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52話 エリクサーはこの人の為に!

 ラベルと別れたリオンは自宅に向かって歩いていた。

 

「ラベルさんは仕事ばかりして、明日はダンジョンに潜るのに自分の身体の事も考えて欲しいな」


 リオンは明日のダンジョンアタックを思い描き、笑みを浮かべる。

 新しくリンドバーグがギルドに加入したが、話してみてとてもいい人だとリオンは感じた。

 このメンバーなら上手く連携も取れる筈だと。


 暫く歩いていると闇の先から何者かが走ってくるのが見えた。

 とっさに腰を落とし、何時でも対応できるように剣の柄を握る。


 その数秒後に現れたのは男女の二人組でリオンはその二人の事を知っていた。

 

「アリスさん。スクワードさん」


「リオンちゃん!!」


 声を掛けられたアリスはリオンに気づき、駆け寄ってくる。


「リオンちゃん、どうしてこんな所を一人で…… いや、それよりっラベルさんは今どこにいるのっ!?」


「ラベルさんとは少し前まで一緒にいましたよ。今はギルドホームにいる筈です。アリスさんそんなに慌ててどうしたんですか?」


「リオンちゃん、驚かずに聞いてね。ラベルさんが狙われているかもしれないの!!」


「ラベルさんが狙われてるって!?」


「それは俺から説明する。とにかく今は急ごう」


 ギルドホームに向かうならと、近道を知っているリオンが先導する事となった。

 途中、スクワードがなぜラベルが狙われているかを走りながら説明してくれた。

 

「ハンスの野郎はあの後、到着した憲兵に連れていかれて専用の施設で隔離されていた。そこで契約魔法を行使され縛られる手筈だったんだが、どうやったかわからねぇが牢屋から逃げ出したんだよ。憲兵側も大慌てで、今はハンスに指名手配が出されている」


「ハンスって言えば、ラベルさんを追放した人?」


「あいつはラベルに強い恨みを持っていたからな、大丈夫かもしれないが早く知らせた方がいいと思ってな。しかし俺はお前達のギルドホームも何も知らないからよ。それで先にアリスに声を掛けたんだ」


「私、なんだか怖くなってきた」


 リオンが不安を口にする。


 その後、十分程度でギルドホームにたどり着いた。

 ドアの前で立ち止まると部屋の中からラベルの絶叫と誰かの笑い声が聴こえてくる。

 誰もが最悪の事態を想像していた。


「遅かったか!? 室内で何か起こっているぞ。猶予は無い、俺達も突っ込むぞ!! 取り合えずリオンはラベルの救出、俺とアリスで敵の殲滅を優先する。それでいいか?」


 スクワードの指示に二人が頷くと三人は部屋に突っ込んで行った。


 部屋の中には高笑いをするハンスとその足元で全身から血を吹き出し、苦しむラベルの姿が見える。

 ハンスは一人で他に仲間は見当たらなかった。


「ハンス!貴様、どうしてここにいる? 牢に入れられていた筈だろうがっ!!」


 スクワードが吠えた。


「チッ、来るのが早いんだよ。まぁいい。今は気分が良いから教えてやってもなぁ」


 ハンスはそう言いながら壁沿いを少し移動した。


「閉じ込められていた牢が突然暗闇になってよ、次に光が灯された時には看守が眠らされた上に牢の鍵も開いていただけだよ」


「誰がやったんだ?」


「知らん。俺も怪しいとは思ったが。俺以外の囚人も牢に居たからそいつらの関係者じゃねーのか? 当然俺以外の囚人も全員逃げ出したしな。俺一人が律義に残ったとしても罪が軽くなる訳じゃないだろ? なら残っていようが逃げようが、未来は変わらず真っ暗なままだ。だから逃げ出したんだよ」


