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先輩、卒業試験は告白ですよ

『後輩ちゃんの恋愛講座』第九話です。


後輩から出た卒業試験の言葉。

その告白は誰に向けられるのか?

そしてその結末は!


それでは第九話『先輩、卒業試験は告白ですよ』お楽しみください。

 小料理屋での後輩との飲み会。

 日本酒に切り替えたあたりから、こいつは勉強のことを言わなくなった。

 穏やかな時間。楽しい。


「いやー先輩! 日本酒、美味しいですねー!」

「あぁ、そうだな」


 日本酒は三本目。俺の方が多めに飲んでいるけど、こいつも半合は飲んでるな。

 クリスマスの時も酔い覚ましって言ってた割にはしっかりしてたし、結構酒強いんだな。


「今日の水族館もよかったですし、このお店もすごくいいですし、先輩の成長が嬉しい限りですよー!」

「そんなに褒められると後が怖いな」

「クリスマスにベンチで一人泣いてた人とは思えないですねー!」

「ほら来た上げて落とすやつ!」


 けらけら笑う後輩。俺もつられて笑う。

 もう思い出しても辛くない。

 からかわれても笑って返せる。

 麗の顔を思い浮かべても、バカだったなと笑って流せる。

 最初は弱みを握って脅しをかけてくる嫌なやつかと思ってたけど、何の得もないのに俺の女慣れに付き合ってくれたこいつのおかげだな。


「ビールもお酒も、苦手だったらと思って少なめに注いでくれましたよねー! ああいうのポイント高いですよ!」

「楽しく飲みたいしな」


 お猪口を空けると、さっと徳利を持って注いでくれる。


「お前こそ女子力高いじゃん」

「え? えへへ、そうですかね?」

「お前に注いでもらうと、何か酒うまいしな」

「そ、そうですか? えへへ……。じゃあもう一杯注いじゃいますね」

「いや、今注いでもらったばかりだから」


 いつになくご機嫌だ。

 いつもこんな感じならいいのに。

 女慣れの勉強はためになるけど、緊張し続けるから疲れるんだよな。

 今日の会話待ちの秒読み、夢に出ないといいけど。


「これだけ成長したら、そろそろ卒業試験ですかねぇ」

「卒業試験?」

「えぇ。と言っても基礎課程の修了といったところで、この先先輩自身が工夫していく必要はありますけど」


 これは何としてもクリアしたい!

 そうしたら会話や行動の一つ一つに、神経を張り巡らせないといけない時間は終わる!

 それにクリアすれば、女慣れとか関係なくこいつと遊びに行けるだろうし。


「よし、何をやればいいんだ?」

「告白ですね」

「告白か……」


 確かにそれは卒業試験にふさわしい。


「私相手にお付き合いを求める告白をして、オッケーしたくなったら合格です」

「よし、わかった」


 三本目の酒と一緒に頼んだ水をぐいっと飲み干す。

 後輩の目を見て、……えっと、こいつ、名前何だっけ?

 確か、あか、あか……。


「……あ、赤井」

「赤須です」


 初っ端からやらかした!

 いつも『お前』とか『後輩』とか『こいつ』で済ませてたツケが来た!


「ご、ごめん!」

「いいですよ。薄々覚えてないんじゃないかと思ってましたし」


 冷静な言葉が怖い!

 怒ってくれた方が謝りやすいのに!


「改めて……。赤須、お前のことが好きだ。付き合ってくれ」

「……」


 沈黙。


「……どう、だ?」

「いや、えっと、あの、まず、すぐに聞き返しちゃダメです。沈黙が辛いのはわかりますけど、ちゃんと相手が答えるまで待ってください。急かされると『じゃあノーで』となりかねません」


 しくじりが重なる……。


「それと、まぁ、何というか、直球すぎますね。悪くはないんですけど、相手によっては物足りなさを感じたりするのではと、はい」

「物足りなさ、か……」


 そうか。どこが好きとか、ちゃんと伝えないとダメだよな。

 何としても盛り返さないと!


「まぁ評価としては合か」

「俺は赤須の優しいところが好きだ」

「ぅ」


 赤須の目がまん丸になるが気にしない。見つめたまま続ける。


「クリスマスイブの夜、落ち込んでた俺を励ましてくれたこと、これ以上だまされないようにと色々教えてくれたこと、そのために休みも俺に付き合ってくれたこと、心から感謝してる」

「あ、あの、先輩……」

「それに色んなことを知っていて、本当に頼りになる。赤須が側にいてくれるとすごく心強い」

「先輩、待って……」

「もちろん頼るだけじゃなくて、俺も赤須の力になりたい。お互いに助け合って高め合っていきたいと思ってる。だから俺と付き合っ」

「ストップ! ストップです!」


 強引に止められた……! これでもダメか……!


「せ、先輩? 一体、何を……!?」

「何をって、物足りないっていうから、赤須のいいところを挙げて、告白に説得力を持たせようと思って」

「あー、そう、ですか……。発想は、うん、発想はいいんです。間違ってはいないんです。でも今話したエピソード、私にしか効かないじゃないですか」

「あ」


 言われてみればそうだ。

 赤須のいいところと実際の告白の場面は別物だ。


「……考えてみれば、告白は特定の相手を想定しないとできませんでした。なので卒業試験は保留です。先輩に好きな人ができたら再試験です」

「……マジかよ」

「私も疲れました。今日はもう勉強は終わりです。飲みましょう」

「……あぁ」


 酒を注がれながら溜息をこらえる。

 あの厳しい日々からようやく解放されると思ったのに……。

 それに赤須にもやりたいことや楽しみもあるだろう。

 俺に構ってそれができなくなるのは申し訳ない。

 早いところ合格しないとな。

 あ、そのためには好きなやつ作らないといけないのか。

 そんな簡単にできたら苦労はねぇよ!


「では先輩の留年を祝して、乾杯」

「縁起でもねぇな!」


 先行き不安な気持ちを抱えたまま触れ合ったお猪口の音は、それでも変わらず澄んで響いた。




 どこで何を間違えたんだろう。

 お酒の勢いで適当な試験をクリアさせて、この関係をリセットして、一からって思ってたのに。

 あんな真っ直ぐ見つめられてのド直球、耐えられるわけない!

 名前間違えられてなかったら死んでた!

 それでも何とか立て直したのに、今度はあの誉め殺し!

 しかも素だし! お世辞とか抜きでそう思ってる顔だったし!

 ……頼りにしてくれてるんだ。

 テンパってるの隠すのに必死で変なテンションになっちゃって!

 それを先輩は酔っ払ってるものと勘違いして優しくて!

 家まで送ってくれて!

 危うく「上がって行きますか?」って言いそうになって!

 ……もう、来週からどんな顔で会えばいいんだろう。

 お姉ちゃん達や友達から仕入れた恋愛テクニックもほとんど教えちゃったから、次会う時までに何か考えておかないと……。

 むしろ私が教えてほしいよ……。

 予定を確認するために、カレンダーを眺める。

 冬が終わり、春がもうそこまで来ている……。

読了ありがとうございます。


短編版ではここまででした。

いよいよここから新エピソード!

もう教えるネタがないと悩んでいた後輩は、何を思い付くのか!

そして胸に宿った恋心の行方は!?

ぶっちゃけハッピーエンドしか考えていませんが!

次回もお楽しみに!

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