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In The BLACK  作者: かすぅ
4/9

外の獣

黒化適応(オルト) あの日のことは今でも鮮明に覚えている。



ちょうど9歳の時、小学3年生の頃………



給食後の5限目を受けていた時だ。



昼食の、今となっては甘過ぎると感じてしまうであろう甘口のカレーライスを沢山食べた後で……


眠くて眠くて仕方なく、算数の授業だったがまるで内容が入ってこない程うとうととしていた。



……だが、正直眠たそうにしている生徒は俺だけではなかったし。まだ子供の俺達が昼食後の睡魔を完璧に制御出来る訳では無い事を先生も分かっていて、その時間だけは本当に眠ってしまわない限り何かを言われることは無かった。



そんな訳で、心地良いまどろみの中に居た俺だったが………勢いよく教室の扉が開けられたガラガラ音で少し驚いた。



そしてこの学校でも教師歴の長い中年の先生がスタスタと入ってくると、算数の授業をしていた先生に何かをヒソヒソと伝えた。



「舞葉くん、明塚さん。三輪先生からお話があるから少し行ってきなさい。」



「「はい。」」



俺と明塚さんは近所に住んでいたので、きっと下校に関係する話だとその時は思った。



椅子から立ち上がり、教室を出て………いつもは外から来た人を迎える応接室とゆう所に入り……先生から話を聞いた。



「………もしかしたら……、今日はお家に帰れないかもしれないわ…………。」




全く話が理解出来なかった。幼いとゆう事もあったが、それ以上に………先生達は帰れない理由を頑なに教えてくれなかったのだ。



そうやって……その日は明塚さんと一緒に先生の家に泊めさせてもらった。




……………そう、今でも覚えている。



「………みなき君。家映ってるよ………とっても綺麗。」


「え?…………あ、ほんとだ…………凄く綺麗だね。」




もしかしたら違う建物だったかもしれないが………俺の住むマンションは割と大きく、くの字型をしていたのできっと間違っては居なかったはずだ。



そのマンションは……実は明塚さんのお父さんが持っているものなのだが、俺と明塚さんが同じ学校とゆう事で母親同士が仲良く…また、優しい明塚さんのお父さんも俺と俺の姉ちゃんにお父さんが居ないことを気にかけてくれていた。



そんなマンションが………何故か先生の家のテレビに流れているニュースに出ていたのだ。



一切の明かりもついていない………辺りが『青く光る』マンションが………。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「………………んん……………。…………またか。」



