63話 情報収集
情報収集を行う前に、レクサスとプルートは装備を脱ぎ捨て私服に着替え始めた。
流行りの洋服に身を包み髪型を少しいじるだけで、二人の見た目は屈強な冒険者ではなく、年相応の若者へと変わる。
着替え終わった二人は何処から見ても冒険者では無く、街で働く青年であった。
変装を終えた後、二人が最初に向かった場所はとある酒場だ。
王都は広く、歓楽街や人が集まる所などが各所に作られており、数百を超える酒場が点在している。
その中から目的の情報を得る為に一番効率の良い酒場を既に選別していた。
到着した酒場には冒険者から一般の者まで多くの者達が出入りしている様子が見えた。
二人も都民を装いながら店内に入ると、すぐに行動を開始する。
「あんた達はA級冒険者なのか!? すげぇーな。俺に一杯おごらせてくれないか?」
「悪いな」
「いいって気にしないでくれ、もし良かったら奢った酒が無くなるまでの間、ダンジョンの話を聞かせてくれないか?」
「あぁ、いいぜ。俺達がアタックしているA級ダンジョンの話をしてやるよ」
この流れは酒場では良く見る光景だ。
娯楽の少ない都民は興奮する冒険譚を求めて、酒場で冒険者を見つけると気さくに話しかけ、相手が嫌がっていなければ酒を奢り、冒険者にダンジョンの話をして貰う。
もし冒険者が嫌がれば、一言謝ってその場を去るのがルールだ。
冒険者にとってもタダで酒が飲める上に、自分やギルドの名前を売れるチャンスなので、機嫌良く話をしてくれる冒険者が多い。
冒険者は名を売る為にリアクションを交え、盛り気味で臨場感のある話を語るのが礼儀となっている。
名が売れた冒険者は民間の仕事で指名される事もあるし、ギルド単位で受ける依頼の場合もあるので、都民には良い印象を与えておかなければならない。
冒険者にとって名前を売るのは大事な営業の一つだった。
「うひょー!! 流石はA級ダンジョンだな。でもA級ダンジョンって相当な実力がいるんだろ? ついて行けない仲間とか出なかったのか?」
「そりゃ、ギルドメンバーの中でもついて行けない奴もいるな。仕方ないからB級ダンジョンで訓練してもらって実力を上げてもらうか、ギルドから出て行って貰っている」
「なる程、そうなるのか。冒険者の世界ってやっぱり厳しいよな。最近で言えば誰かギルドを去った冒険者とかいるのかい?」
「最近? そう言えば数カ月前にガインツがギルドから出て行ったよな?」
話をしていた冒険者は隣の仲間に視線を向けた。
「あぁ、俺はアイツの事が嫌いだったから、せいせいしたぜ。弱いくせに人が集めていた素材を盗みやがるからな。一度、現行犯で見つけた時は締めてやったが、弱い癖に言い訳ばかりしやがって、全く姑息な奴だったぜ」
「へぇー ガインツさんって人がいたのか。なぁ、もう一杯おごらせてくれよ。もっと話を聞かせてくれないか?」
「おっ悪いな」
レクサスとプルートは手分けをして【デザートスコーピオン】のメンバーが所属していたギルドのメンバーから情報を得ていく。
三日をかけて情報を集めた結果、メンバーのスキル、人間性や性格、実力などの情報が集まり相手の戦力が丸裸となる。
次に【グリーンウィング】の情報も集めてみたが、目新しい情報は得る事が出来なかった。
【デザートスコーピオン】に所属するメンバーの情報が手に入った後、二人は【デザートスコーピオン】のメンバーが良く出入りしている酒場へと向かう。
店内で数名のメンバーを見つけると、二つ離れたテーブルに座る。
「プルート、スキルを頼む」
「任せろ【エリアバイブレーション】」
プルートがスキルを使うと二人が座ったテーブルの上から、声が響く。
プルートのスキルは空間に干渉できるスキルである。
空気を響かせスキル効果範囲内の物体を動かしたり出来る。
ただ行使範囲も狭く、威力が弱いので人を殺したりは出来ない。
数メートル先の相手の耳元で空間を振動させ鼓膜を破る程度が精一杯だ。
しかし使い方次第では色々な事ができる。
今回は相手が話す時に響く振動を感じ取り、自分達の前に再現させていた。
自分達にしか聞こえないボリュームで二人は【デザートスコーピオン】の下らない話を何日も聴き続けた。
張り込みを始めて三日目、二人は遂に目的の情報を手に入れる。
「ひっひっひっ!! 今日は最高だったぜ。逃げ惑う【グリーンウィング】の奴等の姿が面白くてよ。狩りをしている気分よ!! こりゃ癖になりそうだ」
「なんだ。俺の知らない所で遊んでいたのかよ。余り無茶はするなよ、俺達の軍門に下った後はアリの様に働いて貰う予定だからな。怪我でもされちゃ利益が減るんだよ!!」
「心配するなっての!! ちょっとだけ痛めつけてやった程度だよ。家畜の扱いはわかっているさ」
「それならいいが、調子に乗りすぎるなよ」
「それにしても、俺達はツイてたよな。あんな日和ったギルドがあるなんてよ。パシリにしてくださいって言っている様なもんだぜ」
「あぁ、お前の言う通りだ。仲良しこよしでダンジョンに潜ろうって自体が舐めてるんだよ。俺達に使われて世間の厳しさを知ればいいさ」
【デザートスコーピオン】の会話を聞き終えた二人はそっと席をたった。
二人は次に【グリーンウィング】が行きつけている酒場によってメンバーの話を盗み聞きした。
話していた内容は【デザートスコーピオン】に対する不満と悔しいという想いだけだった。
「ビンゴだな。【グリーンウィング】が一方的に【デザートスコーピオン】に襲われているのが判明した。後は集めた情報を整理して依頼者に渡せば終了だ」
「調査を始めて今日で一週間。俺としては今回は黒字で終われて良かったよ。今回の報酬は金貨三枚だろ? フェリシアの話によれば、料金を告げた後に値切りもされなかったようだ。【オラトリオ】は情報の価値をちゃんとわかっている。上客は大切にしないとな」
レクサスは依頼が終了した事で満足感を感じ、プルートは黒字で終われる事に安堵の表情を浮かべた。
二人はギルドホームに帰ると報告書の作成に取り掛かる。
互いに集めた情報を出し合い、数時間かけて報告書を作り上げるとレクサスはスキップしながら【オラトリオ】のギルドホームに飛び出した。
「プルートは休んでいろよ。俺が報告してくるからよ」
「やけに嬉しそうだな?」
「そりゃ、そうだろう。ギルドホームに愛しのリオンちゃんがいるかもしれないだろ? もし居たら俺は絶対に運命を感じちゃうね」
「お前、絶対に馬鹿だろ?」
「恋愛に興味がないお前に俺の気持ちがわかってたまるか!!」
「確かに恋愛には興味はないけど、今のお前が気持ち悪くて【オラトリオ】のリオンに嫌われる事くらいは予想できるぞ」
「誰にも俺の恋路の邪魔はさせねぇからな」
「暴走するなよ」
レクサスは部屋から飛び出して行く。
レクサスの期待は粉々に打ち砕かれ、ギルドホームにいたのはリンドバーグただ一人だった。
リンドバーグに対して舌打ちをするレクサスを見て、リンドバーグは理由が分からず困惑する羽目になる。




