表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/143

18話 ハンス、成り下がる

 時は遡り。

 SS級ダンジョンの攻略を失敗したハンス達は、命からがら地上へと帰還した。

 その日からハンスは怪我の治療という名目で二週間も自分の部屋に引きこもる事となる。


 本当はダンジョンで負った怪我は、一週間もしないうちに完治していた。


 しかしハンスは二週間もただ部屋に引きこもっていた訳じゃない。

 もう一度、SS級ダンジョンを攻略する為に、資料を再び精査し、真剣に新しい計画を立て直していたのだ。


「もう俺は失敗できない。次、もし失敗したら俺は本当に終わりなんだよ!!!」


 そして二週間後、ハンスは再びギルドホームに姿を見せた。

 ハンスが執務室に向かっていると、レミリアが現れ、並行して歩く。


 レミリアはハンスの療養中に何度かハンスの元を訪れており、ハンスがSS級ダンジョンを諦めていない事や、今日ギルドホームに行く事を事前に聞いた。


 なのでハンスも特に反応する事もなく、自然にレミリアを連れてギルドマスターの執務室に入る。


【オールグランド】にはハンスが戻って来たという情報が流れた。

 

 執務室に入ったハンスはさっそくリンドバーグを呼び寄せる。

 呼び寄せる理由は勿論SS級ダンジョンの攻略に再度着手する為だ。


 しかし現れたのはリンドバーグではなく、仮面を付けたS級冒険者のシャルマンであった。


「入るぞ、ギルドマスター代理!」


「ん? なんだ貴様…… シャルマンか? どうした。お前はギルドマスターの捜索に駆り出されたのではないのか?」


「引きこもっていたお前は知らなかったんだな。ギルドマスターは救出されたぞ」


「そっ、そうなのか。それは良かった。それでマスターは今どこに?」


 ハンスは驚いた表情を浮かべた後、一瞬だけ悔しがる表情を浮かべる。

 隣にいたレミリアも微かに表情を強張らせていた。

 しかしハンスは直ぐに落ち着きを取り戻す。


「生憎、怪我を負っていてな。今は治療中で動くことができん。その連絡の為に私は戻ってきたんだが、マスターが居ない時の代理なのに、その代理を任されたお前が二週間も不在とはビックリしたぞ。お前は一体何をやっていたんだ?」


「あぁ、すまん。聞いていると思うが実はSS級ダンジョンに挑戦してだな…… 俺も怪我を負ったので静養していた訳だ」


 その時、呼び寄せていたリンドバーグが入って来た。


「お呼びですかハンス様。元気になられて良かったです。こっこれはシャルマンさん」


「お前は…… リンドバーグか? 確か貴様もSS級ダンジョンのレイドメンバーだったんだな」


「はい」


 シャルマンがハンスの方へ再び振り返り、怒りを込めた声で言い放つ。


「お前がいない間に色々調べさせてもらったぞ。ハンス、貴様はギルドマスター代理を任された事を良い事に、勝手にギルドの規約を変更した上に、一人のポーターを追放した。更には勝手にレイドを実行した上、失敗しギルドのメンツを潰した」


「くっ!!」


「【オールグランド】はお前の私物じゃないぞ!! どう釈明する気だ!!!」


「そっそれは…… ギルドマスター代理の俺が判断した事だ。単なるメンバーのお前には関係ないっ!!」


 シャルマンの正論にハンスは言葉を詰まらせたが、何とか反論に転じる。


「シャルマン殿、待ってください!! レイドが失敗したのは私のせいでございます。私の部隊が魔物に崩されたのが原因でございます。なのでハンス様には非はございません」


 横から飛び出したリンドバーグがシャルマンの前で土下座し自ら罪を被って来たのだ。

 ハンスは一瞬驚いたが、その献身的なリンドバーグに厚い信頼を覚えた。

 そして悪いとは思いながらも、リンドバーグの意思を尊重し、その嘘にのる事を選んだ。


「そうだ。お前のせいで失敗したんだからな。次はしっかりとやれよ」


「はっ!! 汚名は次回、必ず晴らさせて頂きます」


「解ったかシャルマン、そう言う事だ」


 そんな茶番をシャルマンは面白くなさそうに見つめていた。

 実はシャルマンは事前の調査でレイドがどんな状態であったかを調べていた。

 同じS級のユニオンの所にも話を聞きに行っており、詳細な状況を掴んでいる。

 

 シャルマンが得た情報は全てカインにも伝えており、ハンスをどう処罰すれば良いか指示を受けてもいる。

 

 実は今、シャルマンはギルドにおける全権利を有していた。

 ハンスの運命はシャルマンが握っていた。

 

 それとは別に内通者を見つけるという別の指令も受けている。

 更に任務ではないがスクワードからラベルの様子を見る約束をしていた。


 シャルマンは目が回るような忙しい日々を過ごしていた。


 一番簡単だと判断して、街に戻って最初にラベルを探してみたが、ラベルの行方は解らなかった。

 捜索の最中でハンスが行っていた嫌がらせも知り、もしかしたら街から出て行っているかも知れないと考えた。 

 

 仕方なく、ラベルの事は最後に回し、シャルマンはハンスの対応と内通者の捜索に乗り出したのだ。

 

 まず内通者を見つける為にシャルマンはカインが生きている情報をうまく利用する事を思いついた。

 カインが生きている情報は、大勢の前で一度に伝えるのではなく、個別に少数の前でシャルマン自らが口頭で伝えていった。

 その理由は伝えた相手の表情やその後の行動をチェックする為だ。

 既にギルドの八割方のメンバーにはマスターの生存を伝えていた。

 勿論、マスターの身を守る為に誰にも話すなとは言っている。


 自分のギルドに内通者など居ないと信じたい。

 だからこそ入念な調査をしたいとも考えている。


 そしてシャルマンは喜ぶどころか、悔しがるハンスと一瞬だが表情を変えたレミリアに引っ掛かりを覚えた。

 その二つの反応を再び頭の中で思い出し、今後の行動を変更する事に決めた。 

 

 当初、シャルマンはハンスのギルドマスター代理の職をはく奪し、事務方の幹部を代理に据え換えるつもりだった。


 その考えを少し変更する事にした。


(もう少し泳がせてみるか?)

