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134話 エスコート

 突然の休暇が告げられ、それぞれがどう過ごすか考えていた。

 そんな時、ギルドホームのドアがノックされた。


「はーい、どなたですか?」


 アリスがドアを開きながら声を掛ける。


「突然の訪問失礼します。ご在宅で助かりました」


「貴方はメアリーさん!? お久しぶりです」


 ギルドホームに訪れたのは、ギルバード伯爵家でミシェル令嬢の専属メイドのメアリーだった。

 わざわざギルバード伯爵家の人が訪ねて来た事にラベルは身構える。

 瞬時に何か問題が起きたかもしれないと察し、ラベルはそのままメアリーを招き入れた。


 メアリーを客間に案内した後、テーブルを挟んでラベルが着席する。

 他のメンバー達も周囲に散らばり、話を聞いた。

 

「それでメアリーさん、ギルドホームに来た用件は何ですか?」


 ラベルがメアリーに話しかける。


「はい、実は旦那様が仕事で首都に来ているのですが、今回はミシェル様も同行しているのです」


「なるほど、それでどんな問題が発生したのでしょうか? まさか誘拐!?」


 身分が高い者はいつも誘拐などの危険が付きまとう。

 再び狙われたとしても不思議ではない。

 

「いえ、ミシェル様に何かあった訳ではありません」


「それでは、ギルバード様に何か!?」


 ラベルが焦りの表情を浮かべた。

 ミシェル令嬢に何も無いとなると、ギルバードに考えが移るのは自然だろう。


「いえいえ、誰かが危害を受けた訳じゃないんです」


 メアリーは首を左右に振ってそれを否定する。


「それでは、どういったご用件で来たんですか?」


 話が見えないと言った感じで、ラベルが聞き直した。


「はい、旦那様の仕事に問題が発生しまして、その結果、首都の滞在が伸びてしまったのです。それでミシェル様が別荘の滞在に飽きてしまいまして…… それで大変申し訳ないのですが、ミシェル様に街を案内して貰えないかと……」


「要するに、我々に暇を持て余しているミシェル令嬢の相手をしろと! 」


 ラベルがストレートに言い直す。


「いえいえいえ、そんなつもりは! あっ!? 依頼です! ギルバード伯爵家からオラトリオに正式な依頼!! うん、ミシェル様に首都を案内して欲しいのです」


「ですが伯爵令嬢を連れ回すのは流石に危険では? もし本当に誘拐されたら洒落になりませんよ。それに急に来て今から案内しろと言われても私達にも予定がありますし」


 ラベルはメアリーに正論を返した。

 正論だけにメアリーも言い返せない。


「そうですよね…… 仰るとおりです。 突然押し掛けて図々しいお願いをして申し訳ございません」


 メアリーが力なく肩を落とした。


「俺、暇だから案内しようか? 護衛は俺とメアリーさんがいれば大丈夫だと思うし」


「ダン、いいのか? 折角の休暇が無くなるんだぞ?」


「全然いいよ。それにミシェル様とは久しぶりに会いたいと思っていたしさ」


「ダンさん、助かります! ありがとうございますぅぅ」


 メアリーはダンの元に駆け寄り手を握ってお礼を告げる。

 その様子を見るに、かなり切羽詰まっていたのだろう。


「本当は俺も付いて行ってやりたいが、俺は封印作業があるからな。ダンの他にも誰かついて行ってやれる者はいないか?」


「私、いけるよ」


「そうか! アリスが付いてくれるなら、誘拐される事もないな」


「いえいえ、そこまでご迷惑をおかけする訳にはいきません! お嬢様の身は私が命に代えてお守りします! ダンさんが案内していただけるならもう十分です」


 メアリーはアリスの参加を何故か申し訳ないという理由で止めた。

 