「お前…… まさか【黒い市場】とつながりがあるんじゃねえだろうな?」


「【黒い市場】? そんな奴等は知らねーよ」


 ハンスは【黒い市場】の名前を聞いても反応は薄い。


「それじゃ、やはり踊らされていたんだな? 上手い具合に転がされて死ぬまで利用されるなんて本当に不憫な奴だよお前は」


 スクワードは哀れみの瞳をハンスに向けた。


「何言ってんだ? まぁいい、おっさんにはダンジョンコアを喰わせてやったんだ。もうおっさんは終わりなんだよ、絶対に死ぬ!! 俺だけ地獄に落ちるのは嫌だからな、先に地獄に行って待ってて貰うぜ」


 ハンスは苦しむラベルに視線を向けて高らかに笑う。


「ひゃはははは。やっと俺にも運が回って来たぜ。ラベルのおっさんには会えるしよ。おっさんを助けに来たのが引退したスクワードと女が二人、余裕で逃げ出せるってもんだ」


 ハンスが移動した壁にはリオンやダンの予備の剣が吊るされていた。

 吊るされている中で一番長い剣の柄を握るとハンスは剣を取り、スクワードに対して構えを取った。


「もう御託は十分だ。ハンス、貴様が誰と繋がっていようともう詮索する気も起きん。貴様に生きる価値などないぃぃぃ!!」


 スクワードの隣でずっと黙ってきいていたアリスが体を震わせながら叫ぶ。

 アリスは怒りの表情をむき出しにしており、今のアリスならカインの娘と言われても納得できるだろう。

 そのまま剣を抜き去りハンスに突っ込んで行った。


「なんだと小娘の癖に偉そうに!? 俺が誰だか分かっているのか? S級冒険者だぞ。お前が逆立ちしたって勝てやしえねぇよ。いいぜ、返り討ちにしてやる」

 

 ハンスはアリスがシャルマンだと気づいてはいなかった。

 アリスが持つ剣から光が発せられており、既にスキルが発動状態なのが見てわかる。

 ハンスの方も迎撃の為に手に持つ剣を発光させスキルを発動させた。


「ハンスゥゥゥ、これで終わりだぁぁぁ! 喰らえぇぇシャイニングレイ!!」


 アリスは自分の剣の間合いより手前で剣を突き出した。

 すると剣に纏っていた光が一直線に前方へと発射された。


 その光の速度は一瞬で、ハンスも必死に体を捻り回避を試みたが、避けきれず腹の半分を通過する。

 光はそのまま壁も貫通し石造りの壁には円形の穴があいていた。

 ハンスは光が通過した腹部に強烈な痛みを感じて動きを止める。


 そして自分の腹を見て目を見開く。


「ぐあぁぁぁ!? 俺の腹に穴がぁぁぁ!!」


 腹の半分にはこぶし大の穴がぽっかりと開いていた。

 腹部の穴からは大量の血が流れ落ちていく。


「ぐふぅっ!」


 次の瞬間、ハンスは吐血しその場に倒れ込んだ。

 致命傷を受けて息も絶え絶えの瀕死の状態で、生きられたとしてもあと数分といった所だろう。

 

