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127話 帰還

 採掘作業は順調そのものだった。

 そして採掘した魔水晶は小さなリュックに詰められ、運搬班の俺達に渡される。

 ロープは二本設置しており、登り専用と下り専用に分けていた。

 最初俺が手本として、メンバーの目の前で登って見せる。

 ロープを手に持ち崖に足を掛けた後、手と足を使って崖を登って行く。

 落下対策もしているので、もしもの時も安心だ。 


「ゆっくりでいいからな。それと腰紐はちゃんとロープに結び付けておけよ。もし手を滑らせて落下したとしても、途中で引っかかる様にしているから」


「「はいっ!」」


 俺はそのまま崖を登り続け、崖上で待つアリスにリュックから魔水晶を取り出して手渡した。


「ラベルさん、お疲れ様」


「まだ始まったばかりだ。どんどん魔水晶が届くから頼むぞ」


「うん、任せて。ここで汚名返上しとかないと」


「なぁ~、ラベルさ~ん。俺も崖の下、見にいきてーよ」

 

 拗ねたダンが現れた。


「仕方ないなぁ~、だったら作業が終わった後に連れて行ってやるから」


「ほんとだな。絶対に後で連れて行ってくれよな」


「その代わり、任された仕事はちゃんとやるんだぞ」


「わかってるって」


 仲間との会話を済ませ、俺は降りる用のロープで崖下へと降りる。

 空のリュックを渡した後、中身が入っているリュックを背負った。

 俺が再びロープを手に取り登っていると、二往復目の中腹辺りで最後尾に追いついてしまう。

 

