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131話 新装備

 俺達の前にアドバンス工房の職人が装備を持って近づいてきた。

 どうやら一対一で対応してくれるみたいだ。

 職人達は装備を取り付けながら、自らが製作した装備の特徴などを説明をしてくれていた。

 アリスは見学者として、黙って俺達の着替えを見守っている。


「すっげぇぇぇ~」


「軽い!?」


「重量のバランスが良いですね」


 メンバーからは歓喜に満ちた声が聞こえてくる。

 ハンスが発注した装備は、ハンスパーティー専用の装備だった。

 ハンスパーティーは主力メンバー四人とポーターの俺を足して五人で活動していた。

 剣士のハンス、魔法使いのレミリア、アーチャーのシャーロット、重戦士のフレイヤ。

 俺は防具に関してはハンス達の装備をオラトリオのメンバーに合わせて作り直して貰っている。


 リオンとハンスは剣士、ダンとシャーロットはアーチャー。

 リオンとダンは同じ職業の者がいたので、サイズの変更と多少の修正で済んだ。

 次にリンドバーグは盾を使って戦う戦闘スタイルだったので、フレイヤの装備を流用している。

 そして最後の俺はレミリアの装備なのだが、俺とレミリアは装備の相性が良かった。

 俺はポーターとしてずっと軽装でダンジョンに潜り続けてきた。

 その理由は単純でポーターとして大量の荷物を運ぶ為、装備で重量を増やしたくなかったからだ。

 戦闘には余り参加しないポーターだから軽装を選んでいたとも言える。

 

 そしてレミリアは魔法使いで俺と同じ軽装なのだが、全く別物の装備であった。

 素材の違いは勿論だが、魔石を豊富に使ったとても高価な装備である。

 特殊な糸で製作された戦闘用の服は高い防御力があるにも関わらず服と同様に軽い。

 

 俺は今回作られた戦闘用の服に着替えさせられた後、その上から各部位の装備を取り付けられていた。


「お前は軽装で良かったんだよな? ポーターなんだろ?」


 腕を組んだ状態で、全ての作業を見守っていた店主のアドバンスが俺に話しかけてきた。


「はい、ですが戦闘にも参加しますので、それなりの防御力があれば助かります」


「ふん! そこは安心していいぜ。その装備の防御力の高さは俺が保証してやる」


「ありがとうございます」


「それだけじゃない。今回作った装備には多くの魔石を組み込んでいる」


「装備に魔石が組み込まれている!? そりゃ凄いですね」


「そりゃそうだろ? あの男は俺に最高の装備を作ってくれと頼んできたんだ。今回作った装備全てがアドバンス工房の最高傑作よ!」


「製作費が高いのも頷けます」


 この装備はハンスが前金で金貨千枚を支払っている。

 完成後に金貨千五百枚支払う事になっていた。

 

 装備の修正費用も入っているので、前金よりも高いのは仕方ないと割り切っている。

ただ一人当たりに換算すれば金貨五百枚以上の超高価な装備となるので落ち着かない。


 リオンが今使っている剣は俺が行きつけの武器屋で買った銀貨十五枚の剣である。

 そして全身の装備を合わせても金貨二枚もいかないだろう。

 それはダンも同じで、俺の装備はもっと安い金額で揃える事が出来る。

 それが一気に金貨五百枚を超える装備に変わる訳だ。

 落ち着かないのも無理はないだろう。


「装備だけ見たらもうS級冒険者だよな」

 

「がはは、面白い事を言うやつだ。防具の後は武器もあるからな、武器の方は防具と違ってそれぞれの特徴に合わせたオリジナルだぞ」


「はい」


 その後、メンバー全員に武器が渡された。

 リオンは細身の剣を握っている。

 とても軽くて、切れ味に特化している剣との事だ。

 敵の攻撃を避けて、カウンターで攻撃するリオンの戦闘スタイルにも合っているだろう。


「防具だけじゃなくて、武器も軽いんだね。この重さなら長時間戦っても疲れないかも」


 リオンが職人と話している。


「この剣は最も硬度の高いアダマント鉱石と魔鉄を組み合わせて作っています。剣は軽いですが、固い魔物も容易に斬り割く切れ味を持っています。ちなみにアダマント鉱石はS級ダンジョンでしか採掘できません」


「うん、気に入った!」


 剣の柄の部分に細かな細工を施された細身の剣は、リオンの美しさを一層引き立てる仕上がりとなっていた。


 次に俺はダンに視線を向ける。

 ダンが持っている新しい弓はハチの巣状の構造をしていた。

 そして両端には大きな魔石が埋め込まれている。

 

「アドバンスさん、なかなか個性的な弓ですね」


「あれは俺の自信作だな。この大陸で最大の強度を持ったテグスの繭から作った糸を二重に編み込んで弦に使っている」


「それは凄い」


 テグスの繭から作った糸は強靭で、一ミリの太さの糸で大人を軽々と吊り上げれる引っ張り強度を持っている。


「だが弦を最大限に張った場合、普通の弓じゃあ壊れて使い物にならない。その圧力に耐える構造にする弓を作る事になってだな。俺達が知恵を絞り今の構造になったと言う訳だ」