「すぐには殺さん!! そのまま死を迎えるまで苦しむがいい。法の裁きだけではお前が重ねてきた罪を償う事など出来ん!! これまでやった悪行を死を以って償え!!!」


「ぐぞぉぉぉ。こんな所で死にたくねぇぇ」


 ハンスの最期の言葉は生に対する執着だった。


 アリスは動かなくなっていくハンスに対して冷徹な言葉を言い放つと、剣を鞘に納めすぐにラベルの元に駆け寄った。

 ラベルの元にはリオンが既に到着している。


「ラベルさん、ラベルさん。しっかりして!!」


 リオンは床で苦しむラベルに必死に声を掛けている。

 スクワードは状況を冷静に判断し、指示をだす。


「すぐにギルドまでラベルを運ぶぞ。応急処置としてありったけのポーションを飲ませよう。リオン、ポーションは何処にある?」


「ポーションならリュックの中か、棚に予備を置いている筈です」


 スクワードがラベルのリュックを漁っている間、ラベルの痙攣が激しさを増した。

 全身の肌がどす黒い色へと変色していく。


「スクワードおじさま、ラベルさんの様子が!!」


 アリスが叫んだ。


「なんだって!? クソ、待っていろすぐにありったけのポーションを飲ませる」


 スクワードは短い時間で集めたポーションを暴れるラベルの口に放り込んだが、効果は無かった。

 その間もラベルの肌の色が真っ黒へと変色していった。


「糞ったれ!! このままではラベルは助からん。処置をするにしたって時間が無さ過ぎるぞ」


「諦めないで、絶対に手はある筈よ。だってラベルさんはまだ生きているんだよ。今も必死に戦っているんだよ」


 諦めかけたスクワードに向かってアリスが叫んだ。

 リオンはアリスの言葉で【エリクサー】の存在を思い出した。


「ラベルさんはまだ生きている。そうだ!! エリクサー!! エリクサーは生きてさえいればどんな瀕死の状態からも治すってラベルさんが言っていた。エリクサーなら!!」


 リオンは思い出したかの様に立ち上がると壁に仕掛けられた細工を作動させ、隠し扉を開いた。

 そしてその中にしまってある金庫からエリクサーを躊躇する事なく取り出した。


「ラベルさんにエリクサーを飲ませます。取り押さえて下さい」


「わかった!!」


 スクワードは暴れるラベルの上から取り押さえる。

 アリスは顔をしっかりと固定した。

 

「ラベルさん、これを飲んでっ!!」

 

 そしてリオンはラベルの口にエリクサーを流し込んだ。

 しばらくすると、ラベルの身体に激しい痙攣が起こる。

 どす黒く変色していた肌の色が黒くなったり元に戻ったりと交互に変色を繰り返す。

 

 ラベルの身体の中ではダンジョンコアの魔力によって破壊された細胞がエリクサーの治癒の力によって強制的に再生される現象が起こっていた。

 それらの効果がラベルの身体に異変をもたらし始める。

 細胞が再生されるたびに強く作り変えられていく。


「破壊と再生を交互に行っているのか? だけど少しずつ落ち着いてきた感じだな」


 身体を抑えていたスクワードは、ラベルの痙攣が少しずつ治まって来たのを感じて拘束を解いた。


「エリクサーが効いてきてる。ラベルさんの顔色も良くなってきた」


 リオンはラベルの状態が落ち着きつつある事が解り、ホッと息を吐いた。


「流石はエリクサーだ。この様子ならラベルはもう大丈夫だろう。しかし何が起こるか分からないから【オールグランド】の治療室に運ぼう。その間、俺は応援の者を呼んでハンスの死体を片づけさせ、部屋も綺麗にさせておくよ」


「殺されて当然の人だったけど、アリスさんは大丈夫なの?」


 リオンがスクワードに尋ねた。


「ハンスは凶悪な逃亡者として指名手配中だからな。死体となっていたって罰は受けないさ」


 スクワードもハンスに視線を向ける。

 ハンスは既に絶命しており、自分の野望が達成できなかった事に対する口惜しさからか、死に顔は後悔と悔しさで満ち溢れていた。


 その後、ラベルは【オールグランド】の治療室に運ばれてベッドに寝かされた。

 治療師には命に別状はないと保証を貰っていたが、リオン達は心配だからという理由でラベルが目覚めるのを待つ事にした。


 しかし誰も目の前で眠るラベルが劇的に変貌を続けている最中とは気づいていない。

 ベッドの上で穏やかに寝息をたてている間もラベルの身体はダンジョンコアの力に対抗する為、強く作り変えられ続ける。


 その後、目覚めた時には劇的な変貌にラベル自身が一番戸惑う事となる。 

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― 新着の感想 ―
ただのチートじゃなく頑張って考え抜いたパワーアップ描写はいいね ハンスもだけどレミリアも敵として魅力無いから二度と登場しないでほしい
[一言] あっさり死んでてスカッとしない
[良い点] パワーアップイベントをこういう形で持ってきたのは上手い。 [一言] 自己評価がどう変わるかが楽しみ。
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