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先輩、デートは待ち合わせから始まっているんですよ

『後輩ちゃんの恋愛講座』第三話です。


カラオケ編を書こうとしたら、待ち合わせで一話出来上がった謎の回です。

でもタイトルを変えたらそれらしく見えるから不思議。


それでは第三話『先輩、デートは待ち合わせから始まっているんですよ』お楽しみください。

 土曜日の駅前は、ひっきりなしに人が行き来している。

 大抵は誰かと楽しそうに話しながら、うきうきした様子で通り過ぎていく。

 そんな中、一人でベンチに座って待つというのはなかなかの苦行だ。


「おっせぇな……」


 もう何度目か分からない携帯のチェック。

 新着メッセージはなし。

 流れで履歴をさかのぼって日時を確認。

 何度確認しても、待ち合わせは今日この場所。

 待ち合わせ時間は十五分前だ。


「……っ……」


 催促のメッセージを送ろうと思って、やめる。

 これも何度目か分からない。

 女慣れの一環として、今日カラオケに行こうと誘って来たのは後輩だ。

 ここで「まだか」と催促すると、何か俺が行きたくて仕方がないみたいで恥ずかしい。

 急かすのも何か悪いし。

 ……まさか事故とかじゃないよな。

 あと五分、五分待って連絡がなければ、


「せーんぱい!」

「!」


 後ろから声をかけられて、慌てて携帯を落としそうになる!

 何しやがる! びっくりするだろ!


「待ちました?」

「待ったわ! 連絡くらい入れろよ!」

「ぶぶー。減点です」

「は?」


 胸の前に大きなバツを作る後輩。何が減点だ?


「連絡なく待たせる、それは確かによくないことです。でも何か事情があったらどうです? 来る途中友達からの深刻な相談を電話で受けてたら? 迷子の子を交番に連れて行ってたら? 大荷物のお婆さんを手伝ってて両手がふさがっていたら?」


 う、確かに頭ごなしに責めるのはまずかったか……。


「たとえそれが寝坊とか忘れてたとか、相手が明らかに悪い場合でも、デートだったらそこから楽しい時間が始まるんですよ? 怒るのはマイナスにしかなりません」


 た、確かに……。

 クリスマスにキープ扱いされていたことに気付かなかった俺には、こいつのアドバイスは耳が痛いがためになる。


「……怒って悪かった。でも不安になるから連絡はしろよ」

「不安ですか。ネガティブな先輩のことですから、私が誘うだけ誘ってすっぽかすとか思ってたんじゃないですか?」

「えっ?」

「えっ?」


 ……そんな可能性、考えもしなかった。


「……思いもしなかったって顔ですね」

「……」

「……そうですか。へぇー」


 ぐっ、悪かったな! クリスマスから学習してなくて!


「じゃあ何が不安だったんですか?」

「……事故か何かかと心配になったから」


 ぽかんとする後輩。


「……心配、してくれてたんですね」

「当たり前だろ」


 意外そうな顔するなよ。俺が最低な奴みたいじゃないか。


「……ふむ。心配がゆえに怒った、と。それなら減点はチャラですね」

「……あーそうかい」


 謎の上から目線に怒る気もなくなった。

 それに女慣れのためとはいえ、休みにカラオケに行くんだから、怒るより楽しんだ方がいいよな。


「ま、無事に合流できたんだから、よしとするか」

「そうです。その感じです。わざと遅れてきた甲斐があるってもんです」

「お前な……」

「あ! さっきのおねーちゃん!」


 胸を張る後輩に駆け寄ってくる男の子。幼稚園、くらいか?


「おかーさん! このおねーちゃんがおままりさんのとこにつれててくれたの!」

「あ! どうもありがとうございます! ウチの子がお世話になりました!」

「あ、その、いえ、無事に会えて良かったです!」


 え、こいつ、何、マジで迷子交番に連れてって遅れたの!? 言えよ!

 ……あー、でも素で聞いたら言い訳にしか聞こえないか。


「本当にありがとうございます! あの何かお礼を……!」

「そ、そういうのいいので、気にしないでください! 先輩、行きますよ!」

「お、おう……」

「おねーちゃん、ばいばーい!」

「ありがとうございました!」

「バイバイ! 失礼します!」


 手を振る男の子と、頭を下げる母親から、逃げるように歩き出す。

 う、腕をつかむな! 何でこいつこんなに慌てて……。もしかして……?


「何お前、迷子を助けたの照れてんの?」

「デリカシーのない発言は減点対象ですよ!」


 口調は厳しいが、顔が真っ赤だから照れ隠し以外の何にも見えない。


「お前、いい奴だな」

「十点減点!」


 って! かなり思いっきり肩を叩かれた。

 女とか意識せず、遠慮のない感じで話せって言ったのはお前じゃないか。

 若干納得がいかないが、耳まで真っ赤になっているのをこれ以上いじるのも可哀想だ。

 早足になる後輩を追いかけて、カラオケBOXへと入った。




 うぅ〜! 何であのタイミングで!

 いや、お母さんと合流できたのがこの目で確かめられたのは良かったよ!?

 でも先輩をごまかせたと思った矢先にあれは!

 メチャクチャからかう笑顔で見てきたし!

 教える立場なんだからクールでいたかったのに……!

 ……落ち着こう。大丈夫。

 見た目は良くなったし、気軽に話してくるようにはなったけど所詮は先輩。

 クリスマスイブの煌めき涙の写真を見て深呼吸。

 よし。大丈夫。

 ドリンクバーの飲み物を持って、私は部屋に戻った。

読了ありがとうございます。


十年以上前、職場の上司に、延長の時間すら超過して悪びれない保護者への不満を話したところ、「子どものお迎えが遅れた時には、親御さんに一番都合の良い妄想をしなさい」と教えられました。

電車の遅延、職場のトラブル、迷子や救助、何でも良いと。

そう妄想した時に出る言葉は「何で遅れたんですか?」ではなく「お疲れ様でした!」になる。それを続けるように、そう言われました。


何のこっちゃと思いながら、言われた通りにしていると、その方は三ヶ月経たずに時間より前にお迎えに来るようになりました。

責められると反発心も湧きますが、責められなければ自分の中の罪悪感から反省する、そう言う事もあるのだなと感じました。


逆に気にしいな人には、軽めの罰(ジュース一杯とか)でチャラにしてあげると良いそうです。


恋愛に限らず、ためになるようでためにならない、ちょっとだけためになるラブコメ。

次話もよろしくお願いいたします。

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