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後輩ちゃんの恋愛講座  作者: 衣谷強


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13/14

先輩、好きになるのに理由なんかないですよ

『後輩ちゃんの恋愛講座』第十三話です。


お家デート中、勉強を終わりにしたいと言う先輩に、うっかり好意を告げてしまった後輩。

女と意識していなかったからこそ一緒にいられた先輩はテンパり、気まずくなる空気。

このまま終わってしまうのか。

それともここから始められるのか。


それでは第十三話『先輩、好きになるのに理由なんかないですよ』お楽しみください。

「……あ」

「……よう」


 文IIのカフェで、座っている赤須と目が合った。

 一昨日のあの後、メッセージを送ってみるも、既読スルーされていた。

 休み明け、ここなら、と思って来たのは正解だった。


「……」

「げ、元気、か?」

「……はい」


 全然元気ないな。俺もテンション上げられないけど。

 会って話をしたかったはずなのに、いざ会うと何とも言えない緊張感が喉を詰まらせる。


「その、いい天気、だな」

「……はい」

「……」

「……」


 だ、ダメだ!

 あれだけ勉強したってのに、何話していいんだか全然わからなくなってる!


「あら、善哉よしやじゃない。それと、赤須あかすさん、だったかしら?」

「!」


 よりによってこのタイミングで何でうららがここに!

 大学内だから仕方ないけど。


「あらあら、痴話げんか?」

「別にそんなんじゃ……」

「そうよね。二人は付き合ってるわけじゃないんだものね」


 『付き合う』という言葉に、頭がかあっと熱くなる!

 待て待て落ち着け俺! 好きって言葉に舞い上がりすぎだろ!


「ただの先輩と後輩、そうでしょ?」


 俺と赤須の関係って何なんだろう。

 先輩と後輩、生徒と先生、でも赤須は俺のことが好きで……。

 あぁもう! 変な妄想ばかり頭に広がる!

 これで舞い上がって、キープにされてる事に気づかなかったってのに!


「そのコと上手くいってないなら、もう一度相手してあげてもいいのよ?」


 何言ってんだこいつ。

 俺のことキープ扱いしておいてぬけぬけと……。

 あ、そうか。俺がキープ扱いに気づいたこと、まだ知らないんだ。


「……ちょっと。何で黙ってるの?」


 うるさいな。今は赤須のことで手一杯なのに。


「善哉、あなたね……。私とその後輩とどっちが大事なの?」

「そんなの赤須に決まってるだろ」


 キープにして放り投げた麗と、同情かも知れないけどあれこれ面倒見てくれた赤須と、比べるまでもない。


「せ、先輩……?」


 赤須が顔を上げた! な、何か話さないと!

 でも目がキレイだなとか、赤くなってるのかわいいなとか思っちゃってダメだ! 言葉が出なくなる!


「……善哉……!」


 すさまじい声に振り返ると、鬼! いや麗がすごい顔でにらみつけていた!


「え、えと、麗さん、です、よね……?」

「……」


 無言でじりじり近づいて来ないで! 超怖い!

 拳を握りしめてる! な、殴られるの俺!?


「麗さん!」


 な、赤須!? 何で俺の前に!? バカ! お前が殴られるぞ!?


「ありがとうございます!」

「は?」

「へ?」


 麗と俺の間抜けな声が重なる。


「煮え切らない先輩を焚き付けてくださって助かりました! 流石モテる女は違いますね!」


 え、何? これは芝居だったってこと!?

 ……違う。赤須の肩が震えてる。

 俺が麗に殴られないように、とっさにそんなことを言ったのだろう。

 自分が殴られるのも覚悟の上で。


「お、俺からもありがとうな! フラれたのはショックだったけど、こいつとの縁を繋いでくれて、その上背中まで押してくれるなんてな!」

「先輩……!」


 俺はそう言いながら、赤須の斜め前に立つ。

 麗は俺というキープを作ってでも、クリスマスに彼氏がいないことを避けようとした。

 つまりプライドは相当に高い。

 だから、自分がフラれる、なんてことは絶対に許せないだろう。

 逆に『自分からフッたけど、優しくしてあげてる』と周りに見られたら、それをぶち壊すような真似はしない、はず。

 ……そんなの関係なくキレるようなら、大人しく一、二発殴られよう。


「……ま、まったく、あんまり手をかけさせないでよね」


 よし通った!

