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今日は本当に長い1日だった。
「見て下さい水輝さんっ!!。この服とっても綺麗です!!。」
希歩がさっき買っておいた服を来てはしゃいでいる。
セーラー服のような白のラインが入っている空色のワンピースと黒色の膝下程まであるスキニージーンズ。
大体のサイズで児童用の下着と一緒に買っておいた物を俺達の事務所で風呂に入れてから着させたのだ。
勿論……それをやったのは俺では無い。
「水輝君から女の子用の服を買いたいんだけどって言われた時………流石に驚いちゃったよ。」
「普通に事情があるって思うだろ。………まあ、取り敢えず助かっよ………。ありがとな赤塚。」
イスに座りながら渡された書類とはしゃいでいる希歩を交互に見ていると赤みがかった茶髪を伸ばした女が歩いて来た。
赤塚 真香 ………、俺が所属する『クラン』の実質的な支援者だ。
歳は俺と同じ19歳、あの日から今の今まで続く腐れ縁的な幼なじみだ。
流石に女児の下着を堂々と選んだり、希歩と一緒に風呂に入る訳には行かない。
「にしても……まさか金製の装飾品取りに行って…女の子を拾ってくるなんてね。バックパックに入らない物を持ってきたの初めてじゃない?。」
「俺だって探してたわけじゃねぇよ。たまたま会っちまって、商品として見れなかっただけだ。」
「そうだね…。まぁ、水輝は1人で動く事が多かったし………低脅威度地域だとしても獣人のお供が居ると居ないじゃ大分違うしね。」
そう言うと赤塚は希歩に近寄る。
「希歩ちゃん、これから希歩ちゃんは水輝君のお供として働いてもらう事になるから………あ、字は読める?。」
「字ですか?………読むなら少しは出来ますが、書くことは………。」
「そっかあ、それなら時間ある時に勉強しよっか。」
そう言って希歩に紙を見せながら説明を始める赤塚。
『クラン』は複数の外域探査員が組むチームだ。
セーフラインの外………外域を探索する上で障害は付き物だ。
徘徊するオルター、倒壊と取り合わせの街………中でも最も厄介なのはそこが『外域』とゆうことだ。
今、外域に対しての安易なアクセス方法は地下を通る電車のみ。
外は当然だが人がいない。人が居なければ人が生み出す『物』も『支援』も無い。
(1人じゃ運べる物も、オルターを排除する効率も悪い。だから外の物資を欲しがる出資者が個人と契約する事は殆どない、ほぼ全ての場合は複数人の探査員をチームとして組ませる。)
セーフラインで区切られた人間の安全圏は広いようで狭い。
外にある物に価値が生まれるのは当然と言えば当然だ。変遷した世界でも尚成功する人間は一定する居る………赤塚の父親もその1人だ。
「希歩ちゃんは獣人………生まれた瞬間から外で『生きていける』強い子なの。………だから不安に思う必要は無いよ、いざと言う時は水輝君も居るからね。」
「まあ、俺が頼りになるのは逃げる方法だけどな。」
希歩は自分も外で働く事を分かっていたようで、赤塚のクランに所属する事について特に疑問も持たずに同意しているようだ。
「私……いっぱい頑張るので……、これからよろしくお願いします!!。」
「うん、よろしくね。……これ、希歩ちゃんのライセンス証だから無くさないでね。」
希歩が紐で首から掛けれるようなカードホルダーに入ったライセンスを赤塚から受け取る。
「わぁ!、水輝さんとお揃いだ!!。」
「探査員は皆持ってるよ。書いてある事が違うんだ。」
そう言われて自分のライセンス証を見る希歩。
識字力がどれ程の物かは分からない……だが、母親がかなり教えてくれていた用で外で生きてきたとは思えない程字を読めるようだ。
「希歩…………スチール………ラーバー…………、このルーウェンツ・ウォーカーとゆうのは何でしょうか?。」