「いえ、もしそれでミシェル様の身に何かあれば我々にも責任が生じます。ギルドとして依頼を受けるなら、万全を期する為にも実力が高いアリスの参加は必須ですよ」


 ラベルの返答にメアリーが何も言えなくなる。


「ラベルさん、それじゃギルドの依頼じゃなくて、単なる友人として俺が案内するのはどうなんだ?」


 ダンが代案を口にする。

 まさかダンがそんな事を言ってくるとは思わなかった。

 確かに友人としてなら、休暇中に友人と街に出ているだけという解釈になり、何かがあってもギルドが罰せられる事もない。


 それでもまだ、俺は素直に頷く事が出来なかった。


「それですっ!! ご友人としてでっ!! ダンさんよろしくお願いいたします」


 メアリーもダンの意見に乗っかって来る。

 そこまでダンに案内させたい理由がラベルにはわからない。


「ですが、うちのメンバーが傍にいる所で令嬢に何かあった場合、無関係とは言えないでしょ!」


 ラベルは危惧している理由を正直に話す。


「こちらには傭兵団から護衛として同伴していますので、護衛は彼達にお任せしますから大丈夫です」


 メアリーにそこまで言われたら、ラベルも流石にもうそれでいいだろうと思えて来た。

 そう思った要因には傭兵団の存在が大きい。

 メアリーが言う通り、傭兵団が周囲を囲っているのなら、俺達が守るのと差ほど変わらないだろうと。


「う~ん、そこまで仰るのなら…… ダン、お前は気付いてなさそうだから忠告しておくが、ミシェル令嬢は冗談抜きでいつ誘拐されてもおかしくない身分の人だ。油断だけはするなよ」


「その位、俺もわかってるって!」


 ラベルは困惑した表情を浮かべていたのだが、最後はしぶしぶと納得する。


「それではダンさん! 今からご案内しますので、私に付いてきて下さい」


 メアリーはダンの手を引き、ギルドホームから連れ出した。


 

 ◇  ◇  ◇



 ダンが案内された場所は首都にあるギルバード伯爵の別宅であった。

 本宅より小さいが、造りは豪華だ。

 別宅には執事長のマルセルさんや傭兵団の冒険者の姿もあった。

 ダンとは既に面識もあり、気軽に手を上げて挨拶をする。

 別宅にいる傭兵団のメンバー達とは共に戦った戦友なので、友情のような物も生まれていた。


「おう、久しぶりだな。お嬢がソワソワしながら待ってたぞ! 早くいってやんな!」


 既に傭兵団はオラトリオが来る事を聞かされていた感じだ。


「ちょっと、何を言っているんですか!? 余計な事を言うとぶっ飛ばしますよ!」


「おお~ 怖い怖い」


 反乱事件の前は傭兵団から危険人物に認定されていたミシェルだったが、事件後はお互いの信頼関係も構築され良好な関係が築かれていた。

 そして今回は事前にメアリーから、オラトリオのメンバーを連れてくるかもしれないと聞かされていたのだ。


 メアリーはオラトリオがギルドホームにいる可能性が高い事を、予想していて動いていた。

 ミシェルが首都に来た理由や突然暇になったのは本当の事だ。

 しかし滞在が延長した頃、オラトリオがB級ダンジョンを攻略したという情報が入る。

 元冒険者だったメアリーは、それならすぐに次のダンジョンには潜らないだろうと予想したのだ。

 そしてメアリーはミシェルにオラトリオ…… いやダンに街を案内して貰う事を提案してみる。

 ミシェルも何だかんだと文句を言いながらも、その提案に乗って来た。

 

 しどろもどろとなっているミシェルの姿をみて、メアリーは温かい笑みを浮かべた。

 今回の提案にミシェルが乗ってくる事をメアリーはわかっていた。

 ミシェルは事件後、年齢も近く自分の父親の為に戦ってくれたダンの事を自分の騎士の様だと思っているからだ。

 その想いを知っているからこそ、メアリーは今回の依頼を思いついたのだった。


「何だよ。ミシェル様って、そんなに暇で遊びに行きたかったのかよ!」


「ダンさん、今の話は聞かなかった事にして下さい」


「えっ、何でだよ? 別にいいじゃん」


「お願いですから!!」


 メアリーが余りにも必死に頼んでくるので、ダンも頷くしかなかった。

 その後、案内された部屋のドアが開かれる。

 室内にはおめかしをしたミシェルが立っていた。


「ふんっ! 久しぶりじゃない!」


「ミシェル様も元気だったか?」


 ダンはいつもの調子で話しかけた。


「見てわからないの? 元気に決まっているじゃない!」


 一方ミシェルの方は、ダンと会えた事がとても嬉しく思えた。

 そしてそんな風に感じてしまう自分が恥ずかしくなり、出会った頃の強気な口調を取ってしまう。

 初見の者なら、その高飛車な口調に多少は気を悪くするかもしれない。

 しかしダンはミシェルの性格も分かっているので、何も気にしていなかった。


「聞いたぜ、今暇なんだろ? 俺も暇してっから街を案内してやるよ」


 そう言いながらダンは手を差し出した。


「ふん、そこまで言うのなら貴方に今日のエスコートを頼むとするわ。言ったからには私が満足する場所に案内してよね」


「あぁ、任せとけ!」


 ミシェルがダンの手に自分の手を重ねると、ダンはニシシと笑顔を浮かべた。

 その笑顔につられて、ミシェルもとろける様な笑みを浮かべる。

 その後、ミシェルはとても楽しい一日を過ごすのであった。

 その後もダンの休暇はミシェルと共に消化されていく。

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