オル
ものすごく長いなっちゃいましたし、殆どが設定説明です( ̄▽ ̄;)。
読み切るのが大変な方用に後書きでざっくりとした説明を載せようと思いますので必要な方は後書きを確認して頂ければ幸いです(〃・д・) -д-))
退廃した街、崩れるビル。
深い緑に包まれたそれらが立ち並ぶ路地にポツリと現れた地下への入口。
「よし、もういいだろ?。俺達は平時業務に戻るわ……帰ったらその獣人の話聞かせろよ。」
「ああ、サンキュな。」
快はそう言うと再び来た道を戻って行った。
恐らく獣頭のオルターの死骸から換金できそうなものを剥ぎ取るつもりだろう。
別に俺達を待たせても良かったのだが、セーフライン外で1晩を過ごした俺達のことを考えてくれたのだろう。
快を見送ってから希歩と2人で地下への階段に降りていく。
「……あの、快さんが『俺達』って言ってましたけど……。他に誰か居ましたか?。」
「ん?………そうだなぁ。またすぐに会えるが、一応ビルの屋上を伝って俺達の事を見てくれてたんだよ。」
「そ、そうだったのですか………。」
地下への階段はくらい、フラッシュライトをつけて足元を照らす。
屋外では風化や劣化が激しい……だが、地下は違う。
地下の入口は狭い、そしてビルの入口よりも頑丈でその入口が壊れる時はその入口が使えなくなる時。
つまり地下は小柄なオルターしか入れない。雨風による風化も遅い。
中型のオルターは入れず、大型のオルターが入ろうとすれば入口は崩れる。
セーフライン外で唯一安全を確保出来るであろう場所がこの地下……そしてそこにある『駅』なのだ。
「……明かりが見えてきたな。ここがずっと言っていた……『駅』だ。」
暖色灯りを放つ火、白色の灯りを放つランタン。
簡素なテーブルに様々な灯り………そこには沢山の『人』が居た。
「……こ、こんなに人が。それに……広い。」
「『ホーム』って言うんだ。昔は電車が止まり、人が乗り降りする場所って意味だったんだけど………今は正しく、ライン外探索の『ホーム』って感じだな。」
適当な席を探し、そこに座る。
「帰りの電車が来るまでまだ時間がある。お前の事、世界の事………何が聞きたいかも分からないお前に、俺達の『仲間』として生きていくのに必要な事を話そう。」
「……はい。」
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沸かした湯に粉を溶かすことで作れるココアを希歩に渡す。
「………この世界の根源は『オル』だ。このココアが無い場合、世界はそこまで変わらないだろうが…………『オル』の無い世界は今とは果てしなく違う。」
「その……オルってなんなのでしょうか?。」
「……世界にある全ては元素っていうどうしようもなく小さな粒みたいなのでできてる。俺もお前も。………オルもそのひとつなのだが………他のとは隔絶した性質差がある。」
……難しい話で希歩にはまだ早いが…………
一定濃度で質量をもつ擬似的なエネルギーに変質したり、
突発的に他の元素に変質したり…………
「……まあ、その性質差の中でも特に希歩に関係するのは………他の元素に対する結合のしやすさと浸食性だな。」
「………ど、どうゆう事でしょうか?。私にどう関係が?。」
「俺達も元素で出来てるって言っただろ?。オルの濃度が高いと、オルは他の元素と簡単にくっ付くんだ。……人にもな。」
オルの変質は特に固体に対して起きる。人間を構成する元素の中で常温でも固体の元素は各種のミネラルや金属元素等など………
その中で反応のしやすさや構成量を鑑みだ時………最もオルと結びつき変質するのは、
「炭素って元素が人間の構成要素で最もオルと反応する。まあ、ほぼ全身だ………オルと結びつき変質……『オルトレーション』って言うんだが、炭素がこれを起こすと大体は黒く変色するんだ。それが化合物……人体でもだ。外で彷徨く奴らが黒みがかっているのはそれが原因だ。」
「な、なるほど……でも私は平気ですよ?。」
「平気な奴とそうじゃないやつが居るんだ。平気な奴が変質すれば……ざっくり言うと強くなる。そうじゃなけりゃ多臓器不全で死ぬ。全く違う生き物に変わる感じだからな。………そんで、こっからがお前にとっては大事なんだけど………、」
