140話 エンブレムと最初の敵
A級ダンジョンは国から依頼を受けて冒険者組合が入口を封印し、門番を配置して日々管理を行っている。
その為、A級ダンジョンから管理ダンジョンとも呼ばれていた。
大きな石のブロックで入口を閉ざされたダンジョンには、人が通れる程度の鉄の扉が取り付けられており、その扉の傍には小さな詰所が建てられていた。
二十四時間体制で門番が配置されているので、異変があればすぐに対応できるようになっている。
ダンジョンに入りたい時は、門番にB級冒険者プレートを提示すれば入る事が出来る。
「やっとA級ダンジョンにアタックが出来るぜ。俺、早く新しい装備を試したかったんだよな」
「もぅダンったら、絶対に調子に乗らないでよね」
新装備を身に付けた俺達はA級ダンジョンの入口に集まっていた。
大声で騒ぐダンに注意するリオンも普段よりテンションが高い様に見える。
二人とも新装備の性能を早く確かめたくて、落ち着かないといった感じだ。
(まっ、気持ちは分からなくもないが…… それにしても三日目になると、やはり冒険者の数は少ないな)
周囲を見ても、まばらに人がいる程度。
ダンジョンが解禁されて今日で三日が経過しており、アタックを仕掛ける冒険者達は既にダンジョンに入っているからだ。
A級ダンジョンになると一回のアタックでも長期戦となる為、冒険者が一度入ってしまえば中々戻ってこない。
「なぁ~、早くダンジョンに入ろうぜ。リオンねーちゃんもそう思っているだろ?」
「……うん」
「残念。その前にミーティングだ」
「えぇぇ~」
二人には申し訳ないのだが、俺は全員を集めてミーティングを始めた。
「俺達は今からA級ダンジョンに挑む! 分かっていると思うが、A級ダンジョンで身勝手な行動を取れば仲間に大きな迷惑を掛ける事になる。仲間がいる事を常に考えて行動してくれ」
「「はい!」」
「最初の目標は十階層! フロアギミックを確認した後は一旦帰るからな。今回の目的はあくまでも新装備に慣れる事と、A級ダンジョンの雰囲気を実際に体感して貰う事だ」
ダンが「もっと進もうぜ!」とか言ってくるかと思ったが、みんなと同じように素直に頷いている。
(ダンも成長しているって訳か)
メンバーの成長を目の当たりにし、俺は笑みを浮かべた。
「それと全員気付いていると思うが、新しい装備にはエンブレムが刻んである」
「ラベルさん、やっぱりこれってエンブレムだったんだね」
リオンが自分の胸当てに刻まれているエンブレムを嬉しそうに見つめている。
「そのエンブレムのデザインは俺が考えた物だ」
装備の一部には、四角い枠の中に規則性のない模様が刻まれていた。
ちなみに、アリスの装備はアドバンス工房に持ち込んで、エンブレムを刻んで貰っている。
エンブレムとはギルドを象徴するマークである。
【オラトリオ】が今後大きく成長すれば周囲から一目おかれる様になり、無駄な争いに巻き込まれなくなる。
また市場で買い物をする時でも、贔屓の店では安くアイテムが買えたり、二流品を売られなくなったりもする。
俺はオールグランドに所属している時、エンブレムという看板がいかに便利なのかという事を身をもって体験してきた。
こんなに早くA級ダンジョンに潜れるとは思っていなかったので、最近までエンブレムは必要ないと考えていた。
しかし今はB級ダンジョンを攻略し、ギルドの名前も少しずつ広まってきている。
そして新装備が完成するタイミングも重なり、俺はオラトリオのエンブレムを作る事を決めたのだった。
「ラベルさん、これって何の模様?」
ダンがエンブレムに指をさしながら、何の模様かを聞いてくる。
確かにエンブレムの模様は普通の者が見ても意味が分からないだろう。
「この模様はカインと共に攻略したSS級ダンジョン、その最下層の地図だよ。俺達の目標はSS級ダンジョン攻略だからな! いつか必ずこの場所にたどり着きたいっていう願いを込めている」
「へぇ~、なるほどね。格好いいじゃん」
「うん」
「ここがお父様とお母様がたどり着いた場所なのね……」
「マスター、私達なら必ずたどり着けますよ」
「みんなありがとう。エンブレムを刻んだ装備を身につけている限り、俺達の行動は全て【オラトリオ】の行動として見られていく。だから今後は全員が責任を持って行動して欲しい」
「ラベルさん、それは良い事をしろって事でいいのか?」
ダンが自分の考えを口にした。
「別に良い事をしろって訳じゃないさ。簡単に言えば、蔭口や悪口を言われるような行動はするなって事だよ」
「蔭口や悪口を言われる様な行動かぁ……」
