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先輩、お酒は楽しく飲むものですよ

『後輩ちゃんの恋愛講座』第八話です。


デートは小料理屋に場面を移して二次会に。

お酒は二人の関係にどんな影響を与えるのか?

先輩のもてなしはお礼になり得るのか?

後輩は卒業への策を実行できるのか?

側から見たら単なるカップルのやり取りにしか見えないぞ!


そんな第八話『先輩、お酒は楽しく飲むものですよ』お楽しみください。

「これは、何というか、店構えからしていいですね」

「いいよなこの店」


 案内した小料理屋の佇まいに、後輩は満足そうにうなずいている。

 とりあえず店のチョイスは正解か。

 のれんをくぐり、案内されたボックス席に座る。


「何か食べたいものあるか?」

「お刺身ですね」

「水族館の後に刺身って、お前……」

「でも先輩だってマグロの水槽見ながらぼそっと『うまそうだな』って言ってたじゃないですか」

「聞いてたのかよ」


 俺の返しに後輩がくすくすと笑う。


「じゃあ刺身の盛り合わせは頼もう。飲み物はどうする?」

「先輩は?」

「最初はビールかな」

「じゃあ瓶にして半分こしましょう」

「うん、いいな」


 注文すると、すぐに瓶ビールとグラスが二つ運ばれて来た。


「どれくらい注ぐ?」

「えっと、じゃあ半分くらいで」

「あいよ」


 こいつ甘党だから、ビールはあんまり得意じゃないだろう。

 少なめに注いで、と。自分にはたっぷり……。


「あ、先輩、手酌で……」

「ん? あ、悪い。一人飲みのくせで」


 しまった、減点か?


「……次は注がせてくださいね」

「あぁ、頼む」


 よかった。セーフか。


「……じゃあ、乾杯です」

「乾杯」


 苦味と炭酸が喉をうるおす。やっぱりビールはうまい!

 昔は苦いだけの飲み物と思っていたけど、サークルの飲み会で行った飲み残し厳禁の店で、余ったピッチャーを根性で飲み干してから、すっかりビールに慣れた。

 ビールは喉で味わうというのは本当だと思う。


「じゃあ、先輩」

「おう、ありがとう」


 後輩が注いだビールを口に含む。

 何だかさっきよりうまい気がする。


「お通しはおでんか」

「おいしそうですね」


 これがまたビールに合う!

 辛子をつけたさつま揚げのうまさよ!

 はんぺんは自家製らしい。ふわふわだ!

 ゆで卵は苦手なのに、おでんのはなぜか好きだ。

 そして出汁の染みた大根!

 俺の中のおでんの主役はこいつだね。


「うまい! やっぱりおでんのキモは大根だな」

「わかります。おでんは大根に始まり大根に終わります」

「お前もそう思うか!」

「もちろんです。あらゆる具から出た旨味が溶け込んだ出汁。それを吸収した大根は、おでん鍋そのものと言っても過言じゃありません」

「通だな。出汁を飲むだけじゃ違うんだよな」

「そうなんですよ。出汁をたっぷり含んでるはずのがんもどきでは何か違うんですよね」

「あれはやけどしない食べ方がわからない」

「冷めないですよね、あれ。私もしょっちゅうやけどします」


 そんなことを話しているうちに、刺身の盛り合わせが卓に降臨した。


「お刺身、すごいの来ましたね」

「マグロ、ブリ、サーモン、甘エビ、イカ、タコ、お、ウニまであるぞ!」


 こうなったら日本酒だ。


「俺は日本酒頼むけど、お前どうする?」

「ん〜……。ちょっとだけ飲んでみたいです」

「じゃあすみませーん! 日本酒の『酔鰹よいがつを』をお猪口二つで!」


 運ばれて来た徳利。

 取ろうとすると、後輩に先に取られた。


「先輩、どうぞ」

「お、さんきゅー。じゃあお返し」

「あの、少しにしてくださいね」

「わかった」


 感じからして、日本酒も飲み慣れていないだろう。

 お猪口の半分より少ないくらいに注いでおく。


「乾杯」

「乾杯」


 お猪口が触れ合う。

 この陶器が出す、きんって音が好きだ。


「あ、美味しい」

「そうだろう。高知のお酒で、魚にめちゃくちゃ合うぞ」

「どれどれ……。ん〜〜〜!」


 ほっぺを押さえて悶える後輩。刺身との組み合わせはクリティカルだったみたいだな。


「このお酒とお刺身の組み合わせ、すごい美味しいですね!」

「んふふ、だよな」


 いつも教わるばかりだから、こいつに何か教えて、しかも喜んでくれてるのが地味に嬉しい。


「……もうちょっともらってもいいですか?」

「おぉ、もちろん」


 空になったお猪口に、さっきより少し多めに酒を注いでやった。




 やられた……。

 先輩のことだから、チェーンの安居酒屋だと思っていたのに。

 落ち着いた趣のある店構えに、私の思考は乱された。

 高そう……。そう思った私は、飲み物を節約しようとビールのシェアを提案した。

 そうしたら先輩は、私がビールにあまり慣れていないと思ったのか、少なめに注いでくれた。

 思わぬ気遣いに、手酌を注意することもできなかった。

 更にお通しにお刺身に日本酒で、完全に先輩のペースになってしまった。

 焦るべきはずなのに、何とも言えない心地よさ。

 張り詰めていたものが緩んでしまっている。

 少し前までこうなることを恐れていたはずなのに、今はなぜそう思っていたのかわからない。

 変わったのは先輩? それとも私?

 ……考えるのは帰ってからにしよう。

 今はこの幸せな時間を思いっきり楽しみたい。

読了ありがとうございます。


勉強名義で来ましたが、ただの飲み会ですね。

だ が そ れ が い い !


さて後輩の張り詰めていたものが、お店の雰囲気と料理とお酒で緩んでしまいました。

果たして緊張感を失った後輩はどうなるのか?

次回、恋愛講座の卒業試験!

お楽しみに!

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