先輩、お弁当は褒めるのが難しいですよ
『後輩ちゃんの恋愛講座』第十話です。
ここからは連載版のために書き下ろした新エピソード!
お弁当の褒め方、つまり後輩がサンプルを作ってくるというわけで……。
料理上手か下手かで『褒めるのが難しいですよ』の意味が変わってきますが……?
それでは第十話『先輩、お弁当は褒めるのが難しいですよ』お楽しみください。
はてさて何がやってくるのか……。
昨日、赤須から来たメッセージを再確認する。
『先輩、明日は文IIのカフェでお昼に落ち合いましょう。ご飯は食べないで待っていてください』
うーん、わからん。
飯の注文はさっさと自分の分だけしてはいけない、とか、ランチは無闇におごらない、とか、食べ終わった後の片付けはスマートに、とか、ひと通りやったと思うんだけど。
「お待たせしました」
「おう」
「お昼、まだですよね」
「あぁ。言われた通り、食べないで待ってた」
「ではこれを」
赤須が取り出したのは、弁当箱?
「今回の課題は、お弁当への対応です」
「お弁当?」
「はい。お弁当への対応は、非常に難しく、また重要です」
「そうなのか? もうそこまでいったら付き合えそうな気もするけど」
「確かに手作りのお弁当は明らかな好意の表れですからね。でも逆に言えば対応をしくじると、その相手の好意を踏みにじったことになりかねません」
なるほど、確かにそうだな。
気合いを入れて食べるとしよう。
「では召し上がれ」
「いただきます」
フタを開けると、おお! 何だ! すごい!
一口サイズの丸いおにぎり。鮭ご飯とわかめご飯の二種類が三個ずつ。
これまた一口サイズのハンバーグ。ソースはかかってない。忘れたのか?
唐揚げもある! テンション上がるわ!
煮物もうまそうだ。ニンジンとゴボウとレンコンにサヤインゲン。肉は入ってないのか。まぁ他に肉はあるからバランスかな。
ちくわにキュウリとチーズを入れて串に刺してある。女子ってこういう可愛いの好きだよな。
そして、これは、やはり、女子だからか。卵焼きを斜めに切って、ハート型にしてある。可愛いけど、恥ずかしいな……。
えぇい! とっとと食うに限る! ハシを持って、いざ!
「減点です」
「まだ食べてないのに!」
何がダメだったんだ!?
「お弁当は盛り付けまで含めて気を遣っているものです。そこへのコメントなしに食べ始めるのは、食べればいいんだろ的なぞんざいさを感じさせてしまいます」
「そ、そうか」
確かに綺麗だ。
すごいと思ってはいたけど、言葉にしないとな。
「えーっと、すごい品数だな! 作るの大変だっただろう!」
「減点です」
「褒めたのに!」
赤須が前もって言うだけあって難しい!
「お弁当作りが大変なのは事実です。でもそこをピックアップするのは、舞台そっちのけで舞台裏を褒めるようなものです」
あ、それは嫌だな。
「てことは、触れない方がいいのか?」
「触れるなら食べ終わった後です。舞台を堪能してその余韻としてなら、舞台装置の話もありでしょう」
そうか。では改めて。
「彩りが綺麗だな。どれも一口サイズで食べやすそうだ。それにこのハートの卵焼きとか、さすが女子って感じだな」
「……まぁよしとしましょう」
歯切れが悪いけど、お許しが出たので早速おにぎりから。
「ん! うまっ!」
「そうですか」
味わって飲み込んで、よし、コメントだ!
「塩加減が絶妙だな! 握り具合もいい! あと、一口サイズだから食べやすい! えっと、あと」
「減点です」
「だよな!」
今のは言っててダメだと思った!
「別にグルメリポートじゃないんですから、事細かに言う必要はないんです。『これ美味しいな』『好きな味だな』くらいで十分ですよ」
「それくらいでいいのか」
「明らかに後半無理してましたよね。そういうのバレますから」
「はい」
次はハンバーグにしよう。
「お!? ソースがかかってないのに、味がすごいしっかりしてる!」
「いいですね。そういうリアクションが大事です」
素で驚いただけだけど。
「これどうやったんだ?」
「タネを作る時に下味をしっかり付けるんです。ソースで味を付けようとすると、他のおかずに味が移ることがありますからね」
「へぇー! いやこれホントにうまいわ」
「……よかったです」
次は卵焼き。
「お、甘いやつだ。俺好きだな」
「本当ですか?」
「え、う、うん」
「ここで無理すると後々苦労しますよ」
……バレてる?
