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45話 荒ぶるカイン

 カインとスクワードは観客席を巡回していた。

 しかし特に怪しい者は見つけられていない。


「スクワードよ。式典ももう終わりそうだな。こりゃ俺達のヤマが外れたって事か?」


「ラベルも怪しいと言っていたから絶対に何か起こると踏んでいたのにな。でもよ何も起こらないのが一番いいだろう」


 その時、競技エリアにいた劇団員が襲撃者と変貌し来賓エリアに襲撃をしかけた。

 襲撃が観衆の中にいると予想していた為、カイン達も出遅れてしまう。


 出し抜かれた事で、カインは自分の不甲斐なさを嘆き大きな雄たけびを上げる。


「あの野郎どもやりやがったな。糞ったれがぁぁぁーー」


 観客達も危険な状況だと理解しはじめ騒ぎ出した。


 カインとスクワードは観客達が逃げ始める前に観客スタンドを駆け下りると、大きくジャンプし結界を維持していた魔法使いの傍に飛び降りる。


「おい、お前。いますぐ結界を解け!!」


「ひぃぃ、でもいま結界を解いたら観客にも被害が……」


 巨漢のカインに凄まれた魔法使いは既に涙目になっていた。


「解いた後、すぐに張り直せばいいだけだろうが、急げぇぇぇっ 来賓エリアは今、襲撃されているんだぞ!」


 今度は胸倉をつかみ上げ、超至近距離で恫喝した。


「わっわかりました!! 今すぐ解きます!!」


 魔法使いは魔力供給を停止させ結界を解いた。


「さぁて、久しぶりに暴れさせて貰うとするぜ」


 カインは舌なめずり、右手に持っていた巨大な剣を軽々と肩に担いで見せた。


「おい。急ごうぜ、ラベル達が心配だ」


 カインの傍にはスクワードが立っていた。


「あぁ、全力で行くぞ」


 二人は競技エリアに入るとそのまま進み、来賓エリアの結界前で立ち止まる。

 冒険者がやって来た事を知った結界を維持している襲撃者は結界に込める魔力量を増やした。


「ふんっだらぁぁぁーー!!」


 カインは大剣で思いっきり結界を殴りつけた。

 剣は結界に喰い込みはじめ、剣の半ば付近で止まる。

 SS級冒険者であるカインの攻撃を防ぎきるだけでも、結界が高い防御力を有している事が分かる。

 しかしその後もお構いなしにカインは結界に向けて連撃を放ち続けた。


「ひぃぃぃっ。もっと魔力量を増やせ。このままじゃ抑えきれないぞ」


 結界に魔力を注いでいる魔法使いの一人が焦った様子で叫んだ。


「だが、今でも限界に近いと言うのに…… これ以上は……」


「いいから増やせ。破られるぞ!!」


 魔法使いたちは限界を承知で大量の魔力を結界に注ぎなおした。

 その間に仲間の冒険者も集まっていた。


「まだまだ行くぞ、おらぁぁぁぁっ!!」


 再び大剣を構え結界に向けて振りぬいた。

 

 大きな音と共に結界が崩れ去っていく。

 魔力を注いでいた魔法使いたちは全ての魔力を吸い取られ、気絶していた。


「おい。そいつらは拘束しておけ」


「襲撃者は捕まると自殺するらしいから、目を覚ましたとしてもすぐには何も出来ない様にしておいてくれ」


 カインが命令した後、スクワードが補足した。


「了解しました」


「俺達は中へと突撃を仕掛ける。手が空いている者は全員ついてこい」


 そのままカイン達は来賓エリアに侵入していく。




★   ★   ★




 来賓エリアの通路に侵入すると多くの関係者がその辺りに転がっていた。

 動ける者から動けない者、それは関係者から襲撃者と入り乱れている。


 それだけ激しい戦闘が行われていたのだとすぐに理解できる。


「おい、今治療すれば助かる者が居る筈だ。助けられる者は助けてやろう。お前達は救護後に追いかけてきてくれ」


「我々の人数を減らすと言う事ですか? それはいくら何でも危険なのでは? 放っていても直ぐに応援も来るはずです、救護はその者に任せても……」

 

