39話 二人だけの女子会と迷子の少年
作戦会議を終えたアリスが部屋に戻るとリオンがベッドで座っていた。
時刻はまだ夕方前で、夕食にも少し早い。
「アリスさん、おかえりなさい」
「リオンちゃん、部屋で待っててくれたの? 街に出てても良いって言ったのに」
「うん。だけどラベルさんが仕事しているのに、なんか申し訳なくって」
その言葉を聞いて、アリスは仕方ないなぁーという感じの呆れた表情を浮かべた。
「明日はまだリオンちゃん達にはやって貰う事はないから、ラベルさんも言ったんだよ。ずっと気を張り詰めていたら体も持たないから」
「ううん。気分がのらないから大丈夫」
「会議の時に私に聞いてきたんだけど、ラベルさんもリオンちゃんの事を心配していたよ。ラベルさんの事を思うなら、心配させない事の方がいいんじゃないかな?」
アリスはリオンの性格を掴みかけていた。
リオンはラベルを第一に考えている。
基本、ラベルが困る事をしたくはないのだ。
その推測は当たっており、アリスの一言でリオンは翌日、街に行くと言い出した。
アリスは反応が可愛らしいリオンを見て、妹が居たとすればこんな感じなのだろうと喜んでいた。
「ねぇ、リオンちゃんにとってラベルさんってどんな人?」
「私にとって? う~ん」
リオンは思い出すかの様にゆっくりと想いを言葉に変える。
「私にとってラベルさんは尊敬できる人かな……? だって誰にも求めらなかった私を見つけて手を差し伸べてくれて、今日までずっと引っ張ってくれた」
リオンはラベルの良い所を言いながら、指を折り数えていた。
「ラベルさんが近くにいると不思議と力が湧いて来るし、勇気だって貰える。それにね、どんな逆境だったとしても乗り越えられる。だって振り返ると絶対に傍にいて支えてくれているんだもん」
「あははは…… それって尊敬になるのかな?」
大人しいリオンが豹変し、矢継ぎ早にまくし立てられた為、アリスも困惑していた。
「それじゃ、アリスさんにとってラベルさんはどんな人なの?」
今度はお返しにとリオンがアリスに問いかけた。
「私にとってのラベルさん?」
「うん。アリスさんもラベルさんと出会って結構たつでしょ?」
「そうだなぁ優秀な人なのは初めてダンジョンに潜った時に分かったかな」
「うんうん。それで?」
「それからたまに一緒に行動するようになって、誠実な人だなってわかったよね。後、普段は冷たそうにしてるんだけど基本優しいよね」
「うん。ラベルさん優しいよね」
「それにまさか最強だと思っていたお父様を手玉にとるなんて…… あんな情けないお父様は、正直見たくなかったわ」
アリスは簀巻き状態のカインを思い出して落ち込んだ。
「アリスさんもラベルさんの事よく見てるね。ラベルさんが怒ったら怖いって私も知らなかったよ」
「よく見てる? そうかな? そう言われれば確かにラベルさんって、たまに目が離せなくなっちゃう時があるよね。お父様との戦いの時もそうだけど、惹きつけられて目が離せない。なんだか不思議な人だと思うわ」
「アリスさんもラベルさんの事が好きなんだね」
「好き!? いやいや。わたしそんな男性の事好きになった事なんてないから!!!」
アリスは両手を胸の前に突き出し、開いた手をバタバタと振りながら混乱していた。
「その好きという意味じゃなかったんだけど……」
「それに私はお父様より強い人しか男性とは認めないって決めていて…… ハッ!? ラベルさんってお父様に勝っているんだった!? えーーーっ嘘、どしたらいいの!!」
アリスが頬を赤らめると一人で勝手に暴走を始めた。
リオンはその様子を見て楽しそうに笑う。
二人の女子会は夕食を食べた後も続く事になる。
★ ★ ★
翌朝、アリスと共に起きたリオンは昨日の約束通り、観光に出る事にした。
仕事があれば手伝う気ではあるが、アリスから今日は大丈夫だと言われていた。
式典は二日後から始まるので、流石に明日からは手伝える事もある筈だ。
観光が出来るのも今日だけかも知れない。
ならば今日は精一杯観光しようとリオンは考えた。
「ダン、いる?」
