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129話 吉報

 俺はオスマンと会う為にカウンターへと向かった。

 ギルド会館には多くの冒険者と冒険者組合の職員が動き回っている。 

 カウンターは職員の出入りも激しいので、誰か知り合いの職員がいるかもしれない。

 俺はカウンターの近くまで移動すると、周囲を見回してみる。

 すると顔見知りの職員を見つけたので、俺はその職員に声を掛けた。


「アニータさん、お久しぶりです」


「ラベルさん! お疲れ様です。今日は魔石の持ち込みですか?」


 アニータさんは、支部長の補佐をやっている眼鏡を掛けた女性だ。

 俺とオスマンの関係も知っているので話しが早い。


「いえ今日はオスマンに用事があって、いますか?」


「支部長ですね…… はぁ~ えぇ、いますよ。今は仕事もしないで部屋でサボっています」


 アニータさんは大きくため息を吐いた。


「サボっているなら暇ですよね? 今から会えますか?」

 

 俺はオスマンに振り回されているアニータさんに同情しながら話を進めた。


「さっき見に行ったら居眠りをしていたので、全く問題在りません。会ったついでに仕事をする様に言って下さい」


「わかりました。そんな事で良ければ、俺に任せて下さい!」


 俺は口角を吊り上げて笑うと、アニータさんの頼みを了承した。


「ではご案内しますね」


 俺とアニータさんはいつものやりとりを交わした後、彼女の案内で建物内を進んでいく。


「ラベルさんは支部長とお知り合いなんですか?」


 今のやり取りを黙って見ていたフランカさんが小声で話しかけてきた。

 そう言えば、フランカさんは俺とオスマンの関係を知らない。

 フランカさんは俺とアニータさんの話を聞いて驚いている感じだ。


「支部長のオスマンは昔冒険者をしていたので、その時からの知り合いです」


「ずっと思っていたんですが、ラベルさんの人脈ってみんな凄い人ばかり…… そんな人達と付き合いがあるラベルさんって、やっぱり凄い人なんじゃ」


「いえいえ、俺は全然凄くないですよ。昔からの知り合いが勝手に偉くなっただけで、俺は昔のままで偉くもないです。だからそう畏まらないで下さい」


「うふふ、そう謙遜しないでください。ラベルさんが凄いって事はわかっていますから」


 そんな話をしている間に部屋に到着する。


「支部長! アニータです。入りますよ」

 

 アニータさんが声を掛けながらドアをノックする。


 すると「ん? おっおう!」という眠そうな声が聞こえてきた。

 どうやら寝ていた様だ。

 アニータさんがドアを開けた後、俺は部屋の中に入る。

 オスマンは椅子に座り机の上に足をのせた状態で、眠そうにふんぞり返っていた。

 ならまず最初にその眠気を覚ましてやらないと駄目だ。

 

「オスマン! お前は溜まっている仕事もしないで何ふんぞり返っているんだよ?」

 

 俺はオスマンがふんぞり返っている椅子の側に移動すると椅子の足元を蹴る。


「なっ、ラベル!? 何でお前が!? 痛っ!!」


 俺に椅子を蹴られたオスマンがバランスを崩して椅子から転げ落ちた。


「何でお前が? じゃねーよ! アニータさんから、お前が全然仕事をしなくて困っていると相談を受けたんだよ」


 俺は床に転がったオスマンに近づき睨みつけた。

 俺の背後でアニータさんが笑いを堪えている。


「いてててっ! おいっ、アニータ! お前はなんていう奴にチクリやがったんだ」


「忙しいのに仕事をしない支部長が悪いんです。支部長がラベルさんに借りがあって、頭が上がらない事は知っていましたので」


「それでだ。その貸しを返してもらおうとおもってな。お前今日から一年間、休みなしで働けよ」


「はぁぁ? 一年間休みなしで働けだと!? そんな事できるかっ!! 過労で死ぬぞ!」


「大丈夫だ。俺は最近まで十年以上休まなかった、だからお前にもたぶん出来る!」


「でっできる訳ないだろ!! お前が異常過ぎるんだよ」


「だが、お前に拒む権利はないぞ! お前に押し付けられたギルバード伯爵の依頼。お前も詳細は知っているよな? あれ相当苦労したんだからな」


「それは…… 確かに悪いと思っているが、ちゃんと報酬は渡しただろ!」


「ふむ、まだ拒むか…… なら仕方ない。あの事件以来、俺はギルバード伯爵とも懇意にさせて貰っている。こうなったら、ギルバード伯爵にお前の事をチクらせて貰うとするよ。支部長は全く働かない給料泥棒だってな!」