重たい瞼がゆっくりと開く。


まだ太陽が登り始めたばかりなので、建物に差し込む光は赤い。



取り敢えず体を起こそう………そう思い………辞める。



今日はいつもと違う朝なのだ。




「………まあ、そりゃ寝てるよな。」



すっぽりと、俺の胸元に収まるように丸まりながら静かな寝息を立てる少女………希歩。



昨晩はピンッと立っていた耳は、今は頭部にピッタリと張り付くように寝ており、ちょうど俺の腰に乗せられるように尻尾がある。



白い………狼を思わせる獣人の少女。本人から直接聴いた訳では無いが………最近母親を亡くしてしまったと思われる少女だ。



人類がこの世界で安寧を保証出来る境界線………『セーフライン』。



その外際である『レッドゾーン』を生きてきたであろう少女………そこら辺の子供とは訳が違う。



しかし、そうは言ってもやはり希歩はまだ幼い………。



幼くして親を亡くし………この過酷な場所に独り残されてしまったのだ。




幸せそうに眠る彼女の顔………その姿が、夢に出てきた幼き日の自分と被さる。




「…………俺もあの時、綺麗とか呑気なこと言ってたな……………。母さんが死んだって分かった時もどうしようもないくらい泣いてたし。」



………あの時は、確か姉ちゃんに泣きついてたな。



自分も泣きたかっだろうに………何とか涙を堪えて「大丈夫だよ。」って声をかけ続けてくれていた………。




「………………ふわぁ………。ぉはようございます………。」



「おう、……おはよう。」



もそもそと毛玉が動き始めた。



しかし、毛布から抜け出そうとしている訳ではなく……むしろよりフィットする場所を探して体を擦り付けてきている。


きっと母親にも同じように甘えていたのだろう。



「………ゆっくり寝かしてやりたい所だが…………、おい起きろ。」



希歩の方を掴み、少し乱暴に揺り動かす。



「うぁ…………はいぃ………。」



「はい、って言ったな。ほら起きるぞ。」



寝ぼけながらも彼女は同意したので、2人の体を包む毛布を無慈悲に剥がす。



今は10月の終わり。冬ほどでは無いが朝は肌寒い。



正直俺も寒いのだが、この調子でいつまでもぬくぬくしてはいられないのだ。



「さ、寒いです…………これは流石に寒すぎます………。」



「おいくっ付くな、邪魔だ。…………あぁもう。1枚羽織っとけ。」




俺が毛布を引き剥がした為か、希歩は再び毛布で暖を取ろうとはしなかった。



その変わり、寝ていた時のように俺にしがみついて暖を取ろうとしてきた。



早く出発の準備をしたいのだが、これでは邪魔で仕方がない。



………だが、改めて見ると希歩の服は薄いロングTシャツと丈の短いホットパンツだけ。靴どころか靴下も履いてない。



流石にそんな彼女を何も無く引き剥がすのは可哀想なので再び毛布で包んでやる事にした。



「悪いが朝はこれと水だけだ。昼までに駅に付けばもう少しマシな物が食えるから我慢しろよ。」



「いえいえ!、何もしてないのにご飯が貰えるなんて………それだけで凄くありがたいです!!!。」



夜に食べたカップ麺には遠く及ばないだろうが、チョコ風味の甘いエネルギーバーなら嫌がりはしないだろうと思い、リュックの中の食料袋から取り出す。



案の定、渡して直ぐにもぐもぐと軽快に食べ始めた。量は多いわけでは無いが昼まで体を動かすには足りるだろう。



「食べながらでいい、移動するぞ。」



「あ、ふぁい!!。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あのぉ、………本当にご一緒しててもいいんですか?。」



「なんだよ今更。仕方ないだろ、1人で置いとけねぇし。」



 ビルを出て、通りを歩く。



道には砕けたガラスや瓦礫など怪我に繋がりそうな物が散乱しているので希歩の足には止血用の丈夫な包帯を巻いてある。



……だが、そんな彼女が心配してきたのは自分の足ではなく…今のこの状況そのものだった。



「……まあ、無理も無いか。分からないことだらけだろうからな。」



「は、はい。………私、実はお母さんから………お母さん以外の人間と話しちゃダメだよって………みんな悪い人だよって言われてたんです。………でも水輝さんは凄く優しくて……だから今、凄く頭の中がグルグルしてるんです。」



「あぁ……なるほどね。」



この子に人間と話さないように教える辺……希歩のお母さんは本当に希歩の事を『愛してたんだな』。



「………いいお母さんだな。それは間違っちゃいないよ。」



「え?……でも水輝さんは優しいじゃないですか……………。それに………お母さんは私の事…………嫌いって……………。私を見ていると苦しいって……………。」



(獣人の母親が、娘を見て苦しい…………それも間違っちゃいない。)



……だが、当然本心から嫌いなんて言ってるはずもない。きっと別れた時の状況が悪かったのだろう。



何故母親にそんなことを言われたのか………説明しても良いのだろうか………。



希歩の………獣人の母親が自分の娘を見て苦しいと思うにはしっかりとした理由があるのだ。むしろ、そんな娘を愛し・育て………娘の命を守る為に死ねる母親が………本気で娘の事を嫌いなはずが無い。



「………お母さん………どうして……………。」



「………まあ、そこら辺の話もこんどしてやるよ………お前にとって良い事かは知らんが。それでも聞くか聞かないかは自分で決めろ………………『この後』にな。」



「へっ?………………って………………あぁぁ。」



足を止め、先に待ち構える生き物を見る。



低く構える背の姿勢ですら1メートルはあろう四足獣…………、


青く変色した体毛が特徴的な………前時代では『狼』と呼ばれていた姿の生物。



「 オル=ガルム だ。見た目に個体差はあるが、イヌ科の動物が黒化適応(オルト)した生物だ。」



「あ、あの………逃げないんですか?。」



目に見えて怯えている希歩………だが、逃げる判断は少し待った方がいい。



「戦えないなら逃げるべきだな。だが直線で逃げても直ぐに追いつかれる。建物に逃げ込もうとしても…………」



そう思い身近な建物を見てみるが、どれも人が潜れる穴は簡単にガルムも通れてしまう大きさだ。また、潜るのに少しでも遅れてしまえば飛び出している部分を噛まれ、無事では済まない。



「足が遅い、感覚器官が弱い……とかなら、どれだけ強い黒化生物(オルター)だろうとやり過ごせるんだがな。こうゆう逃げれないしすぐ見つけてくる雑魚も存外厄介なんだよな。」



「じゃ、じゃあ…………一体どうするんですか??。」



縋り付くような……とゆうより実際に縋り付いて来る希歩を引き剥がし、ストラップで提げていたPDWを構え、レシーバーとストックの接合点のすぐ上にあるコッキングレバーを引き………初段を装填する。



「だから、逃げるのは戦えない時だって。『戦うん』だよっ…………って言っても……そうか、これが銃って事も知らないのか。デカい音がするから耳塞いで下がってな。」



不安そうにしながらも、大人しく俺の言うことを聞いて後ろに下がる希歩。



そのやり取りの間にもビルの合間からガルム達が現れ、その数は8匹程になっていた。




「さてと………。1匹5発か……しっかり当たってくれよな。」







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