼儀と言うものですわ。
あら? どうしましたのセバス。そんな狐につままれたような目でこちらを見て。
食事の時間? 確かにそうですわね。思わず時間を忘れてしまいましたわ。
まあ、いつものことですわね。紅茶もすっかり冷めてしまいました。
しかし、この冷めた紅茶を飲むと、どれだけ私が書き手の創り上げた物語に夢中になっていたかがわかるというもの。
フフフ、思わず勝者の微笑みを浮かべてしまいますわ。
冷めた紅茶を手に、想い焦がれるようにそっと頬を上気させる令嬢の私。我ながら絵になりますわね。
何処かの従者は冷めた視線を送ってくれているようですが。全く、躾がなっていませんこと。
そんな従者は放っておいて──。
この書き手の方、物語を読まれた上でポイントが増えていて嬉しく思ってくれるといいのですが。
書き手はアクセス解析で、その作品が何時にどれくらい読まれたかを把握できますからね。
これが一通り読まれたようなのに1ポイントも増えてないとなると、本当にがっくりしますから。
物凄く読まれている作品ならとても誰がどうこうなど追いきれませんが、零細作家は悲しいことにその辺はっきりまるっとわかってしまいますのよ。
何せ読まれませんものね!
1話2話で切られたなら諦めもつきますが、一通り読んでおいて1ポイントもないなど、いったいどういう了見ですの!
ふぅ、つい熱くなってしまいましたわ。
ケチを体現したような気高き令嬢である私としたことが……いえ、皆様もお分かりになられたでしょう?
そんな私でさえ取り乱させる魔性、それがポイントというものなのです。
読めたのであれば100ポイントもない作品にはとりあえず入れて差し上げなさい。
それだけでも、ジャンルによっては人目に触れる数が段違いなのですわ。
中にはとても読めない作品、合わない作品もあるのですから。
読めたというだけで、その作品には価値があるのです。何かしらあなたの糧になっているのですわ。
え? 感銘を受けた云々は何だったのかですって?
お黙りなさい。作品は読まれてこそなのです。
ビギナーたちは例えその辺の二番煎じ三番煎じのランキング作品であろうと、同調圧力も手伝って高い点数を重ねることでしょう。
はっきり言って私の作品の方が面白いですわよ?
このくらいの自負は、口には出さずとも書き手の皆さんであれば誰しも持っているでしょうね。
ですがだからと言ってビギナーたちを責めるのは酷と言うもの。それにランキングに載れば、お世話になるに違いありませんものね。
ですから、そんなランキング外の埋もれた物語に星の光を当てるのは私たちスコッパー、エキスパートの役目なのですわ。
自分の好きな作品を増やすには掘って、掘って掘って掘りまくるのです!
そうすれば、気づけば周りにホッと一息つけるような温泉宿や、眩いばかりの金鉱山、癒しのもふもふ空間にスリリングな映画館といった華々しい楽園が出来上がっていることでしょう。
そんなこんなで優雅な食事を終え、私は再び数多の物語を実らせる世界樹のもとへと、セバスと共に飛び込んで行く。
おや? 実が落ちるのを今か今かと待ち望んでいる者たちの気配が視えますわね。
フフ、私もたまにありますわ予約投稿待ち。待ち切れませんのよね、わかりますわその気持ち。
賑わうその地を通り過ぎる。尤も異邦人である私とは位相がずれているので、彼等にはわからないでしょう。
この視点の共有も、今となってはセバスのみ……。
……少しだけ、寂寥感を覚えてしまいますわね。
人目に触れるか触れないか、ポイントに大きく左右されるなかなかにシビアな世界。
道案内の検索に頼ろうにも、これも慣れないと意外と目的のものを見つけるのが難しい。
中には保険で入れてるがために、検索から外れてしまうキーワードまである。
書き手の親切心が、書き手の首を絞めている。皮肉ですわね。
ヒットする検索ワードで見つかり易くするためにも、やはりポイント投下は必要不可欠ですわ。
まあ私程の使い手となれば、全く問題ありませんことよ。
さながら重力の如く引き寄せる総合ポイントの引力に抗い、幾重にも検索条件を展開していく。
釣果が今一つな時は、世界樹の中にあるホームに戻ってお気に入りである皆様方の情報を見て回るのもいいですわね。
どうセバス? 何か気になるものはあったかしら?
「みゅー」
小さな白い体躯から生やした5つの尾の一尾を使い、気になる点を指し示すセバス。
セバスはポメラニアンの見た目でありながら狐のような尻尾を5つ持つ、鳴き声も独特なもふかわ生物ですわ。
あまり構い過ぎると離れたがるし、かと言って放っておいてもいじけるので扱いが難しい。猫ですかあなたは。
全く、誰に似たのでしょう。
「なになに、『書籍化! ~追放のみならず本にされた悪役令嬢。誰か、私を読んで下さい~』?」
ほう、書籍化とは、これだけでもそれなりのものであることが予想できますわね。
ですが、私はケチケチ令嬢。この私から☆5を貰おうなどと、思い上がらないで頂きたいものね?
しかも令嬢ものには、私些かうるさいですわよ?
ねえファーブラ? またあなたと一緒に、物語について語り合いたいですわ。
自作、『書籍化! ~追放のみならず本にされた悪役令嬢。誰か、私を読んで下さい~』と世界観はたぶん一緒なので、気になった方はそちらもどうぞ。
この作品は空野 奏多さん主催『ブルジョワ評価企画』の参加作品です。
簡単に言うと──
<主題>
『ポイントの大切さ』を訴える面白い作品であること。
<注意事項>
・参加作は必ず『ポイントの大切さ』が分かる作品であること。
「ブルジョワ評価貴族」を増やそう!
──という企画です。気になった方は下にあるリンクからどうぞ。
企画誕生のきっかけとなったエッセイの感想で、偶然生まれた令嬢をせっかくだから使ってみました。上手く過去作と繋げられたかな~。どうでしょうね(^_^;) 読者の方に楽しんで貰えたら幸い。