 

「これはマスターからの委任状だ。今の私はマスターから全権を授与されている」


「全権だと!? なら貴様がギルドマスター代理に!?」


 委任状を見せられ、ハンスは自分が手に入れた地位を奪われるかもしれないと焦りを覚える。


「ふんっ、私には別にやることがあってな。ギルドマスター代理をやる時間など無い!」


「そっそうか!!」


「しかしだ、私は今ここで貴様の処分を言い渡す事にした。ハンス、貴様が持つギルドマスター代理の権限の一部をはく奪する!!」


「権限を一部…… はく奪だと……!?」


 ホッとしたのはつかの間、ハンスの目が大きく開いた。


「マスターから与えられているギルドメンバーに対する指揮命令権、並びに会計に関する権限を全てはく奪する。今後は全てにおいて、幹部の半数以上の同意と最後に私のサインが無ければその命令は無効とする」


 ハンスは思考を高速に回転させて状況を整理する。


 ギルドの半数以上の同意は確保できる。

 なぜならその為にレミリア達を幹部に仕立て上げたんだから。


 しかし…… 最後にシャルマンのサインが必要という事は今後、シャルマンに頭が上がらなくなるという事だ。


「なんだと!! そんなギルドマスターがあるか? 動くたびにお前に指示を伺えって訳か!? ふざけるのもいい加減にしろ!!」


「ならギルドマスター代理を解任してもいいんだぞ。私はその権限を持っている。さあ選べ!! 貴様はどちらを選ぶ!!」


「ぐぬぬぬぅぅぅ!!」


 マスターのサインと印が入った委任状を見せられては反論できない。

 ハンスの思考はどちらを選べば自分の望む野望に近いのかを必死で考えていた。

 そして最終的に一つの答えを選んだ。


「わっ…… 解った。以後、行動を起こす際は、幹部の半数以上の承認を得た上、お前の許可も取るとしよう」


 ハンスは国内最大のギルド【オールグランド】ギルドマスターと言う肩書を縋る思いで選んだ。

 でもそれは名前だけで、実際には何の権力もない名前だけの地位だ。


「了解した。何か行動を起こす前には私の部屋に使いを出せ! 以上だ」


 そう言い放ち退室する姿を眺めていたハンス達は全員が無言で、それぞれに思いふけっていた。


 ハンスは悔しさの余り、握り締めた手が震えていた。


(どうして上手く行かない!? 規約を変えた? 誰の迷惑にもならない些細な事じゃないか!! おっさんを追放した? ポーターが何人いると思ってやがる。おっさん一人くらい追放したってどうって事はないだろ!! レイドを失敗した…… これだ、これがいけなかったんだ。その前の二つはこじ付けに過ぎない。いいさやってやる俺は絶対にSS級ダンジョンを攻略してやる!!)  

 

 ハンスは自分の野望を成就させる為にも、必ずSS級ダンジョンを攻略しなければならないという強い想いにかられた。

 野望の為、足を止める訳にはいかない。偉業を達成するにも多少の問題は発生する。

 今回の事も後で思い返せば、些細な障害だったと笑わなくてはならない。

 その為にも今は気持ちを切り替え、ダンジョンの攻略に集中する事にした。



 レミリアはそんなハンスを つまらなそうに無言で見つめている。

 ハンスを見つめるその目は哀れみではなく、ゴミを見るような蔑みを含んでいた。

 

(かっこ悪…… ハンスってこの程度の男だったの? ハンスに乗れば、いっぱい貢いでもらえると思ったのに……)


 レミリアはハンスの地位と金に惚れていた。

 しかしそのメッキが目の前で一つはがれてしまった。

 それだけでレミリアの愛情は半減していた。

 


 最後にリンドバーグはハンスの役に立たなかった事を悔いていた。

 

(私はずっとハンス様に世話になって来た。駆け出しで金がなかった時に融通してもらった事もある。一緒にダンジョンに潜って貰って戦い方を教えて貰った事もあるし、魔物から命を助けて貰った事もある。その数々の恩に報いる事ができる場所にやっと来たと言うのに…… クソっ!!)

 

 リンドバーグは義理堅い男だった。

 ハンスが唯一手に入れた宝物、それはこの男リンドバーグであった。


 しかしこの三人の思いが交錯しこの後、おかしな事態へと進んで行く事になってしまう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
漫画から来たけどヒロインの名前レミリア・スカーレットって...
[一言] ハンスがギルド関係にはラベルにかかわらないように通達を出すことができてるのに彼に取って庭というべき市場などへ全くと言えるほど話を通せていなかった辺り彼のそっち方面の人望のなさなのかそもそも軽…
[良い点] 面白い展開になって来ました(●´ω`●)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