討伐者(スカベンジャー)
「水輝、後は俺達に任せな。」
「言われなくてもそのつもりだよ。」
派手な金髪を短く切りそろえた、でガタイのいい男はそれだけ聞くと2階から飛び降りた。
「あ、あの人は誰なのですか?。」
「俺のクランに所属する討伐者の快だ。実はガルムと出くわした時から来てくれるように頼んでいたんだ。」
そう言って腕時計を希歩に見せる。
これは外で時刻を確認する為だけのものではなく。現在の位置情報と何通りかの信号も発信できるものだ。
「さっきも言ったが、俺は戦うのが仕事じゃない。だから武器も最低限自分の身を守る程度の物だ。………だが快達は違う。」
奴……獣頭のオルターが快との戦闘を始めたタイミングで窓の側まで行き、その様子を見る。
「ガァァァアッッ!!」
「見た目通り、割とすばしっこいな!!。」
獣頭のオルターは、並の人間を大きく上回る速度で走りながら、その長い左腕をムチのように振り回し快を追い掛ける。
………だが、勿論それで負けるようでは討伐者は務まら無い。
「………だが、これまた見た目通り………『非力』だ。」
ガリィィッ!!!
オルターの鋭い爪が快を捉えたかのように見えた………が、
実際は、快が自信の持つ剣………刃渡り150センチ、幅15センチの赤銅色の大きな出刃包丁の様な大剣で見事に爪の軌道を逸らした。
大きく空を切る爪、奇襲によって右腕を無くし重心が不安定なオルターは自身の攻撃が空ぶったせいで体勢を維持する為に動きを止める。
その瞬間を逃す快では無い。
爪を弾く体勢から一気に走り出し、オルターの前に出していた左足の手前で走り込んだ勢いを乗せて一回転……そこから再び走り出し、今度は後ろにある右足の手前でもう一回転する。
目で追うのがやっとなほどの早業……だが、それ故に傷は深い。
「ギィィァァァア!!!!。」
悶絶しながら、その長い足を折り地に突っ伏する巨体。
人型のオルターは人間のような骨格をしている。当然骨に付く筋肉もだ。
快が切断したのは人間で言うアキレス腱、ここを切断されるとふくらはぎの筋肉による張力が失われる。
人間の筋肉はその殆どが対になっている、どちらかが伸びればどちらかが縮む。
ふくらはぎの筋肉の対は膝の筋肉で、アキレス腱を切られればこの筋肉が過剰に縮み姿勢の維持が困難になる(膝下の骨に激痛を伴う)。
見上げるような場所に位置したオルターの頭部は既に人の腰辺りになった。
そしてその正面に立ち、剣を振り上げる快………
オルターは最後の力を振り絞り、快をその狼さながらの顎で噛み砕こうとするが………
先程のように、急にその頭部が何かに弾かれたかのように微動し………僅かに遅れて銃声が鳴る。
「これで終わりだ。」
振り下ろされる剣。
勢いの乗った剣はオルターの頭骨を砕断し、深くその頭にくい込む。
ビクビクとその細い四肢を震わせるオルター…………、確実に死んでいるがそれでも体を痙攣させ続ける。
「凄い………本当に倒しちゃいました。」
「まあ、それが仕事だしな……。ここから降りれるか?。」
二階の窓なので地面とは少し距離がある。
希歩は怖いようで首を横に振る………当然と言えば当然なので、窓枠に捕まり1度ぶら下がってから俺が降り、同じように窓から希歩がぶら下がった所を下から抱えて路地に降ろす。
「無事だったか?水輝。」
俺と希歩が路地に降りるのを待ってから快が話しかけてきた。
「あぁ、助かったよ。」
「へへっ、気にすんなって。………それで、珍しいのを連れてるな。」
快はのしのしと俺達に近づいてくると、希歩に視線を向けた。
「ひっ…………ご、ごめんなさい…………。」
「んん?……こいつ謝ったぞ。中々知能が高そうだな。」
「やめろ快、希歩は売り物じゃない。いいから駅まで連れてってくれ。」
希歩と快の間に割り込み、話を遮りながら1番肝心な事を切り出す。
ここはただ話すだけでも神経をすり減らす様な場所なのだ。用がないならすぐにでも帰りたい。
「…………わかったよ。これ以上、この場でこの話は辞めとくわ。」
「助かる………それじゃあ早いとこ行くぞ。」
快は良くも悪くも大雑把だ。
納得の行かない説明で何かを察してくれたりはしない………だが、空気を読まない訳でもない。
とりあえず今この瞬間での追求は辞めてくれるらしく、のそのそと『駅』の方向へ歩き始めた。
「さてと………それじゃあ行くか…………、ってどうした?。」
希歩の方を向くと、何故か怯えた様な目で見てきた。
「………私は………売られるのです……か?。」
…………こうなるのが………嫌だったのだ。
もっと落ち着く場所で………しっかりと説明したかったのに。
「……私って………売り物……何ですか?。」
「違うって………ついさっき快の言ったことを否定しただろ?。こんな所で長話をしたくないんだ…………。取り敢えず先に行こう…………。」
本当に…………本当に危険な場所なのだ。
一瞬でもこの場にいる時間は縮めたい。
………だが、俺の事を疑う彼女から見て……『取り敢えず』なんて言葉を使って良いはずがない。
「………わ、……わたし…………私は…………」
「……って言っても不安だよな。……よし。」
俺は………ゆっくりと路地に座り込む。
「………えっ?……な、何です座るんですか?!。」
「なんでって………『駅』に付いてから話そうとしてた事を今話そうとしてるだけだが?。」
「で、でも…………危ないって………。」
そう、危ない。
平時でも十分危ない。……だが、今は尚更だ。
ガルムとの戦いで数十発も弾をぶっぱなしたし、獣頭のオルターの死骸だってすぐそこにある。
「そう、危ない。……でもお前が待てなさそうなんだから仕方ないだろ?。俺だって要らん疑いを掛けられたまま居たくないし。」
「おーい、何やってんだよ!。早いとこ行くぞー!!。」
既に距離が空いた場所から快が声を掛けてきた。
「おーう、もうちょい待ってくれ!!。……んで?、聞くか?。」
「………水輝さんは………優しいだけじゃ無いんですね………。行きましょう…………、水輝さんの怖い所は見たくありません………。」
「……そうか、良かった。」