「……実は、しょっぱい卵焼きの方が好き、です」
「先輩はウソ下手ですね」
おっしゃる通り……。
「でも折角作ってくれたのに文句付けるのは悪いし、別にまずいわけじゃないし」
「それはそれで伝えながら、好みも伝えるんですよ」
「え、無理じゃないか?」
「『俺しょっぱい味の卵焼きが好きだけど、この味付けも美味しいな。今度しょっぱい味の卵焼きも作ってくれないか? すごく期待できる』 どうですか?」
「天才かお前」
それなら傷つけないで好みを伝えられるな。
「お弁当を作ってくるということは、相手に喜んでもらおうと思ってるんですから、好みを伝えるのは大事なんです。もちろん否定は極力なしで」
「あぁ、なるほど」
勉強になる。次は煮物にしよう。
「うん、うまい。煮物ってあんまり自分で作ったり買ったりしないけど、こんなにうまいんだな」
「……ちょっと褒め方がわざとらしい気もしますけど、まぁいいでしょう」
ちくわは、これコメントどうすればいいんだ?
「これ、可愛いな。女子らしい」
「あ、はい、そうですね。既製品の組み合わせは、まぁ、そんな感じで」
いよいよ唐揚げだ。
「! うまい!」
「本当ですか?」
「いや、ホントうまい! 冷めてるのにめっちゃうまい! お店のじゃないんだよな?」
「え、はい、家で揚げました」
「いやこれはすげぇわ! 揚げたても食べてみたいわ」
「……ありがとう、ございます」
これでひと通りコメントはしたか。
「なぁ、後はコメントなしで食べていいか? 普通に味わって食べたい!」
「……どうぞ」
うまい飯はやっぱりあれこれ考えないで食べたい!
うん! うまい! あぁ最高!
勉強がなきゃもっといいんだけど、勉強なしじゃ作ってきてくれなかっただろうから、まだ卒業しなくて良かった!
「ふぅ、ごちそうさま!」
「お粗末様でした。……美味しそうに食べますね」
「実際うまかった!」
「……どういたしまして」
ん? 照れてるのか? すごい勢いで片付けてるけど。
あ、そうだ。
「作るの大変だったよな。ありがとう!」
「……いえ、大したことでは」
あれ、何か反応が悪い? 何かミスったかな? 褒め足りない、とか?
「特に唐揚げ! 揚げ物なんて大変だろうに、すごくうまかった! また食べたいな!」
「……また、ですか……」
あ、やべ。厚かましかったかな。
「……わかりました。じゃあ近々、予定を合わせて……」
「あぁ! 楽しみにしてる!」
そそくさと立ち去る赤須。
あ、結局あいつ、何も食べてなかった。
夢中になって食べちゃって悪かったな。
でもまたあの唐揚げ食べられるのか。楽しみだ。
きゃあああぁぁぁ!
うまいって! うまいって言われた!
あんなに夢中になって食べてくれたから、お世辞じゃないよね!
それに卵焼きとちくわで『さすが女子』とか『女子らしい』とか!
恥ずかしかったけど入れて良かった!
もう教えられるネタがないからって無理矢理考えたお弁当対応。
正直『美味しい』って言って食べればオッケーなところを色々理屈をつけて勉強に仕立てた。
最初はいい案だと思ってた。
あわよくば先輩の胃袋をつかめるかもって。
……つかまれたのはこっちの方だった……。
で、どうしよう……。
唐揚げ、ばっちり好みだったのはよかったけど、揚げたてって……。
どっちかの家で作らないと、だよね?
お家デート……。
先輩も私も一人暮らし……。
部屋の中で二人きり……。
無理無理無理無理! 耐えられるわけがない!
でもチャンスではあるし……。
でも付き合ってもいないのに……。
あぁ……。自分用のお弁当、食べれる気がしないや……。
読了ありがとうございます。
ゲテモノじゃなくて良かったね先輩!
そして喜んでもらえて良かったね後輩!
この流れで次はお家デートかなと思っていますが、どっちの家に行かせるかで迷ってます。
揚げ物をするなら他人の家より自宅だよな、と思ったり、先輩の家なら指導内容がいっぱいできるな、とか。
今週中にはできると思います。恐らく。多分。メイビー。
何か全く関係ない短編が上がったら、「あぁ、話が思い付かなくて現実逃避してるんだな」と生暖かい目で見守ってください。
よろしくお願いいたします。




