67話 【グリーンウィング】の反撃
B級ダンジョンの二階層、森林ステージの南西には自然の霧が発生しており、視界は二十メートル位しかない場所があった。
その場所に【グリーンウィング】のメンバーは集まっていた。
周辺の調査は既に終わっており、メンバーの頭の中にも周辺の地図は入っている。
「【デザートスコーピオン】は本当に来るのか?」
「絶対来るってラベルさんが言っていたから間違いないよ」
「そうですね。私達は【オラトリオ】を信じるだけです。もし【デザートスコーピオン】が現れたら訓練通りに頑張りましょう」
「そうだよね。マスターの言う通りだよ。必死に訓練してきたんだから私達は絶対に勝てる」
フランカの言葉にエリーナが答えた。
エリーナの声に合わせてギルドメンバー達も強く頷いている。
【グリーンウィング】のメンバーがこの場所にいるのは、当然ラベルの指示であった。
この場所に【デザートスコーピオン】をおびき寄せるから、待ち構えている様に言われてる。
ただ準備を終えて待ち始めて、既に一時間を経過しているのだが【デザートスコーピオン】が現れる様子はない。
待っている間もずっと周囲を警戒しているので、当然神経はすり減っていく。
現れるなら早く現れて欲しいと言うのがメンバー全員の正直な気持ちだった。
★ ★ ★
そのまましばらく待っていると、静かな森の奥から人の気配が近づいて来るのを感じた。
すぐに聞き覚えのある野太い男性の声が聴こえ始めた。
「間違いありません!! あの声…… 【デザートスコーピオン】が現れました。みんな用意はいいですね。さぁ用意した袋を担いで」
「うん」
「任せてくれ」
「今日でケリをつけてやる」
【グリーンウィング】のメンバーは縦に長い陣形を組むと【デザートスコーピオン】のメンバーがギリギリ認識できる距離で逃げ始めた。
突然目の前で十人位の人影が動き出した事で【デザートスコーピオン】も【グリーンウィング】の存在に気付く。
「おいっ!? 前にいる奴等【グリーンウィング】じゃねーのか? ふははははー、やっと見つけたぜ!! 今日でケリをつけてやる。お前らあいつ等全員捕まえるぞ。やっと見つけた金づるだ少々の怪我なら構う事はないぜ。徹底的に痛めつけて、俺達の言う事を聞かなかったらどう言う目に合うか体に叩き込んでやれ!!」
「狩りの始まりだぁぁー 追えぇぇ」
「俺達を楽しませてくれよぉぉぉー」
【デザートスコーピオン】のメンバー、総勢二十人は半狂乱となりながら、前方を走る【グリーンウィング】のメンバーを追いかけて行く。
二十メートルの距離を保ち、木々を潜り抜けて【グリーンウィング】は逃げ続けた。
その背後からは倍の人数で【デザートスコーピオン】が追いかける。
追いつかれればそこで終わりの状況だった。
「おい!? 奴等が担いでいる袋から落ちてる鉱石って、噂の鉱石じゃねーのか?」
「そうだ。きっとそうに違いねぇぇ。折角集めたお宝を落としやがって、早く捕まえねぇぇと、鉱石が全部落ちてしまうぞ」
【グリーンウィング】のメンバーが担いだ袋には小さな穴が空いており、そこから黒色をした鉱石が落ちていた。
その鉱石を【デザートスコーピオン】のメンバーはレア鉱石だと勘違いしている。
これはラベルが【ブルースター】に依頼して【デザートスコーピオン】に流した情報によるものだった。
【グリーンウィング】が五階層のダンジョンの何処かでレア鉱石を見つけ、その鉱石がギルドで高値で引き取られていると。
更にその鉱石の場所を知っているのは今の所【グリーンウィング】だけで、ダンジョンに潜り、鉱石を採取し続けていると。
そしてこの場所に【グリーンウィング】が居る事を流したのも【ブルースター】のレクサス達だ。
【デザートスコーピオン】のメンバー達は嘘の情報を信じ、【グリーンウィング】のメンバー達が最近姿を見せなくなった事を、鉱石を取りに潜っていると無理やり結び付けてくれた。
嘘の情報に飛びつき、この場所におびき出されたという事実をこの時点で気付く者はいなかった。
「鉱石も確認させました。では予定通り、作戦に移ります」
「はい!!」