 仲間の冒険者がスクワードに問いかける。


「心配するな。今のカインを見てみろよ。今のアイツを止められる人間は多分いないぞ! あのラベルにだって無理だ」


 カインの身体からは薄っすらと白い煙が立ち上っていた。

 それは身体から発せられる熱で汗が蒸発している状態、カインの身体が温まって来た証拠だった。

 準備運動は終わりである。

 カインはこの状態にならなければ全力を出す事が出来ない。


「これはカインが化け物と呼ばれる所以を久しぶりに見れそうだぞ。襲撃者の数は確か五十人位だったよな? 今のカインを止めるにはその程度じゃ全然足りねぇな」


 スクワードは口角を吊り上げ笑みを浮かべる。


「それにだ! 俺達がここで多くの者を助ければ、それだけ多くの恩が売れるだろ? 助けられる者は全員助けて高い貸しを作っておくんだ!!」


 スクワードはこんな時でも先の事を考え、ちゃっかりしていた。

 一方、部下は全員カインの姿を一目見て息を飲む。

 全員がスクワードが言っている事が嘘ではないと本能で理解した。


「わかりました。私達も救護活動後、すぐに後を追います」


「あぁ、頼む。追いついた時には全部終わっているかもしれんがな」


 スクワードの指示で数名がこの場所に残り、救護活動を行いながら後を追う事が決まった。


「スクワード、俺は先に行くぞ!!」


 カインに付き従うのはスクワードと数名の側近のみだ。

 カインは迷う事無く、そのまま進んでいく。


「邪魔させねぇーぞ。死ねぇぇぇ!!」


 しばらく進むと、部屋の陰から隠れていた襲撃者が斬りかかって来た。


「ふんっ!」


 カインが横なぎに大剣を振り抜くと襲撃者の身体が二つに分かれていた。

 更に進むと十名程の襲撃者が集団で待ち構えていた。


「死にたい奴から掛かってこい」


 それだけ言うとカインは警戒する事もなく、同じ速度で進んで行った。


「ここから先には絶対にいかせるな。一斉に掛かるぞ」


 五、六人の襲撃者が一斉にカインに襲い掛かった。


「舐めんじゃねぇーぞ! その程度で俺を止められる訳がないだろがぁぁぁっ!!」


 カインは大剣を振り回し一度で五人を吹き飛ばす。

 動ける者は何とか立ち上がったが、たった一撃で三名を瀕死の状態へと変えた。

 襲撃者の動きを見てもそれなりの手練れだと言う事は分かる。

 その手練れの襲撃者を一撃で複数人倒すカインの実力を目の当たりにし、全員が息を飲む。


「ひぃぃっ、化け物だ。おいっ! だれか早くマーガレット様に知らせるんだ!!」


「おっおう」


 二人の男が翻し、後方へ走り出した。


「行かせねーよ!!」


 スクワードは素早く腰から短剣を二本引き抜くと、魔力を纏わせ逃げた男に投げつけた。


「ぐわぁぁぁ!!」


 一人は首にヒットしたが、もう一人は肩に刺さったので、そのまま逃げられてしまう。


「一人外した? 俺も腕が鈍ったな」


「ガハハハ、なら、お前も筋トレして鍛え直せ!!」


「なんで筋トレなんだよ。お前と一緒にするなよ」


「さっさと残りを蹴散らして、ラベルに追いつくぞ」


「あぁ!!」


「もう一度言う!! さぁ死にたい奴から掛かってこい!!」


 カインが一歩踏み出すと、それと同じ距離だけ襲撃者は下がっていった。

 その圧力は凄まじく、今のカインに立ち向かえる人間はきっといないだろう。


「やっぱり、お前はそうじゃないとな」


 スクワードはカインの姿に昔の面影を重ねながら呟いた。


 その後もカインはたった一人で二十人近い襲撃者を退けながらラベル達に近づいて行く。

 レミリアは挟撃された状態となり、もはや逃げ道は何処にもない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 重戦車、生き生きとしてますなぁーー; 相手にしちゃはた迷惑でしか無いけどw
[良い点] 勝身煙……!これは滾るッ!
[良い点] うほっ
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