44話 レミリアの正体
俺に正体を見破られたレミリアは鼻をならし、何を馬鹿なことをいっているのか? と言いたげな素振りを見せた。
「なぁレミリア!! どうしてお前が顔を隠してここに居るのかは知らないが、まさか悪党の一員だったとはな」
「レミリアですって? ふふふ、何を訳の分からない事を言っているのかしら?」
「お前こそ、俺の事を舐めすぎだ。俺がお前達と一緒にどれだけダンジョンを潜ったと思ってやがる。いくら見た目を誤魔化したと言っても、身体に染み付いたリズムや動き方、間の取り方で大体わかるんだよ。お前はレミリアで間違いない!」
レミリアは無言で俺を睨みつけ、俺はその視線を何も言わずに受け止めた。
数秒間の沈黙が続いた後、突然レミリアが腹を抱えて笑い出した。
「ふふふ。ふはははは、私が感じた通り貴方は危険な人だった訳ね。だから排除してやったと言うのに、どうしてここに居るのかしら?」
「認めるのか? レミリアだって」
「仕方ないわ、貴方には隠しても無駄の様だからね。正体をバラしたとしてもここで貴方を確実に殺せば情報が洩れる心配もないから別にいいわよ。でも良く見抜いたわね」
「ポーターの俺がパーティーを組んだ者を見間違う訳が無い。どんなに見た目を隠そうがその者の本質は変わらないからな」
「ふん、ほんと癪に障る人だわ。なら一つ良い事を教えてあげる。私が貴方とパーティーを組んでいる間、実は一度も本気を出していないのよね。だから貴方が知っている私の能力も嘘って訳。私が本気を出したら私一人であのパーティーを全滅させる事も出来たのよ。どう驚いた?」
レミリアは勝ち誇った表情を浮かべた。
「それがどうした? 俺はお前の本質が変わらないと言っただけだ。本気を出していなかったとしても、俺が知っているレミリアと今のお前を比べても大きな違いは無さそうに見えるが?」
仮面の女はやはりレミリアだった。
正体がバレたレミリアが仮面を外すと髪の色も赤に戻って行く。
どうやら魔道具で髪の色も変えていたのだろう。
「何を偉そうに…… 折角、三年も手間暇をかけて準備した計画を邪魔してくれて、本当に許さないわ」
「俺が何をやったっていうんだ? 言いがかりも大概にしろよ」
「三年前の式典を見てから、私達は今日の為に動いてきたのよ。組織の幹部である私が【オールグランド】に入ったのもそう。部下に命令して劇団を立ち上げて名を売って来たのも全部今日の為」
「組織の幹部? レミリアお前は【黒い市場】の幹部だったのか? それにまさかそこまでやるとは…… 流石に引くぞ」
「そうよ、私が今回の作戦を立案したの。この国で最大のギルド【オールグランド】が介入してきたら、成功する可能性が低くなるわ。その為に私自ら【オールグランド】に潜入し情報を得てギルド会議を襲わせたのよ」
「まさかギルド会議の襲撃までお前の手引きだったとはな、それじゃハンスもお前の仲間なのか?」
「ふん、あの馬鹿? あれは単なる玩具よ。私を口説いてきたから上手く使ってあげただけ。あの馬鹿を使ってギルドの内部を引っ掻き回してあげたというのに……」
「お前がハンスを操っていたと?」
「ハンスは自分で考えて行動しているつもりだったけど、全部私の誘導よ」
レミリアは否定する事無く言い放つ。
「あっそうだ、一つだけ良い事を教えてあげる。貴方の退職金、ハンスに猫糞されているわよ。それだけはハンスが自分の意思で行っていたわ。本当にやる事が小っちゃい男よね。まぁその金で私も遊ばせて貰ったからいいんだけど…… 少々しゃべり過ぎたわね。もぅ終わりにしましょう、今すぐ殺してあげるわ」
そう告げると片手を突き出し魔法を放つ準備を始める。
「ご丁寧に説明してくれて助かったよ。これで全てが繋がった。教えてくれた礼に教えてやるが、魔法は使わない方が身の為だぞ、俺の足元を目を凝らしてよーく見てみな」
レミリアは目を細めて俺の足元に視線を向けた。
「貴方のハッタリに私が引っかかるとでも…… 何この臭い?? それにその足元から立ち上がっている揺らめきは…… 貴様まさか!?」
「そうだ。火炎瓶で使われているアルコールだよ。俺が持っている全部の火炎瓶の燃料に細工を施して強制的に気化させている。俺の足元から気化したアルコールの揺らめきが見えているだろ? 既に気化したアルコールで二階ロビーは満たされているぞ。もし今の状況で火炎の魔法を使ったらどうなると思う? ふはははは、大爆発だよ。俺もそうだが、お前達もただでは済まんだろうなぁ」
俺はわざと勝ち誇った笑みを浮かべて、レミリアを挑発した。
「こっ…… こっこの糞ポーターがぁぁぁぁ。本当に嫌らしい男よね。決めたわ、貴方は普通には殺さないわ。徹底的に痛めつけた上に、殺してくれと懇願する程の苦しみを与えながら殺してやるから」
レミリアは俺の挑発に乗ってくれた。
これで俺が生きている限り、時間を稼ぐ事ができる。
「良いぜ、やれる物ならやってみろ」
「お前達、あの腐れポーターを八つ裂きにしてきなさい!!」
「おぉぉーー」
レミリアの傍で様子を窺っていた三名の襲撃者が俺に向かって突っ込んでくる。
俺は正面を向いたまま後方に下がり、相手との距離をとった。
「ポーターの分際で俺達に勝てると思うなよ!!」
「その通りだ。俺はお前達には勝てないよ。でもな、俺以外が相手ならどうだ?」
俺が距離を取った間の壁には俺達が隠れていた部屋の入り口がある。
ドアは開いており、その部屋の奥に隠れていたアリスが俺と襲撃者の間に突然割って入って来た。
「この人に手は出させないわ!!」
突然、横からの奇襲を受けて三名の襲撃者は一瞬で倒された。
「ナイスだ!!」
「うふふ。戦うのは私に任せて。それにしてもさっきの啖呵は格好が良かったわ。新しいラベルさんを見たって感じ?」
「こんな時に茶化すな。カインが到着するまで俺達で時間を稼ぐぞ」
「えぇ、任せて。今ならリオンちゃんが言っていた言葉が私にも理解できるわ。ラベルさんが近くにいると不思議と力が湧いて来るし、勇気だって貰える!!」
「本当に何を言っているんだ?」
「仮に、今がどんな逆境だったとしても余裕よ。だってラベルさんが傍にいてサポートしてくれるんだもん」
そう言い切るアリスは揺るぎない信頼に満ちた笑顔を向けてくれた。
「そこまで言われちゃ俺も頑張らねーとな。いいぜ、お前は全力でレミリアをぶっ潰せ。俺も最大限のサポートをしてやる」
俺達の第二戦が開幕された。