逃げる【グリーンウィング】のメンバーが左右に二人ずつ散っていった。
その片方の二人はハンネルとエリーナである。
逆側はアーチャーと斥候職の男で二人共素早い動きを売りにしている者達だ。
当然、ハンネルも反対側に分かれた仲間も鉱石入りの袋を持っている。
「おいおい、左右に分かれちまったじゃねーか。どうする?」
「全員捕まえるに決まっているだろ? 左右に二人? じゃあ倍の四人ずつで追えば楽勝じゃねーか。 残りは俺達が仕留めるから、さっさと行け!!」
「それなら俺に任せてくれよ。なぁ今回手に入れた鉱石は当然貰ってもいいんだろ?」
「好きにしろ。後で幾らでも稼げるんだからな。今回くらいはいい思いをさせてやる」
「聞いたぜ。その言葉を忘れるなよ」
ギルドマスターの号令で、歓喜に満ちた強欲なメンバー達が別れたメンバー達の後を追い始めた。
「敵は餌に掛かりました。私達はこのまま逃げますよ。絶対に追いつかれたらいけません」
フランカは作戦の成功を確信しはじめる。
★ ★ ★
二手に分かれたメンバーは袋を投げ捨て、近くの木々に身を潜めた。
相手は四人で倍の人数である。
後を追って来た【デザートスコーピオン】は当然、その場に投げ捨てられている袋に気付く。
「おい。あいつ等。袋を捨てやがったぜ。逃げるのに必死だったんだろ。ひっひっひ。じゃぁ、この袋は俺の物だ」
「何言ってやがる。お前一人の物じゃねーぞ。俺達全員の物だ」
「なんだとぉぉ? 俺が拾ったんだ。俺の物に決まっているじゃねーか」
【デザートスコーピオン】の連中はお宝の所有権をめぐり、小競り合いを始めた。
彼等は寄せ集めのメンバーであり、利害が一致したから同じギルドにいるだけの関係だ。
友情や信頼関係よりも自分の利益にしか興味はなかった。
この事は事前の情報収集で分かっていた。
「ハンネル、ラベルさんの言った通りになっているよ」
「本当だ。こんな戦い方があったなんて」
「じゃあ次はこっちの反撃だね。訓練通りならそろそろ集まる頃だし、行動開始だね」
「分かってる。遠慮は無しだ全力で打ち込もう」
ハンネルはスキルを発動させ、巨大な炎の玉を作り上げると小競り合い中の四人に向けて投げ飛ばす。
「うぉぉ。敵襲だ!! 今は争っている場合じゃないぞ。まずは逃げた二人を捕まえるんだ!!」
「チッ、仕方ねぇな。それで何処から魔法を撃って来たんだ?」
「俺は見ていたぞ。あっちの方向だ」
霧が周囲の視界を阻害している為、ハンネル達の居場所を特定できないでいた。
その後一人の男が一つの方向を指す。
だがその直後、背後から数本の矢が【デザートスコーピオン】を襲う。
「おい、違うじゃねーか? もしかして二手に分かれているのか?」
だがその瞬間男が指さした方向からまた矢が放たれた。
「おい。どうなっているんだ? 敵は二人なんだぞ。なんで魔法が飛んできて違う方向から矢が飛んでくるんだよ。二人以上いるって事なのか?」
今度は三方から同時に遠距離攻撃が放たれた。
その攻撃で二名の冒険者が負傷を受ける。
ハンネル達の攻撃で敵が集団から個にバラけた瞬間、木陰から斥候の男が斬り込む。
「うぉ!? こいつ反対側に逃げた奴じゃねーか!? なんでここにいるんだよ?」
【デザートスコーピオン】の冒険者は状況が飲み込めず混乱していた。
「背後から魔法がぁぁぁ」
斥候と斬り合っている間、背後からまた遠距離攻撃を仕掛けられ四名いた冒険者は全員が倒された。
実は左右に分かれたハンネル達は大きく半円を描く様に移動し、互いに合流する様に動いていた。
二人ずつ逃げている様で、実は挟撃を仕掛けるのが目的だったのだ。
半円を描き合流した場所は、【グリーンウィング】の本陣を追いかけている【デザートスコーピオン】の背後。
斥候達も袋を少し離れた場所で投げ捨てているので、強欲な追撃者は偽物の鉱石を取り合っている最中だ。
四人が揃ったハンネル達は残りの追撃者にも挟撃を仕掛け、短時間で全員を倒す事に成功する。
だがそれで終わりではない。
八人の追撃者を倒したハンネル達はフランカ達を追う【デザートスコーピオン】の背後を突く為、再び走り出した。




