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40話 リオンと少年

 リオンは迷子の少年を家族の元に送り届ける事になった。

 話を聞けば、この街には用事で来ているらしい。

 外に広がる賑やかな街並みに興味を持ち、隙を見て泊っていた宿から抜け出したみたいだ。


「そう言えば、君の名は何ていうの?」


 リオンは少年の顔を覗き込むように近づけた。


「僕、僕の名前はアド…… ううん。アドっていうんだ」


「アド君ね。さっきも言ったけど、私はリオンって言うの。リオンと呼んでくれたらいいからよろしくね」


「うん、リオンだね。僕の事もアドでいいよ」


「うん、わかったよ。それでアドの両親がいる宿はどんな建物かわかる?」


「はっきりとは分からないけど、大きな建物で外壁が赤い色をしていた気がする」


 少し自信なさげにアドは答えていた。

 このアドという少年は自分に自信を持っていないと感じる。


「大きくて赤い建物かぁ…… 実は私も詳しくないんだよね。憲兵さんに相談して貰った方が早く見つかるかもしれないね」


「憲兵は嫌だな」


 その返事に困ったリオンは、とにかく街中を歩き回ってみる事にした。


「何処か見覚えがある景色とかあったら教えてね」


「解った」


 リオンは少年の手を握り、人ごみで逸れないよう対処する。

 美少女のリオンに手を握られた少年は頬を赤らめていた。

 歩きながら話をすると年齢はダンの一つ下だった。

 たった一歳しか変わらないがダンと比べるとずいぶんと幼く見える。


 最初は出会った街道を真っ直ぐに進む事に決めた。

 露店の多いサイフォンの街は少年の興味を引き、気になる露店にリオンが引っ張られる。


「また露店に寄るの? 今はアドの家族を探しているんだよ」


「分かってるって。だけどこの店だけ!!」


「もぅ…… 仕方ないなぁ。この露店を見たら本当に行くからね」


 根が優しいリオンはアドのお願いを断り切れずに何度も露店に立ち寄る。

 今回立ち寄った露店は木材を加工して、子供用の玩具を売っていた。


 幾つものパーツを組み合わされ、作られた魔獣の玩具がコミカルに動いている。

 それに冒険者を形どった人形もある。


「凄いなぁ、これ面白い」


「うん。面白いね」


 次第にリオンも家族探しという目的を忘れて、アドと共に楽しんでいた。


 人ごみの中をアドと共に歩いていると、知らない内に纏わりつく様な視線を感じた。

 その視線には悪意が混じっており、リオンは胸騒ぎを覚え移動する速度を上げる。


 しばらく人ごみの中を進んでいたが、視線は二つ増えており、リオンの心を更に騒ぎ立てる。


「リオン、歩くの速いよ。どうしたの?」


「なんだかおかしいの。もしかしたら誰かに追われているかも……」


「追われている!?」


 リオンは追われる理由を考えてみる。

 この街に来るのは初めてで誰かに恨みを買う事もしていない。

 もしかしてこの街に来る途中に戦った盗賊の関係者?

 

 それとも……

 リオンは手を引くアドへと視線を向けた。

 

「それは多分僕が原因だ。このまま僕と一緒にいたらリオンが危険な目にあってしまう。僕の事は大丈夫だからリオンは一人で行って」


 リオンの心を見透かした様にアドは言う。


「何を言っているの? アドを一人で置いて行ける訳ないじゃない。それにアドが原因だっていうのも違うのかも。とにかく逃げるよ」


 リオンは人気の少なく動きやすい場所へと移動を始めた。

 もし相対するにしてもスピードを生かせる場所が良いと判断したからだ。

 

 幾つもの路地を通り抜けている内に街の中心から離れていく。

 後ろを振り返るとローブに身を包んだ男性が確かに追いかけて来ていた。


「間違いない。私達は追いかけられているみたいだ」


「だから僕を置いてリオンは逃げて」


「それは絶対にいや。最悪、捕まる位なら戦ってでも」


 リオンが逃げている理由の一つに戦闘をしたくなかったというものがあった。

 今から【黒い市場】の対策で行動するのに関係のない所で目立つ訳には行かない。

 更に相手が刃物を持ちだしたとして、反撃して殺してしまったらこの街の衛兵にどう説明すればいいのか?