「なっ!!」


 オスマンはぐうの音も出なくなった。

 冒険者組合は王国からも運営の補助を受けているからだ。

 なので支部長ともなれば貴族との付き合いも深い。

 

「ラッラベルッ!! お前、卑怯だぞ!」


「自分の地位を利用して働かないお前の方が卑怯だろ! トップのお前が動かないと終わらない仕事も多いんだぞ」


「ぐぬぬぬぬ」


 俺の背後ではアニータが恍惚とした表情を浮かべている。

 オスマンに振りまわされて、相当ストレスが溜まっていたのかもしれない。

 これで少しでもスッキリして貰えたら幸いだ。


「ちっ仕方ねーな。わかったよ。仕事をやればいいんだろ」


 オスマンは渋々といった感じで立ち上がる。


「あぁ、それと今日来た用件は別にあるんだ」


「あっ??」


「いや実はお前に頼みたい事があってな、ちょっといいか?」


「まだ何かあるのかよ? とにかく言ってみろ」


「実は最近レイドをやってな。その時に集めた素材を買い取って貰いたいんだ」


「ん? 素材ならカウンターに持って行けばいいだけだろ?」


「そうかも知れないが、それだと目立つんだよ。 出来れば誰にも目が付かない様にして欲しい」


「どういう事だ?」


「お前だから話すが、今出現しているB級ダンジョンで隣にいる【グリーンウィング】の人達とレイドをやったんだ」


「ほう」

 

 オスマンが俺の隣に立っていたフランカさんを見つめる。

 オスマンはこんな奴だが、外ではやり手で名が通っていた。

 値踏みされる様な鋭い視線にフランカさんは身体を硬直させている。 


「レイドで大量の魔水晶が集まってな。量が量だけに、金目当ての目的で冒険者にギルドホームが襲われても困るからな」


「魔水晶ね…… 確かにあれは高級素材だが、どの位の量なんだ? お前が言う位だ。そこそこの量なんだろ?」


「重さに換算して、約四百キログラムって所だ」


「はぁぁぁ!? 四百キログラムっ!?」


「アニータ! ここ一カ月間でどの位の魔水晶が持ち込まれたんだ?」


「少しお待ちください」


 アニータさんは手に持っていたファイルをペラペラとめくっていく。


「ここ一カ月の間、冒険者組合に持ち込まれた魔水晶の量は約五百キログラムと言った所です」


「たった一度のレイドでそれの八割…… そりゃ悪目立ちするわな。お前が危惧するのも無理はないか」


「実は人数さえ居れば幾らでも採掘出来たんだけどな。ちなみに持って帰れるだけ持って帰って、この量だ」


「それにしても勿体ない事をしたな。そのB級ダンジョンって、多分昨日攻略されているぞ」


 オスマンが俺が知らなかった情報を話してくれた。


「そうか、そろそろだとは思っていたが、ギリギリだったな」


 しかし俺は特に驚く事はなかった。

 それはそろそろ攻略されるだろうと予想はしていたからだ。

 

