獣人の少女
「うぅ………美味しい……………。」
「そうか………、なら良かった。」
カップ麺を準備してやると希歩は、先程までの怯えた様子が嘘のように一心不乱に麺をすすり始めた。
ぎこちないながらも箸を箸としてきちんと使おうと頑張るその姿勢がかわいらしい。
…………だが、希歩の見た目は人間で言うと大体12歳程度だ。
人間の12歳と言えば……やはりまだ子供と言わざるを得ないが、癖が着いてしまっていない限りは箸の扱いに苦戦することは無いだろう。
だが、希歩は違う。
俺の箸なので希歩の手には少し大きいが、それでもその扱いはぎこちない。最近箸を使い始めた、あるいは練習中のより幼い子供のようだ。
(…………まあ、それも当然か。)
この容姿の時点で希歩の出自はわかって当然だ。
セーフラインの外……レッドゾーンを稼ぎの場とする者なら知らないはずがない。
麺を食べきり、汁を飲み始めたのを見てからカップで茶を沸かす。
「一応甘い飲み物もあるが……さすがにこってりしすぎるだろうからな。お茶で我慢な。」
「あ……ありがとうございます……。」
1口付けてその熱さに驚き、目を丸くしてしまう希歩……その純然な反応が、見た目以上に彼女を幼く見せる。
火と食事で、飢えと寒さを取り除いてやると希歩は一気に俺に対しての警戒心を解いてくれた。
未だに俺の事を注視してくるが……注意深く見てくるとゆうより好奇心から見てく来ているようだ。
「俺は舞葉 水輝って言うんだ。舞葉が苗字で水輝が名前な。」
「………苗字?………って、何ですか?。名前がふたつあるんですか?。」
名乗ってみた所、どうやら希歩ほ苗字を知らないようだ……まあ、無理もない。
レッドゾーンで、獣のような子供が1人………。それなら考えられる可能性は2つしかない。
「分からないって事は希歩には無いんだな。名前の前とか後ろに付くのが苗字なんだよ。家族とか一際仲のいい人とかで同じくグループだってゆう事をアピールする為に名乗るんだよ。」
「そ、そうなのですか………。でも、希歩はお母さんからも『苗字』?を教えて貰って無いで………す、………………ぅぅ。」
(やはり苗字が無い……それにお母さんと言ってるとゆう事はやはり『野良』の…………って………え?。)
誘導尋問のように、さり気ない会話にして投げかけた質問の答えから考えをまとめようとしたとき、………希歩がいきなりふるふると震え始めた。
「お、おぉ……お母さんがぁ……………、嫌いって………ぎらいっでぇ………………。」
「ど、どうしたんだよ?!………。」
震えている……かと思えば突如泣き始めてしまった。
俺の前とゆう事もあるだろう、何とか堪えようとしているやうにもみえるが………それでも溢れ出る涙を希歩は抑えきれていない。
「お母さん………、お母さんがぁ………ぁっ、ぁぅぅ……。」
「お母さんって……………。」
計算式のような物だ。
1が見え、+が見え……その後に1が見えて=が来れば………その先は直接見なくても2だと分かる。
いま、お母さんと呟きながら泣いている希歩も変わらない。
レッドゾーンで、獣のような子が、お母さんと呟きながら泣いている………聞かなくとも何があったかなんて分かりきっている。
「そうか……大変だったな。」
「………ぅぁぁぁあああぁっ!!。」
近づき、声を掛けてやる………。
すると堪える事も辞めた希歩が泣きながら俺の胸元に飛び込んできた。
ドンッと決して優しくはない衝撃、それでも泣きじゃくる暖かな子供に対して嫌悪を感じれるはずもなく……泣きつかれるままにされる。
そうやって少しの間、何も喋らずただ希歩を受け止め続けてやる。
数分程度たった頃か、
希歩は泣き疲れてしまったようでそのままスヤスヤと寝息を立て始めた。
「………参ったな………引っ付いたまま寝られちまった。」
引き剥がすのも可哀想なので、そのまま床に敷いた毛布の上に戻り……横になる。
毛布を敷いているとは言え床は固く、冷たい。
だが、自分にしがみつく希歩から伝わる柔らかさと温かさが床の感触をじわじわと上回ってくる。
「………あったけぇな………。ガキじゃ無かったら完全アウトな状況だけど…………。」
冷静に考えると子供も子供でアウトなのだが…………しかし、これは不可抗力というものだろう。
さっきあったばかりの俺にここまで甘えてくる………それはそれほどまでに追い詰められていたとゆう事を暗に示している。
特別何かをしてやろう何て考えてはいないが、それでも大切な人を失ったこの子の悲しみを………埋めることは出来なくとも、ほんの少しでも紛らわす事が出来れば幸いだ。
「……………あぁ、…………意識が………。」
心地良い………1人では絶対に得られない温かみ。
大人として寝かしつけてやろうと言うような感覚で居たのだが……気づけば俺は、寝息を立ててしがみついてくる希歩にあっさりと寝かしつけられていた。