「難しく考えなくてもいいぞ。自分で間違っていないとハッキリと言える場合は、その限りじゃないからな! 誰に何を言われようがやりきればいいし、その時は俺達がお前を助けるさ」
「まっ、俺は気にせずにいつも通りでいいや!」
「あぁそれでいい。みんなも余り気にする事無く、普段通りに行動してくれたらいいからな。それじゃ、A級ダンジョンでの注意点を話すぞ」
その後、俺がA級ダンジョンでの注意点を説明をする。
「最初にも言ったが、今回はA級ダンジョンの雰囲気を理解する事と新装備に慣れる事が目的だ」
全員が頷いている。
「新装備は工房で試し切りをしたが実戦で使うのは今回が初めてとなる。なので最初から無茶は厳禁だぞ。手数を掛けて安全に魔物に対応する事」
「「はい!」」
新装備が出来て初のアタックなので、本当はB級ダンジョンを潜っても良かった。
しかし俺はメンバーの実力を見て、最初からA級ダンジョンでも大丈夫だと判断したのだ。
その後ミーティングが終わった俺達は、ついにA級ダンジョンに足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
A級ダンジョンの一階層は複雑な大迷宮が広がっていた。
しばらく進み、丁字路を左に曲がった所で魔物が現れる。
地面が盛り上がり、現れたのはスケルトンであった。
スケルトンは盾と剣を装備しており、ガシャガシャと音を立てながら近づいて来る。
スケルトンは単体ではそれ程強くはないが、魔石を破壊されるまで何度でも復活して襲ってくる為、集団で襲われると危険な相手だ。
(相手はスケルトン、数は三匹)
俺は瞬時にスケルトンの情報を頭に思い描いた。
「スケルトンは幾ら手足を切断したとしてもすぐに復活する。倒すには体内に見える魔石を破壊するしかない」
「ラベルさん、スケルトンなら何度も戦っているから私は大丈夫!」
「私も戦った事がありますので、ダン君かリオンさんの援護に回れます」
アリスとリンドバーグがスケルトンと戦った事があるとの事だ。
経験者が居ると頼もしいと感じる。
「よし、今回はアリスとリオンが前衛だ。リンドバーグはダンにスケルトンを近づけさせるな。ダンも援護するなら魔石を直接狙え! スケルトンはただ貪欲に獲物に攻撃を仕掛けるだけだから、威嚇攻撃は効果がないぞ」
「了解」
俺の指示を受けて、それぞれが動き出した。
「リオンちゃん、最初は私の戦い方を見てくれるかな?」
「うん」
アリスとリオンの攻撃スタイルは似ている。
お互いに素早い動きで敵を翻弄して、攻撃を仕掛けるスタイルだ。
アリスはスケルトンに向かって突進していく。
スケルトンは腕を振り上げ、アリスに斬りかかる。
しかしアリスは軽々と攻撃を避けると、心臓部分に光っている魔石を一撃で貫いた。
魔石を破壊され、スケルトンは灰になり崩れて行く。
「リオンちゃん、こんな感じだけど分かった?」
「要するに魔石を狙えばいいの?」
「そうそう。さっきは一撃で倒せたけど、安全にいくなら手足を切り落として動けない所を狙ってもいいかも」
「一回やってみる」
アリスが戻って来たと同時に次はリオンがスケルトンに向かって行く。
先読みのスキルで剣を避け、剣を振りぬいた。
リオンが狙った場所は剣を持つ右腕の付け根部分で、スケルトンの腕はそのまま地面に落ちる。
武器を失ったスケルトンだが、地面に落ちた腕が震えだしている。
後数秒もすれば腕は再び身体へと戻って行く。
「うん! 新しい武器、凄い軽くて扱いやすい。それに装備も凄く動きやすい」
リオンは新装備の性能に満足していた。
「今の装備なら負ける気がしない。次で終わらせるね」
腕が戻ったスケルトンが再び攻撃を仕掛ける前に、リオンは素早い動きで懐に潜り込むと肋骨を破壊し、むき出しになった魔石を破壊する。
そのまま近くにいた残りの一匹もリオンが倒して、今回の戦闘は終了となった。
(アリスは当然だが、リオンも流石だな。スケルトンは意外に強い魔物なんだが、全く相手になっていない)
リオンの戦闘は落ち着いており、まだまだ余裕がある様子だ。
今の様子だと一対一ではスケルトンに後れを取る事は無いだろう。
しかしスケルトンとの戦いで、一番恐ろしいのは集団戦だ。
今回は運よく三匹だったが、スケルトンは平気で十匹以上が一度に現れる場合もある。
スケルトンとの戦闘は混戦になった時が一番恐ろしい。
(初戦は良い感じだ。だが何処かで必ず集団戦となる。その時が本当の試練だな)
初戦を終えた俺達は、再びダンジョンの奥へと進んで行く。