「それはクラン名だよ。スチールは階級、ラーバーは役……この2つは水輝君と一緒だね。」
「水輝さんと………一緒…………。」
「一緒って言っても役は3つしかないし、階級は全員最初はスチールだからな。………って、聞いてないか。」
俺と一緒というのが嬉しいのか、ニコニコしながらライセンスを何度も見返している。
「っとぉ?。…………揃ってるみたいだな?。」
事務所のドアが開かれ、短い金髪の男が入ってくる。
「快………、遥も一緒か。」
「よぉ水輝、引っ掛けた女児は大丈夫か?。」
「遥………言い方が最悪すぎだろ。」
木戸 快、そして木戸遥は兄妹で探査員をやっている。
兄妹揃って髪を金色に染めているが、ガタイの良い兄と違い、遥は小柄だ。
顔もどちらかと言えば可愛らしいのだが、言葉遣いが少々荒い。
「あ、外で助けて頂いた。………もう1人の方は…………、」
「酷い!、私も遠くから助けてたんだよ!!…………ってゆうか可愛いねっ!!。」
遥が希歩を見つけた瞬間に飛び出し、そのまま抱きしめる。
そこから間髪入れずに頭や尻尾………耳に体と全身を撫で始めた。
「わぁっ!!!、ど、どうしたんですか?!急に!!。」
「いやぁ、分かってはいたけど近くで見るとこんなに可愛いと思わなくってさぁ〜。」
「だからって………そんな………んあっ!!!。もうダメです!!。」
妙に艶やかな声を上げたと思った瞬間、自分よりもずっと大きい遥の拘束を無理やり解き、そのまま俺の所にまで掛けてきた。
「お前………そんなに力が強かったのか。」
「そんな事言ってないで水輝さんも止めてくださいよ……。」
俺の後ろに回り込む事で遥から隠れようとする希歩、そんな希歩にジリジリと歩み寄り、再び撫で回そうとする遥………。
(この様子だど、少なくともクランに馴染めないって事は無さそうだ。)
「な、なんで笑ってるんですか………水輝さん!!。」
「ほらほら、希歩ちゃん……パパからもお許しが出てるんだよ〜。大人しくこっちにおいで〜。」
「遥ちゃん、そんなに女の子を撫で回したいなら私でも良いのよ?。」
「なぁ、腹減ったよ〜。飯食おうぜ飯。」
俺の後ろに隠れる希歩、にじり寄る遥、そんな遥を制止する赤塚さんに腹が減ったと言う快…………。
「やっぱり、1人増えるだけで賑やかになるな。丁度良いし全員で飯にしようぜ。」
「お、そうするか。焼肉行こうぜ〜焼肉っ!。」
「えー、焼肉?。それなら私はしゃぶしゃぶが良いんだけど……。」
「私もしゃぶしゃぶが良い!。焼肉は脂取りすぎるし!!。」
どうやら快は焼肉、赤塚さんと遥はしゃぶしゃぶが良いらしい。
互いになかなか譲らず、あれこれ言い合っている。
「……どうだ希歩?。いつもはこんなに騒がしく無いんだけど……皆お前が新しくクランに加わるって言うからテンションがあがってるんだよな………。」
俺の傍でギャーギャーと騒ぐ快達(主に大きな声を上げているのは快と遥だが)を見ている希歩。
この騒がしすぎる感じを苦手と捉えてしまわないか心配していたのだが…………。
「………えへ、とっても楽しそうで………皆さんの中に私が入れるのか心配です…………でも、一緒に居たら………凄く楽しそう…………。」
俺が思っていたのとは少し違った不安のようだ。
実際、生まれてから母親と2人きりだったのだから………今日になっていきなり親しい人間が増えるのは理解が追いつかない所もあるだろう。
しかし………それでも希歩が望むならこの関係は必ず上手くいく………。
「心配しなくても……皆お前の事が好きだから………。希歩が皆を拒絶しないなら、どうやっても仲良くなれるさ。」
そう言うと希歩の手を握り、快達の近くに行く。
「俺もしゃぶしゃぶが良いな………悪いな快。」
「え?……おいおい男同士だろぉ?!。」
「男でも好き嫌いはあるの。希歩ちゃんは分からないだろうし、これで一対三でしゃぶしゃぶに決定。」
「あっはは!!、快の負けだ!!。」