38話 作戦と準備
カインの依頼を受け、共同戦線を張る事が決まった俺達は、商業都市【サイフォン】に到着していた。
時刻は昼過ぎで太陽は高く上がっている。
街に到着した俺達は護衛して来た商人達と別れると、スクワードの案内で用意していた宿屋に向かう。
式典が近い為、何処の宿屋も満室状態との事だ。
カインとスクワード以外の者は準備があると言ったきり、途中で居なくなっている。
宿屋についた俺達は店の者に案内され各部屋に入る。
部屋で荷物を整理した後、カインの部屋で今後の作戦会議を開く事となった。
今回用意した宿は全部が二人部屋らしく、部屋割りはカインとスクワード、俺とダン、リオンとアリスの三部屋に別れた。
部屋は豪華でダンも大興奮だ。
作戦会議中はリオンとダンは特にする事もないので、街を観光したらどうかと声を掛けている。
作戦が決定したらリオン達にも働いて貰う事にもなるので、それまでは自由にさせてあげたい。
ダンは嬉しそうに街に飛び出していた。
俺も準備を済ませ、カインとスクワードの部屋に向かう。
ドアを開けると、アリスも既に部屋に入っていた。
「俺が最後か? 遅れてすまない」
「大丈夫だ。それじゃ始めようか」
「アリス、リオンは街に出かけたのか? ダンは大喜びで飛び出して行ったが?」
「うーん。リオンちゃんは迷っているみたいだね。優しい子だから私達が作戦を話し合っている間に自分が遊びに行くのが嫌なのかもしれないね」
「後で気にするなと言っといてくれないか?」
「うん、解ったよ。リオンちゃんの事は任せて」
「おいおい。ラベルの野郎が父親みたいな感じになってるじゃねーか」
カインがニヤニヤと笑いながら弄って来やがる。
「当然だろう。リオン達とは歳が二十歳近く違うんだからな。お前とアリスみたいなもんだよ」
「お前は独身なのに親心を知るとは…… 本当に可哀そうな奴だな。早く女を作って本当の子供作れっての!!」
「おい筋肉ゴリラ!! 娘の前だからっていい気になるなよ。それより作戦を話し合うんだろ? 早くやるぞ」
少々カインのペースになって来たので俺は話をぶち切り、作戦会議を始めた。
★ ★ ★
今回の式典は商業都市【サイフォン】の開港記念を祝う式典だ。
三年に一度、定期的に行われており、この港が完成し初めて出航した船の目的地が海運国家【グランシール】だった。
その縁からこの式典には【グランシール】の王族に連なる者が必ず参加し互いの国の交流を深めてきていた。
今回は第七王子の【アドリアーノ・グランシール】、 継承順位は低いのでこういった式典には来やすい立場の王族だ。
継承順位が低いと言っても、れっきとした王族である。
国力の差は俺達の国【ドレール】王国の方が海運国【グランシール】の二倍以上ある。
国力だけで言えば相手は格下になるのだが、建国した歴史も古く海運業で多くの国と太いパイプを作りあげてきているので敵に回したくない。
もしアドリアーノ王子に何かあれば国際問題は間違いないだろう。
「こっちからは誰が参加するんだ? 相手も王子を寄越したんだからこっちも王族の誰かが相手をするのが普通だろ?」
カインがスクワードに疑問を投げかける。
「最初はその予定だったみたいだが、急遽王族は来れなくなったらしい。代理としてこの地を治めているドルマン伯爵が第七王子の相手をするみたいだぞ」
「おいおい、大丈夫かよ。国力が半分以下の格下の国だと侮っている訳じゃないのか?」
「情報収集しか取り柄のない、ただの冒険者の俺に真相がわかる筈もないさ。解るのは事実だけだ。それにだ、俺達にとっては伯爵の方が話を付けやすくて助かる」
「それもそうだな。こっちの王族が参加しなくても相手が動く気配があるという事は、相手の狙いが招待された【王族】だという証でもあるしな」
「そういう事になるな」
「既に俺の部下が【黒い市場】の情報を衛兵や護衛のギルド、伯爵の筋の者にも伝えている筈だから、当然警護は厚くなる筈だ」
「それじゃ、俺達はどうするんだ?」
俺はスクワードに問いかけていた。
警護が厳重になれば、それだけで【黒い市場】が動き辛くなる。
俺達が何かをやらなくても大丈夫なんじゃないだろうか?
「これはスクワードが手に入れた式典の進行表だ。お前はこれを見て何処が怪しいと思う?」
カインが懐に仕舞っていた紙を取り出して俺に渡してくる。
カインから手渡された進行表には三日に掛けて開かれる式典の内容や場所が詳細に記載されていた。
俺は進行表をじっと見つめ、一つの場所を指さした。
「ふん。お前もそこが怪しいと思うか? 俺達と意見は一緒だな」
スクワードが嬉しそうに言った。
「そうだな。この場所と……」
「と? まだあるのか?」
「後はここだ」
その場所は意外な場所であった。
「相手はギルド会議にも大人数で戦争を仕掛けてくる様なイカれた集団だ。今回もどうなるか分からない」
カインはギルド会議の事を思い出したかの様に注意を促してきた。
「俺が手に入れた情報によれば、ギルド会議を襲った時の様な大きな人数は動いていない。精々五十人前後と言った所か。周囲に気付かれない様に慎重に行動していやがるからな…… っという事は奇襲メインとなる可能性が高い」
スクワードは自分が手に入れた情報から推測を立てる。
「確かに王族が参加する式典に入場できる者は限られているし、入れたとしても身体チェックも厳しい。武器など持ち込める場所はないだろう。ならスクワードのいう奇襲が適切だな」
俺もスクワードの意見に同意する。
「それじゃ、奇襲をメインに考えて対抗策を練ろう」
「そうだな」
「私も賛成」
スクワードの提案に全員が頷いた。
その後も数時間も俺達は話し合い、それぞれの役割が全て決まる。