 ちらっと赤須を見ると、こっちを見て小さく頷いた。


「麗さん、ありがとうございます!」

「じゃあ俺達はこれで! ありがとう!」

「え、あ、う、うん……」


 麗がぽかんとしている間に撤収だ!

 手早く荷物をまとめた俺と赤須は、早足でその場を立ち去った。




 渾身の早歩きで、麗から十分に離れたのを確認した俺達は、手近なベンチに腰を下ろした。


「はぁ、殺されるかと、思った……!」

「無事で、よかった、ですね……!」


 息を整えながら、顔を見合わせて笑う。

 あぁ、笑ってくれてる。自然に笑えてる。

 当たり前だと思っていたことが、こんなにも嬉しくて大切だったなんて。


「しっかし麗の奴、怖かったなぁ……」

「当たり前ですよ! クリスマスにキープ用意するくらいモテることに命かけてる人種ですよ!? 何で、あんな、あん、な、こと……!」

「えっ? 俺何言った?」

「えっ?」


 きょとんとした顔で俺を見上げる後輩。

 俺も多分そんな顔をしているんだろう。


「ま、まさか、覚えてない、んですか?」

「え、ちょっと待て! 本当に俺何言ったの!?」

「い、言わせるんですか!?」


 本当に何言ったんだよ俺は!

 麗を激怒させて、赤須が言うのをためらうようなことって何だ!?


「マジで教えてくれ。怖すぎる……!」

「……本っ当に心当たりないんですか? これで知ってるのに言わせようとしてるんなら結構最低ですけど」

「本当に覚えてない! あの時はお前のことばっかり考えてて……」

「んぅ」


 何か変な声出たぞ? 大丈夫か?


「……あー、はい、今ので大体わかりました。そういう感じですね。はいはいはい」

「えっ!? 何マジほんと怖い! 頼むから一人で納得しないで教えて!」


 顔をそむけた赤須は、息を吐くと俺に向き直った。


「先輩はですね。麗さんの『私とその後輩とどっちが大事なの?』という問いに、『そんなの赤須に決まってるだろ』って答えたんです」

「……は?」


 その問いかけは覚えてる。

 うっせぇなキープ扱いしたお前なんかより赤須の方が大事に決まってるじゃないか、って思った覚えもある。

 ……俺それ口に出してたの……?


「……先輩? もしかして言ったつもりなかったんですか?」

「……うん……」

「……心の声、的な……?」

「……うん……」


 麗がうるさいから!

 こいつうるせぇな黙れよって思った気持ちがまんま出ちゃったんだよ!


「……先輩、本気で麗さんより私のことを……?」

「そ、そりゃそうだろ! クリスマスキープにしてくる女と比べたら……」

「そ、そうですよね。わかってます。そういう意味でってことは……」


 違う! 何言ってんだ俺は!

 あんなのと比べてどうこう言ったって、赤須に失礼なだけだ!

 俺は……!


「赤須、俺は……!」


 面倒見が良くて優しい赤須が。

 物知りで、わかりやすく教えてくれる赤須が。


「俺は、お前のこと……!」


 言うべきことは、遠慮なくズバズバ言う赤須が。

 酒が入ると機嫌が良くなる赤須が。


「お前のことが、好」

「す、ストップです!」


 えええぇぇぇ!? 何でここで止めるの!?


「あの、先輩、ズルいです!」

「え!? ず、ズルいって何が!」

「せ、先輩は私の気持ち、知ってるじゃないですか!」


 うお! 改めて言うな! 恥ずかしくなる!


