141話 実力者
大量に現れるスケルトンが相手でも、俺達は余裕を残しながら戦いを続けた。
そして一日を掛けて2階層に降りる道を発見する。
俺が時計を取り出して時間を確認してみると、ダンジョンに潜って既に12時間が過ぎていた。
(最初から余り無茶はしない方がいいな)
俺は攻略を中断し、休息をとる事にした。
「よし、今日はこの近くで休むとしよう」
俺達は他の冒険者の通行の邪魔にならないように、二階層に続く通路から少し離れた場所に移動すると煙玉を使って魔物払いを行う。
煙玉を使えば魔物が近寄ってこなくなるのだが、実はスケルトンには効果は殆どない。
俺が煙玉を使った理由は、スケルトン以外の魔物が現れる可能性を考えての事である。
スケルトンしか出てこないと思い込んで、油断した所を襲われたくはなかった。
そういう理由から、普段と同じように煙玉も使用したと言う訳だ。
しかし仲間がスケルトンにも煙玉が有効だと勘違いするかもしれないので訂正はしっかりとしておく。
「みんな聞いてくれ、全ての魔物に煙玉が有効と言う訳ではない。ハッキリ言えばスケルトンに限れば煙玉の効果は殆どないんだ」
「そうなの?」
「今回煙玉を使用した訳は、スケルトン以外の魔物が現れた時を考えての処置だと思ってくれ」
「煙玉が効かないのは、どうして?」
リオンの問いに俺は頷いた。
「スケルトンには嗅覚が無く、視覚と聴覚で冒険者を認識していると言われている。今までの研究でもそれが確証されている。スケルトン以外にも煙玉が効かない魔物がいるが、それは時間が出来た時にでも教える」
そこまで説明した後、俺は【サンドワーム】の魔石を飲み込んだ。
サンドワームの魔石の効果は【土の操作】である。
俺は地面に手を置くと、地面を操作し身を潜められる土の壁を作り出した。
壁の裏側に隠れればスケルトンに見つかる事も無いし、戦闘になったとしても土の壁が防壁となってくれる。
「スケルトンが出る階層で休息したい時は、こんな感じで姿を見えなくさせればいい。今回は俺のスキルを使ったが、大きな布などでテントを張っても大丈夫だ。リオンとダンはちゃんと覚えておけよ」
「うん」
「へーい」
アリスとリンドバーグは当然とばかりに頷いていた。
リオンとダンは戦闘面で言えば十分A級冒険者レベルに達してはいるが、まだまだ経験が少なくアンバランスな状態でもある。
なのでダンジョンで色々な経験を積み重ねて、本当の意味でのA級冒険者に近づいて欲しいと願っている。
その後、俺達は二班に分かれて休憩を取る事にした。
五人を二班に分けると二人組と三人組になる。
少し迷ったが俺は男女で分ける事に決めた。
それなら簡単に分けれる上に、戦闘力から言っても丁度バランスが良い。
みんなに相談した所、異論も出なかったので俺達は男女に分かれて休憩を取る事になった。
「この弓すげぇぇぇ! スケルトンの骨ごと貫けるから、直接魔石を狙えるじゃん」
単体で近づいたスケルトンに対して、ダンが壁の陰から矢を放つと矢は凄まじい速度でスケルトンを襲い、スケルトンの骨ごと魔石を貫く。
ダンは感嘆の声を上げる。
新しい弓は強力で、ダンの攻撃力は格段に上がっていた。
「調子に乗って矢を使い切るなよ? 今は休憩中で矢の回収はできないんだからな」
「分かってるって! ちょっと試し打ちしたかっただけだから」
「ダンくんが、矢を放ちたくなる気持ちも分からなくはないですね。私も新装備を試したくてうずうずしていますから」
リンドバーグもそう言いながら、新しい盾に視線を向ける。
「確かにアドバンス工房の装備は最高級だからな。 お前達がそう思うのも無理はないか。実際、俺もこんな高価な装備を身につける日が来るとは思わなかったし」
「へっ? でもラベルさんって、昔SS級ダンジョン攻略したんだろ? 流石にその時は良い装備を身につけていたんだろ?」
「SS級ダンジョン? あの時の俺はポーターに専念していたからな。それに金もなかったから装備はそれ程高い物じゃなかったな。どちらかで言えば安物だった筈だ」
「嘘だぁ~! 魔物に一度も襲われないで、高ランクのダンジョンを攻略出来る訳がないじゃん? 一撃でも攻撃を受けたら死ぬんじゃねーの?」