「そういう訳ですか、あの弓の両端に埋め込まれている魔石は?」


 また弓の両端には大きな魔石が埋め込まれている。


「それは見てのお楽しみだ」


 アドバンスは口角を吊り上げた笑った。


「カッコいいーっ!」


 アドバンスが言う通り、再びダンを見つめた。

 ダンは弓を手にして大興奮している。

 そして嬉しそうに弦を引っ張ってみると、両端に組み込まれた魔石が光り出した。

 

「軽々と弦を引いている!? もしかして魔石に弦を引く補助をさせているって事ですか?」


 その様子を見ていた俺が予想を口にする。


「正解だ。限界まで張ったあの弦は普通の冒険者の力じゃ引く事も出来ない。しかしあの魔石が弦を引く補助をしてくれる。あの弓から放たれる矢は普通の弓と比べて飛距離も長く、威力も高い。そして扱える矢の大きさも変える事が出来ると言う訳だ」


「そいつは凄い。あのサイズの弓で大型の弓の代用も出来ると言う訳ですね」


「そういう事だ。あの坊主の身体では大型の弓を使うのはまだ早そうだからな。だがあの弓なら連射も出来る上に一撃を狙う事も出来るって訳よ! どうだ凄いだろ!?」


「はい!!」


 流石はこの国で一、二を争う工房の装備である。

 その完成度の高さに俺は満足していた。


 次にリンドバーグの事が気になった。


 リンドバーグは片手剣で戦う剣士である。

 剣と盾を持って攻守に強いのが特徴だ。


 リンドバーグの防具はシンプルなデザインだったが、とても洗練された美しい仕上がりとなっている。

 重戦士用の装備の材料を流用している為、装備の重さは同じサイズの装備よりも少し重いと説明されていた。


 全ての防具を身に付けたリンドバーグが手足を動かして確認をしていた。


「この程度なら、問題はありません」


 リンドバーグは余裕のある表情を浮かべている。


「それでは次に盾をどうぞ」


 職人から盾を手に取ると興味深そうに見つめていた。


 盾は周囲に大きな棘が等間隔に設置されており、盾の中央には魔石が埋め込まれている。

 盾の一部には斬り込みがあり、盾の内側から剣を盾の前に突き出す事も可能だ。

 

「誰もいない方向に盾を掲げて魔力を流し込んでみて下さい」


 職員の説明にリンドバーグが言う通りに行動する。

 すると突然盾から光が発せられた。


「これは!?」


「リンドバーグ様のスキルは突進だと聞いています。使用方法としては敵を弾き飛ばしたり、攻撃を避けたり敵に突進したりですね」


「その通りです」


「この機能は、敵に突っ込む時や敵が攻撃した時の目くらましとして使用します。盾を発光させる事で、一時的に敵の視界を潰す事が可能です」


「なるほど、それは素晴らしい機能ですね」


 リンドバーグが感心している。


「あれ…… 凄い盾ですね! 目つぶしをする盾ですか?」


「がはは、目つぶしだけじゃないぞ。当然盾としての防御力も高い」


 アドバンスは嬉しそうに笑う。

 

 最後に武器なのだが、リンドバーグは片手剣で戦う。

 なので片手で扱いやすい様に剣の長さは少し短めに設定されていた。


「以前使っていた剣を拝見しましたが、少々バランスが悪い気がしました。こちらの剣を使ってみて下さい。もし合わなければその都度調整しますので」


 リンドバーグは何度か素振りを行って剣の感触を確かめている。


「流石はアドバンス工房です。こっちの方がしっくりします」


 リンドバーグも大満足と言った所だ。


「そしてお前さんの武器だが、あのお嬢ちゃんの武器と同じ素材で作らせて貰っている。ポーターだから、動きを阻害しない様に短剣にして欲しいという要望だったな。こいつを確かめてくれ」


 俺は一本の短剣を手渡された。

 俺は今日まで自分にはどんな武器が合っているのか? ずっと考えてきた。

 剣や短剣など色々な武器を試しに使ってみたが、どうやら短剣が合っている気がする。

 リオンの剣と同じアダマント鉱石と魔鉄を合わせて作られている短剣との事だ。

 リオンの剣よりも剣幅は広いので耐久力は高そうだった。


 俺が至近距離で短剣を見つめると、自分の顔が鏡の様に映し返されていた。

 その剣を腰の鞘に納める。


「これが新しい装備」


 その後は各自、試し切り用の的に攻撃をしてみたり、動き回ったりして新しい装備の使い心地を確かめた。

 そして各職人たちに自分達が感じた事を説明していく。

 最後に装備を一旦返却し、俺達は元の装備を装着する。


「今まで気付かなかったけど、この装備って意外と動き辛いよな?」

 

「うん、こんなに重かったっけ?」


 ダンとリオンが今までの装備との違いに驚きを覚えていた。


 一度でもあのクラスの装備を使ってしまったら、もう今の装備じゃ満足できないかも知れない。

 しかしA級ダンジョンに挑むなら、今の装備じゃ危険過ぎる。


 この新装備が完成した後、俺はA級ダンジョンに挑むつもりだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 弓が強すぎてそれに耐えうる弦を探すのは理解できますが その逆は良くわからないですね
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