ウソ予告『にゃんこ先生と子どもたち』
ある夜、裏山に光る何かが墜落した。
山では、子どもたちが山の通称マタギの爺さんのところで『林間学校』中だった。
なんだなんだと現地に駆けつけた子どもたちが見たのは。
「ね、猫!?」
艦載機のようなものが墜落していて、女の人が倒れている。
ただし。
その人は猫の頭としっぽをもつ、あきらかに地球人類とは別の存在だった。
「コスプレ?」
「ちげーよ、みろよ息してるし動いてるぜ。こんなん、つくりものじゃ無理だろ。
それにこの乗り物みろよ、こんなんどこの国が作ってんだ?
あと、なんか字、書いてるけど……こんな字見たことねえぞ」
「え、すると宇宙人!?」
「お、おい、おめえ通報しろ!急げ!」
「ちょっとまって、通報したらこの人どうなるの?」
「あ……」
騒いでいる最中に、おっとり刀で現れたマタギの爺さん。
フムと考え、とりあえず脈をとり外傷を調べた。
「よくわかんねえが、構造は人間とそんな変わらねえみたいだな。頸動脈もあって脈もとれる。
大怪我は……してねえな。
頭や内臓やってたらわからんが……ふむ。
よしおまえら、家に運ぶから布団出しとけ!場所はわかるな?」
「え、でも」
「バカヤロ、バケモンだろうがへちまくれんだろうが、けが人はけが人だろうが!
さっとさと行け小僧ども!」
「「「は、はいっ!」」」
しばらくして目覚めた女性は、意外にもしっかりした日本語で挨拶してきた。
「ほう、宇宙人か!そりゃまた珍しいお客人だ」
「エムネア・パルティ・アマルーといいます。失業中ですが、職業は教員です。助けてくださって感謝します」
「先生なのかい、こりゃ失礼した。
礼ならガキどもにいってやってくれ。
それで、痛いところやまずいところはないか先生?
あと、これ食えるか?」
「ありがとうございます、いただきます。
痛みはありませんが……わたしの乗ってきたビークルはどうなっていますか?」
「ああ、これでいいかい?」
マタギはポケットから携帯を出すと、写真を表示して見せた。
「かけてある青いシートはビニール製だ。とりあえず雨から守っているが、晴れれば高温多湿が心配だな。
見たところ、コックピットみたいなところの蓋が開いていたが、見た目上の壊れたところは見当たらなかった」
「なるほど、ありがとうございます」
翌日、調べてみたが乗り物はエネルギー切れだった。
「小型機ですけど、故障しないからって油断してました。
暴走の原因は止めましたけど、これじゃ半年は帰れませんね」
「半年?」
「飛ぶだけなら明日にも飛べますけど、故郷に帰るにはハイパードライヴ……つまり超光速飛行をしないといけないんです。
そのための空間跳躍システムのエネルギーを得るのに半年はかかるんです」
「エネルギーを得るって?」
「あー……わかりやすく言うと、この機体はこちらで言う燃料電池みたいな仕組みでエネルギーを作ります。そのエネルギー源は複数あって、故郷ではエネルギースタンドで一発補給するんですが、太陽光や温度差などからでも随時、吸収できるんです。
でも、ここは大気圏内なので吸収効率が悪くて、とても時間がかかるんです」
「ほほう……太陽光や温度差で、宇宙のはてに帰るほどの力が半年でたまるのかい?」
「いえ、それは無理です。
半年でたまるのは、近くにある補給ポイントまで移動するための最低限のエネルギーですね。
あるいは、太陽の近くに移動して、直接大きなエネルギーを作ります。
それで帰ることができます」
なるほど。
「そうか……ま、ゆっくりしていきなさい。こんな田舎じゃ何もないが」
「すみません」
超のつく田舎で若い女のお客様は歓迎される。たとえそれが宇宙人であっても。
いたずら盛りの子どもたちが、たちまち彼女、エムネアにむらがった。
集落ではエムネアを自然に受け入れていった。
これが見知らぬ人間の女なら、当然起きるべき田舎の摩擦が起きなかった。
人間基準の美醜からあまりにもかけ離れている。
首から下のスタイルはたしかに人間に近いが、肌の色も違うし両手には大きな爪もあり、さらに足に至っては肉球つきの猛獣のそれなのだ。洋物ファンタジー作品の獣人族のような、獣と人が混じり合った姿は、あまりにもインパクトがありすぎた。
この見た目のせいで、人間側のどろどろ愛憎劇に巻き込まれにくかった。
そのくせ中身はというと高い知性をもち、人の心にトゲをたてない気遣いもできる。
自然にエムネアの立場は、人間関係の潤滑剤のようになっていった。
そうこうしているうちに集落の皆が次第に折れ、エムネアは本格的に受け入れられていったのだ……。
そうして、季節が2つほど回ったある日の事。
「野島んとこのアキじゃが、そろそろ産休入りたい言うとったぞ。
エムネアさん、あんた職業は教員だってな。
かわりにガキどもの面倒見てもらう事はできんかな?」
「え?わたしがですか?」
「あンのクソガキどもも、なついておるようじゃしの。
まぁ教育要項が違うじゃろうが、アキと情報交換はしとったろ?
日本語がわかるようじゃし、可能と思うんじゃが……どうじゃ?」
「いいんですか?わたし宇宙人ですよ?」
「言っちゃあなんだが、うちは限界集落もいいとこでのう、医者も教師もおらんのじゃ。
野島の小娘も、もともとは都会で仕事にあぶれたうえに男にも捨てられて帰ってきた身でな」
「……」
「ぶっちゃけ、妖怪だろーが宇宙人だろーが、信用できればそれでええ。
その点、あんたは問題ないじゃろ。
しかも外国とはいえ教員の資格持ちとなれば、こっちとしてはありがたいんじゃが」
「わかりました……やらせていただきます!」
猫の宇宙人、日本の田舎で先生になる。
後に地球史に語られる『にゃんこ先生』事件の始まりである。
いわゆるウソ予告です。
一応、うちで書いている『α』シリーズの一部となります。