53話 目覚めた後
太ももの上に重みを感じる。
重かった瞼が軽くなると共に意識も覚醒されていき、俺は自然に目を開いた。
視界に映った景色は見慣れぬ室内で、俺達のギルドホームではない。
最後の記憶はハンスにダンジョンコアを飲まされた後までだった。
「俺は確かダンジョンコアを飲まされて……」
ベッドで寝ていたので誰かが助けてくれたのは理解している。
身体も動く様だったので俺はベッドの上で上半身だけを起こした。
起きて気付いたのだが、ふとももの重みはリオンがうつぶせになって眠っていたせいだった。
「あぁ、ダンジョンコアを飲まされた時、ホームに誰かが飛び込んで来たと思ったんだが、リオン達だったんだな。リオンに助けられたのか」
推測をたて、スヤスヤと眠る銀髪の少女にお礼を告げた。
どうやら部屋にはリオンしかいないみたいだ。
「リオンちゃん、私もご飯を食べてきたから交代しよう。リオンちゃんもご飯を食べて少し休まないと持たないよ。みんなもいるからさ」
扉が開き話しかけながらアリスが入って来た。
「よう、アリス。お前にも迷惑を掛けたみたいだな」
俺が声を掛けて驚いたのか? アリスは両手で口を隠し、大きな口を開けて驚いていた。
そしてポロポロと涙を流す。
「ラベルさん!!」
叫びながら俺の傍に駆け寄って来る。
そのまま抱き着きそうになったのだが、急ブレーキをかけて直前で止まると、恐る恐る俺の身体に触って来た。
「本当にラベルさんだぁぁぁ。良かったぁぁぁ」
アリスは声を出して泣き始める。
その声でリオンも目を覚ました。
「んんぅ? えっ、嘘っラッ、ラベルさん!!」
「リオンも迷惑をかけたな。助けてくれたんだろ?」
「ラベルさん、身体は大丈夫? どこかおかしな所とかない?」
リオンにそう言われたので、上半身を動かし腕のストレッチを始めてみる。
「身体か何というか…… 絶好調だな。前より調子が良い位かもしれない」
「ひっく、ひっく、良かった」
リオンも泣きだしていた。
「私…… ラベルさんが死んじゃうと思って。うぇぇぇん」
リオンとアリスは手を取り合って喜んでいる。
「そうだ。私みんなを呼んでくるね!!」
アリスはそう言うと部屋から飛び出して行く。
その後、十分程度で見慣れたメンバーが集まって来た。
リオン、ダン、リンドバーグ、スクワード、アリスだ。
所用でカインは出ているらしく、後で顔を出してくれると聞いた。
全員が喜んでくれた。俺の方も迷惑を掛けた事をもう一度謝罪する。
そして最初に俺はスクワードから今回の経緯を聞かされた。
俺が襲われて今日で三日が経過しているらしく、俺はその間眠り続けていたみたいだ。
スクワードはずっと調査を続けており、集めた情報から見えてきた全貌を話してくれた。
「じゃぁハンスが現れたのは【黒い市場】の手引きだって言う事なのか?」
ハンスが逃げ出した経緯を聞かされ、俺は驚いていた。
「俺はその可能性が高いと思っている。ハンスを解放する事でどんなメリットがあるのかは分からないけどな」
「仲間に引き入れたかったんじゃないのか?」
「いや、違うな。もしハンスという人材が欲しいなら、看守を眠らせた後にそのままアジトに連れて行けばいい事だろ? それをやらなかったのは仲間にしたかった訳じゃないって事だ」
「牢屋に入っていた囚人はハンス以外にも何人かいたんだろ? その囚人達の仲間が起こしたって線は?」
「その日に牢屋に入れられていた囚人はどいつも小者ばかりだった。憲兵所を襲うリスクを冒すほどの奴はいなかった」
「そうか、もしもハンスに俺を襲わせるのが目的だったと仮定するなら…… 俺達の間柄を詳しく知っている奴が関わっているかもな。ハンスが逃げだしたら復讐の為に俺の所まで来ると予想できる人物……」
そう言いながら俺が思い描いたのは一人の女性。
スクワードも同じ人物を思い描いた様だった。
「でもよ、あの女なら死んだだろ?」
「俺もその場にいたんだが確かに死んだ筈だ。だが死体はボロボロで顔は判別できなかった」
当時の状況を思い出しながら説明をしてみる。
「レミリアの事も気になるが、今は手の打ちようがない。最善策として、これからも警戒を続ける以外ないだろう」
「そうだな。スクワードの言う通りだ」
その後、他の者達とも少し話をした。
俺は身体の調子が良いので家に帰らせてくれと言ったのだが、いくら調子が良くても今日だけはベッドで休むように言われた。
明日もう一度治療師に見て貰って大丈夫なら帰れるとの事。
助けてくれた借りもあるので俺は素直に従い、その日は治療室で泊まる事にした。
夜になると全員が家に帰り、部屋に誰も居なくなる。
俺は調子が良くなった身体を動かしてみたくなり、ベッドから飛び降りた。
「最初は準備運動からだ」
その場で屈伸や腕立などの軽い運動を行い、身体の調子を確認していった。
「やっぱりそうだ。今までダンジョンに潜ってきて痛めてきた関節の古傷も治っている。エリクサーを使ったって聞いたが、昔の傷まで治してしまうのか」
関節以外にも体に残って一生消えないと言われていた裂傷の痕も綺麗に消えている。
「じゃあ今の俺は最高の状態と言う訳だな」
次はドアを開き、ドア枠部分に指をかけて指だけの懸垂を行った。
「一・二・三…… 四十七・四十八・四十九・五十っと!」
きりの良い所でわざと止めたが、やろうと思えば百回は出来ていたかも知れない。
「なんとなく感じていたが、やはり力も増している? どうしてだ? エリクサーは傷や怪我を治すための薬じゃ……」
見た目は変わっていないが筋肉量は完全に変わっていた。
理由を考えてみると、みんなと話していた時に気になる事を言っていた。
「確か…… 俺の身体がダンジョンコアの魔力で破壊され黒くなっていて、命の危険を感じてエリクサーを飲ませた。その後、落ち着くまでの間に何度も破壊と再生を繰り返した。 だったかな?」
腕を組んで考えてみた。
「まさか身体が何度も破壊された影響でより強い体になったって訳か?」
そんな事を色々と考えていると、壁に貼り付けられている紙に視線が向く。
「この距離で字も読めるとは…… 視力まで良くなっているじゃねーかよ」
そして笑いだした。
「あははは。エリクサーの万能性を自らの身体で確認するとは想像もしていなかったな。俺はリオンやダンの為に使うと思っていたが、まさか自分が使う羽目になるとは……。だけどそのおかげで俺は生き返る事ができたんだ。新しい体もそして助かった命も大切に使わせて貰おう」
新たな決意を胸に俺は備え付けの椅子に腰を下ろした。
「身体は大丈夫だと言う事はわかった。後はスキルの確認もしておくか、増えてる訳がないとは思うが……」
俺は意識を頭に向けて自分の中にあるスキルを見直してみた。
スキルとは自分の意識に問いかけると知る事ができる。
発動条件や発動のスイッチ、どんな効果があるのか?
それらが自然とわかるのだ。
そして俺の意識の中には【仲間の強化】というスキルが浮かび上がって来た。
これは以前から覚えてたスキルでパーティーメンバーの基本能力を1.2倍に向上させる効果がある。
「おい…… 嘘だろ!?」
俺は驚嘆の声を上げる。
その理由は待望の新しいスキルが浮かび上がってきたからだ。