「わかった。買取の件は任せてくれ! アニータ、お前に任せるぞ」


「わかりました。口の堅い職員を集めて素材の回収に向かいます」


 オスマンの指示にアニータさんが頷いた。


「オスマン、助かるよ」


「ふん、この程度どうって事ねーよ」


 オスマンは得意気に鼻を鳴らす。

 その時、ドアを何度も強くノックする音が聞こえた。

 アニータがドアを開くと、若い男性職員が飛び込んで来た。


「今は接客中ですよ」


「すっすみません。ですがっ!」


 職員は俺達の方に視線を向ける。

 どうやら急いでいるが、俺達がいる前で話していいか分からない様子。


「大丈夫だ。急ぎの用件なら話せ」


 オスマンもその事を察し、職員に用件を促した。


「先ほど新しいA級ダンジョンと思わしき、ダンジョンが出現しました!!」


 その報告を受けて、オスマンがニヤリと笑う。


「アニータ、追加の仕事だ。緊急クエストを発令する。A級冒険者にダンジョンの調査を行わせろ。もしA級ダンジョンだと確定したら、速やかに王国に報告するぞ」


「直ちに動きます」


 アニータはそう言うと、若い職員を連れて部屋から出て行く。


「調査の結果、A級ダンジョンだと判断されれば王国から封印の依頼も入って来る。これは忙しくなるぞ」


 A級以上のダンジョンの封印は国民の命を守る為、王国が行う決まりだ。

 しかし実際には冒険者組合に依頼を発注して代理で封印を委託していた。

 冒険者組合は冒険者をかき集めて、繫殖期前に出入口を封印しなければいけない。

 このままこの場にいたら迷惑になる。

 バタバタと動き始めるオスマン達に別れを告げた後、俺とフランカさんもギルド会館から出て行く。

 一応これで目的は達しているので、後はアニータさんに任せるしかない。

 ギルド会館を出た所で俺達は一息ついた。


「まさかA級ダンジョンが出現した場面に立ち会えるなんて…… あんな感じなんですね」


「みたいですね」


「オラトリオは挑戦されるのですか?」


「はい、一応そのつもりではいます。準備が終わり次第ダンジョンに入るとは思いますが、攻略するかどうかは、もっと情報を集めてからでしょう」


「どうか、お気を付けて下さい」


 フランカさんは心配そうに俺を見つめてくる。


「ありがとうございます。素材の買取はアニータさんに任せたら大丈夫ですので」


「はい。素材の引き取りや現金化する際にはご連絡します」


「よろしくお願いします」


「あの、まだ時間があるのなら、この後ご飯でも食べに行きませんか?」


 フランカさんが食事を誘って来た。

 確かに食事をとってもいい時間ではある。

 しかし俺にはのんきに食事をする気はなかった。


「いえ、俺はA級ダンジョンに向けて動きたいので、ここで失礼します」


 既に俺の意識はA級ダンジョンに向いていた。

 まずはこの情報をホームに持ち帰り、一秒でも早く仲間に知らせたい。

 そして万全な準備を整えA級ダンジョンに挑むつもりだ。


「はぁ~、振られちゃいましたか…… でも今回は仕方ありませんね。負けた相手がダンジョンですから」


 フランカさんはため息を吐いていた。


「ダンジョン攻略が落ち着いた時に、またお誘いしますね」


 一瞬、気落ちしている様に思えたが、すぐに普段通りのフランカさんに戻っていた。


「今回は本当にすみません。時間が合えば食事に行きましょう!」


 俺はそのままフランカさんに頭を下げると、ギルドホームに向かって走り出す。

 フランカさんは手を振って俺を見送ってくれた。



 ◇  ◇  ◇


 

 俺がギルドホームのドアを開くと、リンドバーグとアリスの姿が見えた。

 ダンとリオンは買い物に行っている筈だ。


「ラベルさん、お帰りなさい!」


 真っ先にアリスが笑顔で近づいて来る。

 

(やはりホームはいいな。心が落ち着く)


 自分の帰りを待ってくれる場所がある事が嬉しく感じた。

 しかし今は余韻に浸る時間はない。

 俺は直ぐにでもA級ダンジョンの事を話したかった。


「ただいま、アリス。ビッグニュースだぞ!」


 興奮気味に俺はアリスに話しかけた。


「ビッグニュース?」


「あぁ、ついに現れたんだよ。A級ダンジョンが!」


 俺はアリスの両肩に手を乗せて、大きく振る。


「ラベルさん、興奮し過ぎだって!」


「あっ悪い。痛くなかったか?」


「大丈夫。だけど普段のラベルさんと違うから、ちょっとビックリしたかな」


「そうか、俺もちょっと興奮しすぎたな」


「マスターお帰りなさい」


「リンドバーグ、A級ダンジョンが出現したぞ。調査に入っているが周期的に考えてもA級だろう」


「なるほど、それは頑張らないといけませんね。私もA級ダンジョン攻略は目標だったので」


「あぁ、全員で力を合わせて挑戦するぞ」


「うん、私も頑張る!」


「勿論です!」


 俺達は三人で手を合わせた。


「それでは私からも、もう一つビッグニュースがあります」


 そう言いながら、リンドバーグは封筒に入った手紙を差し出してきた。


「ビッグニュース? お前が言うと何だか怖いな」


 封筒を受け取り目を通した俺は目を大きく見開いた。


「これは!? まさか……」


 俺が驚いた理由。


 それは封筒の差出人がアドバンス工房だったからだ。

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