「それはカンニングです! 不正行為です! 先生として見逃せません!」


 何言ってんだこいつ!

 あ、卒業試験の告白だと思ってる!?

 その勉強へのこだわりは一体何なの!?


「な、なので、明日! 明日改めて再試験します! 場所と時間は後でメッセージしますので!」

「あっ、ちょっ」


 あっという間に走り去る赤須。

 ……え、何? 何で?

 俺は赤須のことが好きだ。口にしてわかった。これは間違いない。

 赤須は俺のことが好き。う、恥ずかしいけど、あいつが言ってたんだから、思い上がりとかじゃないはず。

 ……これで再試験ってどういうことだよ……。

 あ! そう言えば小料理屋の時は、直球すぎるって言われたっけ!

 それだ! もっとちゃんとした告白をしなきゃいけなかったんだ!

 それに相手の好きなところを伝えるのはいいとも言ってた。

 よし、ちゃんと考えよう。

 赤須の好きなところを。好きになった理由を。

 そうしたらきっと……。

 ……あれ?

 オッケーもらえたら、俺赤須と付き合うの!?

 うわ! やばい! 急に心臓が! 顔が! 熱い!

 明日まで俺、もつかなぁ……。




 あああぁぁぁもおおおぉぉぉ! バカバカバカ!

 何なの先輩! 何なのよ!

 麗さんより私のことが大事って!

 しかも無意識に言ってたって!

 そんなの嬉しすぎる! 本音ってことだもん!

 それに告白、だよね! 今の流れ!

 こんな状態で聞いたら絶対に泣く!

 そしたら先輩のことだから、「嫌ならいいよ」とか言うから!

 逃げちゃった! 私のバカ! 先輩ごめんなさい!

 あーもうわけわかんない!

 何で私こんなに先輩のこと好きなんだろ。

 最初は何か理由があったはずなのに、今は好きの気持ちに塗りつぶされて、その上から先輩も私を好きって嬉しさが重なって……!

 あー! ダメだ! このままじゃ今夜絶対寝れない!

 ……落ち着こう。深呼吸すると少し頭が冷えた。

 一晩経てば冷静になれる。きっと大丈夫。

 自分で言っておいてあれだけど、早く明日にならないかな。

 合格以外出す気のない試験。

 それは当たるとわかっている宝くじのような。

 中身がお願いしたものだと知ってるクリスマスプレゼントのような。

 待ち遠しい嬉しさだけで私の胸はドキドキしていた。

読了ありがとうございます。


麗を登場させ、かつ丸く収めるのに苦心しました。

男をキープする女性の話は聞くけど、そこに至る心理がよく分からなくて……。

プライドの高い寂しがり屋と解釈したら、何とか書けました。


挿絵もらって可愛いって思ったら、書かねばならんのだよ。

挿絵(By みてみん)

でもお陰で二人のギクシャクした関係は払拭できました!

麗も可愛くなりました! ポンコツ化したけど(笑)。

四月咲 香月様、ありがとうございます!


更に追記! 重ね重ねありがとうございます!

挿絵(By みてみん)

女の戦い、と見せかけて、始まる前から決着ついちゃってるやつです。

取り返すつもりが後押ししちゃって、ねぇ今どんな気持ち?と煽りたいこのドヤ顔。

そしてポ◯ナレフ状態の後輩。

挿絵(By みてみん)

この絵で後輩にJ◯J◯好き属性が追加されました。


次回で最終話になるかと思います。筆が暴れなければ(笑)。

まぁ告白の成功は確定に近いので、ウイニングランのようなものですが、よろしければお付き合いください。

多分甘くなります。挿絵もありますよ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりニヤニヤしています(笑) いいですねー。 本当にすっかり麗さんはもう先輩の眼中…いや、心の中にいないですね。 でも麗さん、『上手くいってないなら相手してあげる』ってある意味自らキー…
[一言] やってはイケないことを・・・ 作者以外が物語の運命を変えてしまうなんて!! にゃんちゃって(・ω≦) テヘペロ
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