 ラベルが傍にいてくれるのなら、こういう時にアドバイスや指示をくれるのだが、どんなに周囲を見渡してもラベルの姿は無い。

 ラベルがいないという焦りから鼓動が速くなっているのが分かる。

 リオンは自分がいかにラベルに頼っていたのかを痛感した。


 そのまま路地を抜けようとした時、出口側に一人の影が立ちふさがっていた。


「挟み撃ち!?」


 リオンは急停止を行い、抜剣しようと構えを取る。

 現れた影も走って近づいてきた。


「アドリアーノ様、今御助けを!!」


「シャガール、この人は敵じゃない。敵は後ろの二人組だ」


「承知!!」


 近づいた男の姿はアドと近い姿をしていた。

 頭にはターバンを巻き、革製の軽装の上から薄いローブを重ね着して隠している。

 腰にはシミターと呼ばれる湾曲した短剣を二本下げていた。


 シャガールはリオンの傍を通り抜けながら、両手で短剣を抜き取ると追いかけてきた男達の前に立ちはだかる。


「貴様達、一体なんの用だ?」


「じゃまだ、どけ!!」


「お前達の狙いはアドリアーノ様と言う事でいいんだな?」


「こうなったら仕方ない。この男諸共全員始末してやる」


 ローブの男達は剣を抜きシャガールに飛び掛かる。

 二人同時の攻撃だというのに、シャガールは両方の攻撃を片手で軽々と受け止めていた。

 そしてそのまま二人を後方に跳ね飛ばす。


「ぐわーーっ!! なんて馬鹿力してるんだ」


「お前達が貧弱なだけだろう。さぁ覚悟は出来ているんだろうな?」


 シャガールが睨みを聞かせると、ローブの男達は互いの顔を見合わせた後、逃走を始めた。


「無理に追う事もない。今はアドリアーノ様の安全を確保せねば」


 リオンは一連の戦いを見ていた。


「とても強い人。私とは体の鍛え方が全然違う」


「シャガール来てくれたんだ」


「アドリアーノ様、ご無事でしたか?」


 リオンの元から離れたアドがシャガールの元へと近づき保護される。

 これでリオンの役目も終わりだと言えた。


「アド、ご家族が見つかって良かったね。それじゃ私はこれで」


「あっ、リオン待って!!」


 アドはシャガールに何やら話していた。

 すると今度はシャガールが近づいてきて、お金が入った小袋をリオンに差し出した。

 袋の膨らみから想像しても大金だと分かる。


「アドリアーノ様を助けて頂きありがとうございます。少ないですがこれはお礼です。どうかお受け取りを」


「お金が欲しくて助けたんじゃないから。いらない」


「それではアドリアーノ様の面子が立ちません。なにとぞ今回のご恩を返させて下さい」


 もう一度シャガールはリオンにお金を差し出した。

 しかしリオンもこんな大金を貰うつもりはなく、どう返答すればいいのか困ってしまう。


「それならリオン、これはどう?」


「それは何?」


 二人のやり取りを見ていたアドが近づき、自分の手首に付けていたミサンガを取り外しリオンに差し出した。


「これは僕の国で作られている装飾品だよ。結構古いものだから見た目は変だけど。今日のお礼としてこれ受け取ってくれない?」


 リオンが視線を向けると、細かな刺繍が入ったミサンガだ。

 アドが言った通り年季も入っており、それ程高い品ではないだろうとリオンは判断した。


「この位なら……」


「それじゃ手を出して、僕が結んであげるから」


 リオンは言われるまま、手を差し出すとアドがミサンガを結ぶ。


「出来る限りずっと付けていてね。このミサンガには身に着けた者を守る力が込められているんだ」


 アドがリオンへ嬉しそうに笑いかけてきた。


「うん、わかった。ありがとう」


 リオンも素直にお礼を告げる。


「アドリアーノ様…… その、よろしいので?」


「うん。僕は他にも似たような物を持っているから」


「アドリアーノ様が、そう仰るのなら」


 シャガールはリオンに対してもう一度深く礼を行い別れを告げた。


「それでは私達は失礼します」


「はい。アドもう勝手に抜け出したら駄目だよ」


「うん。わかってる」


 二人は路地から出ようとした時、複数の人影が合流してきた。

 どうやら多くの人がアドの事を探していたのだろう。


「アドは一体何者なんだろう。あのとても強い人がアドリアーノ様って呼んでいたし、どこかの大商人の息子さんとか?」


 リオンはその後、家族のお土産を買って宿屋に戻る。

 明日からはリオンも働く事になっていた。

 やっとラベル達と共に働ける事に喜び、リオンは気合を入れ直す。


 リオンは任務に集中する為、アドの事は記憶の隅に追いやった。

 しかし再会の時はすぐに訪れる事となる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まーアドはテンプレ王子様ですよね(゜∀゜*)(*゜∀゜)
[一言] リオンもまだまだ経験が少ないせいか 察しが悪いですねぇ^^; まぁ、これからこれからって処ですかね? でもこれで王子様の憧れの人になっちゃいましたねぇ どうすんの?リオンちゃん
[一言] 運命の出会い!?(笑)
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