19話 それぞれの準備(ハンス編)その1
シャルマンにボロボロに打ちのめされたハンスは何とか気持ちを戻し、リンドバーグとの話を再開しようとした。
しかしその前にレミリアが怒声を放つ。
「あーっムカつく。アイツ何様のつもりよ!! 私達は同じS級同士よ!! なんであんなに偉そうなのよ!」
レミリアが吠えていた。
「私、ちょっと出てくるわね」
「レミリア、何処に行くんだ?」
「ハンス、女性にそんな事聞くもんじゃないわよ」
ハンスはその言葉でレミリアがトイレに行くのだろうと判断した。
レミリアが退室した後、ハンスはリンドバーグに話しかけた。
「リンドバーグ、俺がいない間は心配をかけたな。それとさっきは悪かった。だがお前の忠義には感動した。これからも俺と共に歩いて行ってくれ」
「はい。ありがとうございます。頑張らせて頂きます」
「それでだ。お前を呼んだのには理由がある。俺はもう一度SS級ダンジョンを攻略する準備を始めようと思う」
「おぉぉ。そうでございましたか。流石でございます」
「うむ。ずっと前回の敗因を考えていた。結論で言えば前回はレイドと言う形を取ってしまったのが、不味かったと思う。多分、目立ちすぎて魔物を呼び寄せすぎたのだろう。なので次は少数精鋭で挑むつもりだ。一度それで四十階層まで潜っているんだからな! 次は大丈夫だ!!」
「そうでございますか…… それでメンバーの方は?」
「シャルマンのせいでギルドの資金も使えなくなった上に、前回失敗した事により俺に対するギルドメンバー達の目も厳しいものになっているだろう。よってメンバーは互いの信頼関係も高い俺のパーティーのみで挑もうと思っている」
「なるほど」
「だが前回のアタックで俺達に足りない物も分かった。まずはSS級ダンジョンに潜れるポーターだ。だが普通のポーターではSS級ダンジョンに連れて行けない事が前回でわかった。過酷な戦場にビビッて使い物にならないからな。それでだ…… リンドバーグ、お前がポーターをやってくれないか? お前ならダンジョンに潜れる実力もある上、俺との信頼関係も高い」
「ハンス様が望むのであれば…… 微力ですがご協力させて頂きます」
リンドバーグは即答で深々と頭を下げ答える。
「お前なら、そう言ってくれると思っていた。よろしく頼むぞ」
ハンスも期待通りの言葉を受け取り、リンドバーグの信頼度をまた一つ上げた。
「はっ」
「ただ一つ疑念があってだな。俺は前回より魔物が強くなっていると判断している。以前は一撃で殺せた魔物が最低でも二撃、必要となっているんだ。原因は分からないとして、攻撃回数が増えれば、当然体力や魔力の消費も高くなり、数に押される場面も出てくる。更に連戦が続くようになれば前回と同じ敗走を繰り返してしまうだろう」
「確かに、おかしい、おかしいと皆様が何度も言っておられましたが…… それでどうなさるお積りでしょうか?」
「その問題を解決する為に性能の高い装備と魔法具を新調する。それも国一番と言われている【アドバンス工房】にオーダーメイドで注文しようと思う。あの工房で作られた最高の装備を使えば魔物も軽々と斬り裂く事ができるだろう。更に魔法具があれば、魔力消費量を抑え、威力をアップしてくれるので、レミリアやシャーロットの戦いも楽になる。次のアタックはお前の装備も含め全員の装備を一新させて挑む」
「おぉぉ~ 確かにそれなら安心ですが、あの名高い【アドバンス工房】のオーダーメイド装備です。用意するのに金貨が幾ら必要になるのか? 私には想像もつきません。装備費用はどうなさいます?」
リンドバーグは不安事項を告げる。
だがハンスはそう言われる事を予想しており、フンっと鼻で笑いながら金貨三千枚が入った袋を机の上に置いた。
「こっこんな大金どうしたんですか? 一体幾ら入っているんですか?」
「金貨が三千枚ある。なに貯金してたんだよ。この金があれば装備を一新させる程度は余裕だろ。余った金でアイテムも買い放題だ!!」
ハンスは笑って見せた。
「確かに金貨が三千枚もあれば大丈夫だと思います」
「それでだ。俺はこの二週間の間に一度だけ、アドバンス工房のマスターと会って相談していたんだ。その時の話で装備の製作に入る前には前金が必要だと言っていた。俺が提示した性能の装備だと全員の分をまとめると…… 前金で金貨千枚が必要らしい。リンドバーグ、お前が金を今から運んで渡してきてくれ」
「金貨千枚…… わっわかりました。すぐに持っていきます」
「頼むぞ、これが装備の製作の依頼書だ」
「はっ」
金貨千枚と依頼書を受け取り、リンドバーグがドアに向かっている最中、執務室にレミリアが戻って来た。
さっきのやり取りを知らないレミリアは、袋を大事そうに抱えて緊張しているリンドバーグを不審に思った。
「リンドバーグ、慌てちゃってどうしたの?」
リンドバーグはレミリアとハンスの間柄も知っており、レミリアに対して強く出る事が出来なかった。
「ハンス様の指示でこれから【アドバンス工房】に前金を届けに行く所です」
「レミリアには話していただろ? 全員の装備を新調する件だ。リンドバーグに前金を届けるように言っている」
「へぇー震えちゃって、そんなに大金なの?」
「金貨千枚ですから、そりゃ緊張もしますよ」
「金貨千枚!?? どこにそんな大金持っていたのよ? それなら買って貰いたい物があったのにぃぃ」
レミリアの目が輝きを取り戻した。
「今はそれ所じゃないだろ!! 俺達には後が無いんだぞ。リンドバーグさっさと行け!!」
「はっ」
「ちょっと待ちなさい。そんな大金一人で持ち歩くのは怖いでしょ。私もついて行ってあげるわ。【アドバンス工房】なら欲しい物もあったし、下見がてらについて行ってあげる」
「いえ…… わざわざお手を煩わせるのも悪いので」
「いいから。いいから。ハンスいいわよね?」
「好きにしろ。俺は次の準備で忙しいんだ」
レミリアはリンドバーグの背中を押しながら、執務室を一緒に出ていった。