出会い
普段聞きなれない言葉が多々現れるかと思いますが、是非グーグル先生に聞いてみて下さい。きっとこれの事を言ってるんだと画像でイメージ元が分かると思いますので、よりリアルな情景が想像できるかと思いますd('ω' )
ターンッ!! ターンッ!!
乾いた銃声がビル街に響く。
「……たくっ、『終電』が近いからって急いで『駅』に向かってる奴が居るな。」
ターンッ!!!……………タタタタタタタッーンッッ!!!!……………
その銃声は次第に激しさを増していき………しばらくすると突然鳴り止んだ。
「死んだか?……それとも殺ったか?。まだ2層目何だから、大人しくすれば夜だって危険は無いのに。」
俺が小さい頃、11歳の時……世界は大きく変化した。
簡単に言えば世界は………いや、この言い方は正しくないか。
そう、正確に言えば『人の世界』が狭くなった。
ざっと80分の1くらいに。
その残された土地に残された人間が生きていく基盤が確立されてから、満足に人が生活できるエリアから距離に応じて層分けされている。
2層目は最寄りのセーフラインから直線にして30キロメートル程離れているエリアの事で、気を付けてさえ居れば特筆される危険は無い。
「回避できる危険しかない場所で、わざわざデカい銃声を上げなくても良いだろうに。………と、人の事を考えるのは後だな。」
ひび割れた舗装の道と並ぶように建つボロボロの建物。
その建物の中でも特に状態の良い6階建てのビルの前で歩みを止める。
肩からストラップで吊るしていたPDW(貫通力に優れた小口径弾を撃つ小型の銃火器)を構える。
右手でグリップを握り、グリップの中にあるマガジンを抜く。
中に、小さいがここで生き残る為の最後の手段である弾丸がきちんと詰まっている事を確認し、親指で軽く押しこみ、きちんとせり上がってくる事を確認してから戻す。
「給弾不良無し、詰まったら容赦なく捨てるからな。」
誰に言うでもなく、一人きりで冗談を言うと銃の収納出来るタイプの細いストックを肩にあて、いつでも狙える状態にしてビルの中へ入る。
外は既に日が沈み、みるみると暗さを増していく。
ビルの中ともなれば既に明かりが無ければろくに見えない状態だったので、銃に着いているフラッシュライトのスイッチを付ける。
決して狭くは無いが、中は壁が少なく部屋数も少なかった。
だが、6階全てを丁寧に確認し終える頃には外は完全な暗闇と化していた。
フラッシュライトは光量は十分だが照らせる範囲はライト正面の狭い範囲に限りれる。バッテリーによる使用制限も。
なので背負っていたリュックから固形燃料を取り出し、床材を確認してからライターで火を付ける。
少し炙られた後、固形燃料の表面に移った小さな火は瞬く間に全体へ広がり………暖かな熱と光で辺りを照らす。
「………ふぅ………、取り敢えずは一安心だな。」
辺りを見回す。どうやらここは会社のオフィスだったらしく、同じような机が並んでいる。
銃を取り、フラッシュライトの光で部屋を照らし『恐らく有るであろう部屋』を探す。
「………おっ、あったな。」
立ち上がり、その部屋へ向かう。
この会社がまだ機能していた頃、この部屋は『給湯室』と呼ばれる場所だったのだろう。たくさんの引き出しと辛うじて原型を留めているウォーターサーバーらしきものが見える。
「やっぱり、少し探せば見つかるもんだよな。1夜明かすには十分すぎる。」
それなりの大きさの毛布とカップ麺を両手で抱えれるだけ持ち出し、再び固形燃料の火の元へ戻る。
鉄製の簡素な3脚を火の上に設置し、同じく鉄製のカップに水を注いで置く。
毛布は丁度横になれるように2枚を床に引く、もう1枚あるがこれは体に掛けるようだ。
誰しもが幼い頃に経験したと思うが、怖い物を見た後はただ横になるよりも毛布などに埋もれた方が安心する。
それが苦手な人も居るとは思うが、人は基本的に狭い場所……肌の多くが他の何かに接触している状態に安心感を覚える。
また、体温を高く保つにも重宝し肌触りも良い。
常に緊張状態で居なければいけないセーフライン外において、休息時に効率的なリラックスを出来ることには大きな意味がある。持ち運ぶにはかさ張るが、毛布は重要なアイテムだ。
そうこうしている間にふつふつと沸いたお湯をカップ麺に注ぎ、簡単に銃のメンテしつつ5分待つ。
蓋をあけるとラーメンの良い匂いが鼻腔をくすぐり、超列な空腹感に襲われる。
橋を取り出し、麺を持ち上げ………ズルズルと頬張る。
「………うまぁ……。甘みの強い携帯食だけでは絶対に味わえないこの塩気………。味噌の風味と麺の食感が最高だなぁ。」