人間の体に獣の耳と尾を持つ希歩。
……だが、これは特別珍しい訳では無い。
「こうして変質した生物ってのは遺伝時の種の垣根が緩くなるんだ。だから有り得ない組み合わせで子供が出来たりする………鳥と猫、犬と蛇………そして、『人』とそれ以外……みたいにな。本当は母系遺伝とか優勢遺伝とか他にも生まれる子供に影響をする要因があるんだが………異種間の子供の殆どは両親の種族の特徴を持って生まれるな。」
人と狼の特徴を持つ希歩………きっと彼女の母親が人間だったのだろう。
イヌ科の動物でオスが子育てをする種は殆ど居ない上に、彼女は知性的で人な言葉をしっかりと話せている。
「………じゃあ、私は………水輝さんやお母さんと同じ『人間』ではないのですか?………私のお父さんは…………もしかしたらあの時の狼みたいな…………。」
「………そうなるな。そして、君のお母さんも望んで母親になった訳では無いだろう。ほぼ全てのケースがたまたま発情していた獣に無理やりってパターンだ。」
勿論、好き好んでそういうことをする女性も居るかもしれないし………その逆、人間のオスが獣のメスにってパターンも記録にしっかりと残されている。
どちらにせよ2種のハーフである彼女達の出自は、必ずと言っていいほど不幸が伴う。
「………だから、お母さんは私のことを嫌いって…………。皆私の事が嫌いって。」
「……ここまで聞いといてまだそんなこと言ってるのか?。普通に考えたら逆だろ逆。」
話を理解する毎に表示が沈んでいく希歩……やはりそう考えてしまうものなのか。
だが、希歩の母親は希歩の事が好きだとは証明されているも同然なのだ。普通にこの話を聞けば分かると思うのだが。
「獣人ってのはその出自からわかる通り希少だ。セーフラインの内側……人間の世界に居れば捕まり、そのまますぐ売りに出される。そっからさきはペットとしての幸せから人間としての不幸まで選り取りみどり…………母親の元でずっと幸せにってのはまず無理だ。」
そう、獣人は高く売れる。
珍しい上に人と獣のハーフ……衰退した世界で大きく揺らいだ『人権』から溢れててしまっている。
捕まえるもよし、売るもよし。痛め付けるのも犯すのも全部良し。
さらにこうか不幸か………希歩はここまで可愛いらしく育ってしまった。
人間の部位がほぼ全身を占め、顔は可愛く……それでいて野性味と可愛らしさを助長する獣の耳と尾…………。
人が求める獣人としては完璧な遺伝の仕方だ。
「獣に犯され、望まず妊娠してしまった……。それでも希歩のはあは、最大限お前のことを考えて………わざわざ危険なセーフラインの外………人間の手が届かない場所でお前を守りながら育てて来たんだ。……それのどこに………お前を嫌う要素があると思う?。」
「…あぅ……………、そう………かも知れません……。」
下を向き、陰鬱な雰囲気を漂わせる希歩。
短期間に色んな事が起きすぎているのだ、無理もない。
母親が死に、その母親に嫌いと言われ……街をふらついて居た先に出会った俺とただの一日だがそれなりに親密に接してきた。
深い考えもなく流れるままに来た先が今この状況なわけなのだが、それでも幼い少女の許容量を溢れてしまった情報量だ。
「……私は………どうなるのでしょうか………。」
「普通、人に捕まった獣人は奴隷として売られる。売られた先は様々だがな………そこでだ、。」
その小さな肩を軽く叩き、顔を上げさせる。
暖色の光に照らされた赤い目は心做しか潤んでいるようにも見える。
「奴隷として売るってのはあくまで取得者が業者を介してする事なんだ。業者に売らなければ手続きをした後に俺の『物』って事になる。獣人に人権は適用されないが………人の『物』に適用される法がお前を守ってくれるようになる。俺の奴隷って事は街でゆっくり暮らせる訳じゃない……しっかりとこの危険な世界で俺と働いて貰う。………どうする。」
窃盗罪に器物損害………獣人を守る法は無いが、物を守る法律はある。
「…どうするって言われても………もう何が何だか…………全然分かりません………。」