「カインパーティーは化物ばかりが集まっていたからな。立ち回りを考えて動けば、魔物の攻撃を受けなくても何とかなったんだよ」
「何とかなったって…… 一度も攻撃を受けずに? 本当かよそれ!?」
ダンは俺の言葉を信じられないといった表情を浮かべた。
ダンもA級ダンジョンに挑む様になって、俺の言葉を疑う様になってきている。
高ランクのダンジョン攻略がどれだけ難しい事なのか、少しずつ分かってきているのだろう。
疑う事自体は成長しているという事で良い事なのだが、嘘は言っていない。
(まぁ、信じられないと言うのなら仕方ない。無理に信じて貰う必要もないしな)
今思えば、確かに若い時は少し無茶をしていたかもしれない。
あの頃の俺は、カイン達に迷惑を掛けない様に必死だった。
カイン達のやる事が毎回無茶苦茶で、何度も死にかけた事を思い出す。
しかしそのお陰で、今ではどんな状況に置いても焦る事も無く冷静に対応出来る様になっている。
経験は無駄にはならない、今までの経験を元に未来を予想出来る様になってきていた。
仮想の未来がイメージできるから心にも余裕が生まれ、対策を考える時間が作れる。
だから俺はオラトリオの仲間にも多くの経験を積んで貰って、大きく成長して欲しいと願っていた。
その時、遠くから声が聞こえてくる。
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
最初は小さかった声は段々と大きくなってくる。
俺が視線を向けると二人の冒険者が走りながら近づいて来ていた。
「そのスケルトンは俺様の獲物だぁぁぁ! レオ、お前は絶対に手を出すなよ!」
無数の棘が付いた鉄製の棍棒を振り回しながら、大柄の男が雄たけびを上げている。
「そんな事を言ったって、最初に言ったじゃないか! 早い物勝ちだってね」
男の傍にはダンと同じくらいの身長の少年が細身の剣を持って並走していた。
そして二人に気付いた三体のスケルトンが二人に襲いかかる。
男は棍棒を頭上で回転させて勢いを付けた後、スケルトンの頭上に振り落とした。
棍棒はスケルトンの頭蓋骨を粉砕し、そのまま魔石を粉砕する。
「すごいパワーだな。ありゃカインといい勝負だぞ。それにあの少年も若いのに強い!」
少年の方は素早い動きでスケルトンの懐に飛び込むと、通り過ぎながら肋骨の隙間に剣を差し込み魔石を真っ二つにしていた。
「へぇ~、あの二人相当な手練れだぞ」
俺は二人の冒険者に嘘のない称賛を贈る。
その二人の後ろから三人の男性冒険者が続いて現れた。
やる気のない剣士と大きな盾を持った盾職に両手にナイフを持っている斥候。
盾職と斥候は前線に居るべき職業なのだが、どうやら追いかける気もなさそうだ。
彼等はA級ダンジョン内にいるというのに緊張感の欠片も感じられない感じだ。
「おーい。余り先に行くなよ~ 調子にのって魔物に囲まれても助けてやらねーからな」
「やめとけスクール! 戦闘狂の二人にそんな事を言ったって無駄だって! それよりもあの二人は放っておいて、俺達はのんびり行こうぜ」
「そうだな。放っておいても、腹が減ったら帰ってくるしな」
そんな事を喋りながら、三人の男達は俺の前を通って行く。
その途中、スクールと呼ばれた男と俺の目が合ったが、スクールはそのまま素通りして行く。
ダンジョン内で他のパーティーと出会った時、お互いが干渉しないのが暗黙のルールである。
しかし幾つかの場合によっては接触してくる事もある。
一つはパーティーを襲う時、二つ目はアイテムの交換や購入をしたい時、そして最後は助けを求める時などだ。
アイテムが不足するのは中間層位からで、序盤からアイテムが不足しているとは考え辛い。
なので彼等が俺達に接触を求めてくる確率は低く、無視をしているのも悪気がある訳でもなかった。
俺は三人の冒険者に視線を向ける。
彼等もかなりの実力を秘めていると俺は感じ取っていた。
「流石はA級ダンジョンだ。強者がゴロゴロしているな。だが俺達も負けるつもりはないからな」
A級ダンジョンの攻略を目指すライバル達は実力者ばかり、俺も自然とやる気が溢れ出していた。




