先輩、恋愛は見た目ですよ
『後輩ちゃんの恋愛講座』第二話です。
短編版では恋愛講座と改題しつつも講座っぽい内容がなかったので加筆しました。
後は大体一緒です。
クリスマスから時は移って年明け。
先輩は後輩の指示に従って、見た目を変える事は出来たのか?
それでは第二話『先輩、恋愛は見た目ですよ』お楽しみください。
年始明けの学校に行く、俺の足取りは重かった。
「……ねぇ、ちょっと……」
「……わ、マジ……」
周りの視線とひそひそ声が痛い!
「何の罰ゲームだよこれ……」
発端は去年のクリスマスイブの夜。
彼女だと思っていた女が、他の男とデートしていたのを見て、一人公園で泣いていたのを後輩に見られ、散々にいじられた。
更に自分はキープに過ぎないと思い知らされ、捨てるしかなかったプレゼントのマフラーを受け取ってもらえて号泣した。
しにたい。
挙句、女に対する免疫を鍛えると言って、翌日交換したメッセージから送られてくる、髪型や服装についての指示の数々。
撮られた涙の写真をバラされそうで逆らえず、言う通りにして来たけど、俺にはこういうの似合わないよんだよ……。
「せーんぱい!」
「!」
悪魔の声! 振り返るとそこには、
「ちゃんと言った通りにし、て……」
目をまん丸にして固まる後輩がいた。
「お、おう、おはよう……」
「……」
返事がない。ただのマネキンのようだ。
「ど、どうした?」
「え、あ、いえ、思った以上だなって……」
わかるよ! 似合わなさがだろう!?
髪を切ったのはいいけど脱色なんて初めてしたし、服もタイトなの買わされたし、靴まで指定されるとは思わなかった!
マネキンそのままお買い上げみたいな格好悪さ!
それに耐えてきたのは恥を隠すためだったけど、逆に傷口広がってないかこれ!?
「なぁ、もういいだろ? 罰ゲームはこれで終わりでさ……」
「……罰ゲーム? そんな風に思ってるんですか?」
うわ、後輩の目が怖い!
「恋愛の基本はまず見た目ですよ。それを改善せずして何が女慣れですか」
「見た目って、身も蓋もない……」
「事実です」
「だったら俺みたいな顔じゃ何したって無駄だろ?」
「違います!」
うわぁ! 圧がすごい!
「顔立ちがどうこうも確かに一つの大きな要素ですが、清潔感やおしゃれ感のある服装、つまり女の子と仲良くする気があると言う意思表示がないと、きっかけすらつかめないんですよ」
「み、見た目で判断するなんて、そんなの本当の恋愛とは……」
「クリスマスの彼女は、好みの見た目じゃなかったんですか?」
「がっ」
胸の傷が痛い痛い!
「例えば、これから就職の面接があるとして、先輩はジャージで行きます?」
「いや、それは流石に……」
「なぜですか?」
「……そんなの面接前から落とされるだろ」
「その理屈が恋愛にも適用されるんですよ。ありえない格好をしている人は、内面を見るまでもなく落とされるんです」
「んなっ!」
言われてみれば、確かにそうだ……。
「内面を見て好きになってほしいなら、まず見た目です。とりあえず最低ラインはクリアしましたから、後は……」
「だ、だけどこの格好は本当に合ってるのか!? こんなに周りから見られて、ひそひそ言われて……!」
「それは先輩が……、あぁ、そうか。根が深いのか……」
何やらぶつぶつ言っている。今のうちに……!
「じゃあ俺はこれで」
「待ってください先輩」
にっこり笑う後輩に腕をつかまれる!
「な、何を!」
「免疫付けるって言ったじゃないですか。これぐらいのスキンシップで動揺してるようじゃまだまだですよ」
普通女の子に腕つかまれたら動揺するだろ! 違うの!?
「先輩、一限何ですか?」
「……社会学総論」
「私は基礎心理学です。校舎は?」
「……文II」
「私もです。じゃあ一緒に行って、授業後文IIのカフェで落ち合いましょう」
うそ! 校舎までこのまま!? そして授業後も!?
「勘弁してくれよ……」
「また女にだまされたいんですか?」
ぐあ! 傷口をえぐるなぁ!
「……わかった」
「もう、こんな美少女と一緒に歩けるんですから、もっと喜んでくださいよ」
「自分で言うか普通!?」
「あぁその感じです。女の子と意識しすぎず、普通に話していった方が好印象ですよ」
後輩の言葉に少し緊張が緩む。
そうか、彼女とかその先とか考えるから変に緊張するんだ。
後輩は先生。教わることはあっても恋人にはならない。
そう思えば今まで通り接することが出来そうだ。
「そういやお前も髪型変えたんだな」
「お、髪型の変化に気付くの、ポイント高いですよ。そこに褒め言葉を付けるともっといいです」
「えっと、明るくなった感じで似合ってる」
「……」
無言はやめて! ちゃんと評価して!
「それがとっさに出るようになるといいですね」
悪くはないようだ。良かった。
「じゃ先輩、後ほど」
「あぁ、またな」
腕が解放される。手を振って教室に消える後輩。
情けない俺ににここまでしてくれるなんて、ホントいい奴だな。
カフェでは何かご馳走してやろう。
何あれ何あれ何あれ!
私のメッセージにあんなに素直に従って、しかも想像以上に似合ってる!
周りもそりゃ見るよ! 噂もするよ! イケてるもん! 格好いいもん!
後はあの低い自己評価が何とかなれば、彼女の一人や二人簡単に出来ちゃうんだろうな……。
「似合ってる」なんて簡単に言えちゃうんだもんな……。
上手く行ってるはずなのに、間違いなく嬉しいのに、何だかもやもやする。
私、先輩のこと……? いやいやそんなわけない。
あの写真を開く。
クリスマスイブの夜、街灯に煌めく先輩の涙。
情けない姿。可哀想な姿。
そう、ほだされてるだけ。
放って置けないだけ。
好きになってなんかないんだから。