「そうだな……でも知らないからって許して貰え無いことだって有るんだ。もうすぐ帰りの電車が来る……俺はそれに乗って帰る……それまでに決め無ければここに置いてくし、着いてくれば簡単には帰れない。大事な決断だ………だが、決めろ。」
本人ですら理解しきれてない事はよく分かっている。
それでも、そんな理不尽な選択でも……自分で答えを決めれない用では人の街でもオルに塗れた外の世界でも生きていけない。
世界はこの2択しかない。だが、どっちの世界も幼い獣人に対しては理不尽なのだ………。
「………1つだけ…………それだけでいいですから…………私の質問に正直に答えてくれませんか?。」
「別に良いけど………なんだ?。」
「……水輝さんは………、私の事を……………」
(大切にしてくれますか?……とかか?、それとも優しくしてくれますか?……とか?。)
自分の幸せを保証してくれるのかを知りたがっているだろうな。ここに残るより幸せかどうかを…………、
「………ずっと、手元に置く価値が有ると…思ってくれていますか?。」
「…………価値?………。希歩の価値か?。」
(話の流れ的に、自分がまるで物の様に扱われる事を察したのでろうが………。それでも自分に『価値』を見出してくれているかと自分から聞いてくるものだろうか?。)
「……はい。売りたくない…手離したくないって………。そう思ってくれているなら………きっと私は幸せにして貰えるんだと思います。だって、お母さんも私が大切だから捨てずに育ててくた………と思ったので。」
質問の意味を俺が答える前に言ってしまう辺り、聡いようでやはり幼いのだなと思う。
だが、言ってる事は確かに真理だ。
価値があるなら隠したい、必要ならば手放さない。
それが物なら仕舞えば済むし、外を知らない動物なら檻でも柵でも囲えばいい。
だが、希歩は自分に商品としての価値があると知った上でこの質問をしている。
嫌なら逃げます、嫌じゃないなら逃げません………暗にそう言っているのだ。
「そうか…………だが価値は見出す物であって最初からあるなら物じゃないぞ?。事実、今日俺の為に何をしてくれた?……ん?。」
「あっ…………で、でも………私も色々出来ます…よ?。」
(あはは、やっぱり考え方がまだ稚拙だな………。俺も小さい頃はそうだったんだな…………。)
「自分のアピールをして来る辺り……答えは決まってるんだろ?。まあ、心配するなよ……価値を見出してはなくても……希歩はきっと俺にとって不可欠になってくれるってゆう『期待』は有る。来いよ、俺と一緒に…………嫌になったら逃げればいいし……そう思わせないって誓ってやるよ。」
獣人(希歩のような人間)
黒化した異種生物の混血。黒化すると掛け離れた種族でも子供ができる。例……犬×鳥 猫×トカゲ 人×その他
希歩
獣人は安全圏のセレブに人気。完全な人間では無いので人権が無い以上、殺る・ヤる・焼く(痛め付ける)、その他諸々全部自由な奴隷になる。
特に希歩は完全な人間体に獣の耳尾と人気の高い遺伝パターン。それだけ高く売れる。
黒化
全ての元素と強烈な反応性を持つ新元素『オル』によって黒く変色(進度が高いほどに光沢を帯びていく)する現象。大体の生物は多臓器不全で死ぬ。
稀に死なない固体や適応する種が居る、こいつらは変異前よりざっくり言えば強くなる。
元素『オル』 黒化『オルト(レーション)』 黒化生物『オルター』
オルトは黒化現象だけでなく、黒化した物質にも使われる。
黒化はあくまで名称であり、黒色以外の変異でも黒化と呼ばれる。
その後
知りえなかった自分の素性を明かされた希歩。
安全で悪辣な人の世界か、無垢で過酷な外の世界で生きるかの2択を水輝に迫られる。
ただの数分で自分の全てを伝えられ、激しく困惑する頭………
それでも世界は満遍なく進む、それを知る水輝は選択を待ってはくれない。
そう時間を置かず、『ホーム』に帰りの電車が到着する。
水輝の『物』として一緒に乗れば………或いは自分の力のみを信じ、外の世界に戻れば……………
どちらにしても生涯を揺るがす決断。
縋り付くように水輝に投げ掛ける質問、返される答え。
答えは自分で決めなければいけない。