リオンはラベルとダンの部屋に向かった。
流石に一人で街を散策するのもと考え、自分と同じように仕事が与えられていないダンを誘おうと考えたのだ。
「リオンか? ダンは起きた早々街に飛び出していったぞ。ほんとにまだまだ子供だよな」
部屋に残っていたラベルが説明してくれた。
「そうなんだ」
「リオンも遠慮しないで観光をしてきていいからな。下準備は今日で終わるだろうから、明日からは働いて貰う事になる。今日一日でリフレッシュしといてくれ」
「うん。わかった」
昨日、アリスに言われた事だった。
仕方なくリオンは一人で街に出てみる事にした。
商業都市と言われるだけあって【サイフォン】の街並みは華やかであった。
港街という事で大きな港が作られている。
港には何隻もの大きな船が停泊してた。
道を歩く人も異国の人も多く見かけ、街道に並ぶ露天は異国情緒のあふれた品々が並んでいた。
「ほんと、ダンの奴って自分勝手なんだから。普通は誘うでしょ!!」
リオンは珍しく、頬を膨らませ怒っていた。
けれど一人でブラブラと街を歩いているだけでも楽しいと感じていた。
「可愛らしい剣士のお嬢さん、食事の相手はいらっしゃいますか?」
リオンは容姿も良く、一人で歩いているだけで何人もの人から声を掛けられた。
一人ずつ断るのも億劫となり、リオンはスキルの力で声を掛けられる前に声を掛けてくる男達から距離を取りはじめる。
露店を回り、海岸沿いを歩き【サイフォン】の街を堪能していると、不安そうに周囲を見渡している一人の少年が目に付いた。
上等な生地で作られたローブ調の異国の服を着込み、頭にはターバンを巻いている。
少年は正面にある串肉を売っている露店を見つけ、じっと露店を見つめ始める。
リオンが少年を観察していると、少年がおどおどしながら露店の店主に声を掛け始めた。
「その肉を一本欲しいんだけど……」
「まいど、一本銅貨三枚だよ」
「そうか金がいるのか…… 僕はお金を持ってない」
「おいおい、ぼっちゃん。残念だけど、金がないなら渡せないな。こっちも商売で店を開いているんだ。この肉が欲しけりゃお金を持ってきてくれなきゃ。近くに両親とか居ないのか?」
「近くに? 今は居ない……」
少年は力なく肩を落としていた。
だけどそれ以上は食い下がる事もぜずに露店から背を向けて歩き始めようとしていた。
その少年を可哀そうに思ったリオンは露店主に金を渡して串肉を二本買うと、一本を少年に差し出しだす。
「貴方は誰? それを僕にくれるの?」
少年は初めて見るリオンを不思議そうに見つめた。
「私はリオンっていうの。君は串肉が食べたいんでしょ? なら私がご馳走してあげる」
「でも知らない人から物を貰ったら駄目だって……」
「そう言わずに受け取って欲しいな。私は二本も食べられないから……」
串肉を近づけると、コンガリと焼かれた肉の香りが少年の鼻孔をくすぐる。
ぎゅるるるるー
「あっ」
「ほら、君もお腹も減っているじゃない。遠慮しないで」
「そうだよね。困っている女の子がいたら助けないとってサックスもいっていたから…… うん。僕も一本食べてあげる」
「本当!? 嬉しいな、ありがとう」
リオンは少年に合わせる様に大げさに喜んで見せた。
少年は串肉を受け取ると勢いよく肉を食べ始める。
その仕草だけで、少年がどの位空腹だったのかリオンにもわかった。
リオンも少年に合わせて肉を食べ始める。
「やっぱり一人で食べるより美味しいね」
「うん、美味しい。外で食べる食事がこんなに美味しいなんて知らなかった」
少年は夢中で串肉を食べていた。
「君は一人なの?」
「うん、退屈だったから、軽い気持ちで屋敷から抜けだしたんだけど……」
「そうなんだ。じゃあ家の人心配しているかもよ」
「一人心配性のやつがいるから。確かに探しているかも知れない」
「大変じゃない。早く合流しないと怒られるよ」
「そうなんだけど道が…… 解らないんだ」
「迷子になっちゃったんだね。それじゃ私も一緒に家族を探してあげるよ」
こうしてリオンは迷子少年の家族を探す事となった。