インスタントとはいえ、塩気・旨味の強い暖かい食事がとれる幸せ。
当然だが、暖かい食べ物は体を芯から温め、美味しい食事は幸福感をもたらす。どちらも心を柔らかくしてくれる大事な要素だ。
一気に麺をすすり、そのまま汁まで飲み干す……。
「…………っとぉ………。そんじゃ、やることも無いんだし……寝るか。」
火の温かさ、ライトの明かり、動く音に食べ物の匂い。
ここではそのどれもが外をうろつく『何か』を呼び寄せかねない。
夜になれば屋内に、安全を確保すれば食事、食事が終われば直ぐに寝る。
ここで生きていく基本中の基本だ。
カップ麺の汁が残ってない事を確認し、火を消してから横になる。
すぐ手を伸ばせば届く所に銃を。
そうして寝支度を済ませて目を瞑れば………対して時間も掛からず俺は眠りにつける。
………………………………
………………………………
………………………………………………………………………ッ…………
……………………………………………………カタンッ………………
(……………居るな……………。)
…………スッ…………………スッ………………
柔らかな物が硬い床に擦れるような音。
限りなく小さいが、その音は確かに聞こえる。
確実にその音が近いて来ている事も……直ぐにわかった。
(…………全く……、俺少し寝てたよな?。タイミングが悪かったのか?………それもも俺が寝付いたのを見計らってか??。)
もし、気付かず寝てしまっていたら………。
………余計な思考は切り捨て、今に集中する。
ゆっくりと、悟られないように手だけを動かし……銃のストックを握る。
だが、いきなり撃つような真似はしない。銃声を鳴らすのは最終手段だ。
………それに、夜に動き回る生物なら極めて確実性の高い特徴が2通りある。
(…………1つは耳・鼻がいい事。光量の殆どないこの夜に狩りをするなら視覚に頼らない。)
銃を体に引き寄せ、銃口を音に向ける。
そして……トリガーに指をかける………のでは無く、
(………もう1つは…………限りなく…………『目が良い』事!!。)
フラッシュライトのスイッチを付ける。
元々フラッシュライトは対人にも使える装備だった。
強力且つ狭い範囲に集中される光は、暗闇を照らすだけでなく……人の目に『直接向ける』事で一時的に視力を下げる。
もし、相手が目や鼻で獲物を探る奴なら対して相手を刺激する事も無い。
………もし、相手が少ない光量でも視界を確保出来る奴なら………いきなり向けられたこの圧倒的な光の束は………視力を奪うには十分だろう。
(………さあっ、姿を見せやがれ!!!。)
「きゃあっっ!!!!。」
照らし出されたのは異形の怪物………では無かった。
高い声を上げ、小さなそれは床に蹲っていた。
銀色の綺麗な髪とそこから生える大きな耳を手で守るように抱え、小さくうずくまった体をこれまた銀色のふわふわなしっぽで気休め程度だが保護している。
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃいい!!!!。」
「…………お、おい。」
「お、お腹がすいてて!、いい匂いがして!!!!。でも驚かしたらダメだと思って静かになるまでまっててて!!。」
「………はぁ、話を聞けよ。」
半分程にまで減った固形燃料に再び火をつけると、またカップで湯を沸かす用意をする。
可愛らしく震えるこの小さな銀色の毛玉にはまだ少しも変化が無い。
取り敢えず掛けていた毛布を被せる。
毛玉は1度ビクリと大きく震えたが、それが毛布だとわかったようで震えは少し収まっていた。
「お前………名前はあるのか?。」
「は、はいぃい!!……ありますごめんなさいぃぃ!!!。」
「………お前なぁ。早く顔上げて名前を言え………じゃないと焼くぞ。」
「………あぅ………。」
決してそんなつもりは無いのだが………ジリジリと照りつける火の熱量を感じたのか、ゆっくりと体を起こす毛玉。
「………キホ……です。字はこう描きます……。」
そう言ってきほは空中に指で、『希』と『歩』と書いた。
文字を知っている………だが、当然ここへ迷い込んできた子供等ではない。
身なりはボロボロの薄い服1枚、肌は透き通るような白で、人間には無い耳・尻尾は髪と同じ美しい銀色。
顔つきは子供そのものでかわいらしいが………その赤い目は何故かあどけなさとはまた違った蠱惑的な感情を抱く。
聞きたい事は山ほどある。
…………だがまずは、
「…………まあ、後5分待てよ………。カップ麺だが食わしてやるよ。」