 荷物を背負った状態で四十メートルの崖をロープ一本で登るのは重労働だった。


「大丈夫か?」


「うぅぅ、キツイです。何も背負っていなければ大丈夫だと思うんですけど、荷物が重くて……」


 腰紐が引っかかる場所を十メートルに一か所作っていた。

 疲れた者はその場所で休む事ができる。


「休みながらでいいぞ。無理は禁物だからな、悪いが俺は先に行かせて貰う」


「すみません」


 俺は腰紐をロープから一時的に取り外し、フリーの状態で登って行く。

 そのままの状態で登っていると頂上に上がるまでに全員を追い抜いていた。


「えっまたラベルさん!? 他の人はどうしているの?」


「途中で追い抜いてしまってな。もうすぐ上がって来る。みんな苦労しているから、お前からも労いの言葉を掛けてやってくれ」


「ふふふ、わかった」


 アリスはご満悦だった。

 俺は魔水晶を置いて、再び崖下へと向かう。

 俺が軽々と崖を登っている理由はゲッコーのスキルを使っているからだ。


「卑怯だとは思うけど、作業効率を考えれば使わない選択肢はないからな」


 その後も作業を進め、俺達はメンバー全員がギリギリ運べる量の魔水晶を集めた。

 なので採掘作業はこれで終了だ。

 これ以上採掘しても運べないと無意味になってしまう。

 今日の作業でメンバー達も疲れているので、ここで休息を取り明日は朝から帰還する事が決まった。

 そして最後の晩餐。


 明日帰れる事を知ったメンバーは、今回のレイドの話で盛り上がっている。

 楽しく食事をする中で、運搬班のメンバーだけがぐったりとしていた。

 どうやらバテてしまって胃が固形物を受け付けないらしい。

 運搬班のメンバーで元気なのは俺だけだった。

 その事から何故かグリーンウィングの中では【化物】という異名を手に入れたようだ。

 またアリスは運搬班を励まし労いの言葉を掛け続け、ポーションなども差し入れていた。

 その結果、【癒しの女神】と呼ばれているらしい。


 見方を変えれば、労働者を上手く扱う上司の様にも思えるが、女神でも間違えていないので、スルーしておく。

 この辺りはシャルマンの時の経験が生かされたのかもしれない。


 翌朝、俺達は大きなリュックに魔水晶を詰め替えた。

 全員がその大きなリュックを背負って地上に向かって進行を始める。

 帰路は余計な場所には寄らずに、最短ルートを進む予定だ。


「なぁ~、全然、楽勝なんだけど。これってどういう事?」


「本当、魔鉄を背負った時は大変だったけど、魔水晶なら特に問題ないかな」


 ダンとリオンはリュックを背負っているにも関わらず、普段と余り変わらない軽快な動きを見せていいた。

 逆に捜索組のグリーンウィングのメンバーの方が、苦渋の表情を浮かべている。


「一度、魔鉄を背負って戦った経験が生きていますね」


「リンドバーグの言う通り、最初に一番重い素材を体験した事が良かったかもな。だけど俺もこんなすぐに役に立つとは、思ってもいなかったが」


 どんな経験でも必ず何かの役に立つ。

 仲間が成長していく姿を見れて俺も満足だった。


 ちなみに帰りは順調だ。

 荷物を背負っているとはいえ、人数が多い分戦闘の負担も減少する。

 なので雑談する余裕もあった程だ。

 途中で出会った冒険者達も大きなリュックを背負った俺達を見て、素材採取の帰りだと悟る。

 そして手を上げて挨拶をしてきた。

 知らない冒険者とは言え同じダンジョンに潜る者同士、こういう交流もある。


 その後、地上に戻った俺達は集めた魔水晶を全てグリーンウィングのギルドホームに運び込んだ。

 そして締めの挨拶を行いレイドを解散する。

 その後メンバー全員が帰った後、俺はフランカさんと今後の事を話していた。


「ラベルさん、お疲れ様です。今回はとても良いレイドでした。次もよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。ただ今回が上手くいきすぎて、次のレイドでメンバー達がガッカリしないかが心配です」


「ふふふ、これだけの素材が集まったのですから、そう思うのも仕方ないかもしれませんね」


「素材と言えば、分配の話をしておきましょう。俺的にはお互いの経費を差し引いた残りを人数で割ればいいと思うんですが」


「いえ…… その件ですが、魔水晶の草原を見つけたのも、降りる方法を作ってくれたのもラベルさんです。功績が違いすぎて、人数割りだと私達が貰い過ぎになってしまいます」


「しかしですね。こういう事は解りやすいルールを決めて公平に取り分けるべきです。今回はたまたま運が良かっただけで、次回はそちらが損をするかもしれません」


 事前の打ち合わせでは取り分は採掘した総量を綺麗に人数で割るというものだった。

 

「それは解っています。ですが…… これだけの魔水晶…… 今回だけ特例でお願いします。私は次回も同等の条件でレイドをしたいと思っています。だからっ!!」


 フランカさんは引いてくれなかった。


「ルール通りの金額だと、こちらが貰い過ぎていると言う事はメンバー達もわかってしまいます。その事でメンバー達も少しは意識してしまうでしょう」


 フランカさんの言っている事も理解は出来る。


「そんな感情を生んでしまったら、今回の様に暖かい雰囲気でレイドを行うのは難しくなります。せめて折半でどうでしょう。どうかお願いします」


 フランカさんは深く頭をさげる。

 俺は困った様子で頭を掻いた。

 それは最初に決めたルールを簡単に破るのは好きでは無いからだ。


「ふぅ…… 解りました。なら今回だけは折半と言う事で! 次回からは人数割りですからね!!」


「はい。ありがとうございます。これで気兼ねなく今後もレイドに誘えます」


 フランカさんは笑顔を浮かべる。

 その笑顔は見惚れるほど美しかった。


 一瞬だけ見惚れてしまったが、今は魔水晶の話を詰める必要がある。

 

「それでお聞きしたいのですが、魔水晶は何処に売るつもりですか?」


「どこで売るですか? 特に考えていませんでしたが、いつも通りで言えば贔屓の商店でしょうか?」


「その件で相談があります」


 俺は自分の考えをフランカさんに話してみる。


「わかりました。今回はラベルさんに全てお任せします」


 俺の話を聞いたフランカさんは特に反論する事も無く、俺の提案を受け入れてくれた。


「ありがとうございます。では明日は休養日なので、明後日一緒に行きましょう」


「はい」


 フランカさんは嬉しそうに返事を返した。

 俺とフランカさんで明後日、共に魔水晶を売りに行く事が決まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 分配で相手側に折れてしまう、ギルド長として交渉力疑うが、、、 買い手権利を手に入れどう評価を上げるのか楽しみ
[一言] 汚名挽回したらだめだろ
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