表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/143

124話 S級冒険者の失敗

 グリーンウィングとのレイドは、行き帰りの移動日を含めて一週間の予定だ。

 今日は三日目で折り返しとなる。

 当初は初めてのレイドという事もあり、何か問題が起こるかもしれないと多少の不安を覚えていた。

 しかし蓋を開けてみれば順調に魔水晶を集める事に成功している。

 俺達、第一パーティーの採掘量は想定の量よりもかなり多かった。

 第二パーティーも俺達よりは少ないが、満足出来る量を採取する事に成功している。


 以上の結果、出だしは順調だと言えた。


 初日の捜索を終えた後、臨時の野営地を作り俺達は休憩を取る。

 人数が多いだけに割り当てられる見張り役の負担も少なく、全員がいつも以上に休む事が出来ていた。


 レイドメンバー全員で食事を作り、自由に交流を兼ねながら食事をとる。

 俺は料理が載った皿を両手に持ち、アリス達の元に近づいた。

 リオンは友達のエリーナと一緒にご飯を食べるとの事で、第一パーティーに残っている。


「お疲れさん! 何か問題はなかったか?」


「いえ、特に問題はありませんでした」


「楽過ぎて、あくびが出るよ」


 リンドバーグが質問の回答を答え、隣に座っているダンが余裕の表情を浮かべる。


「ダン! 舐めて掛かっていると、足元をすくわれるぞ」


「だってよ! こっちにはアリスねーちゃんもリンドバーグさんもいるんだぜ。俺全然やる事無かったし……」


 口を尖らせダンが拗ねていた。

 どうやらアリスが暴れすぎて、ダンの仕事まで奪い取っていた様だ。


 確かにS級冒険者のアリスが居る時点で、第二パーティーの戦力は俺達よりも高いかもしれない。

 俺がそんな事を考えながら、アリスに視線を向けてみると何故かいつもと雰囲気が違っていた。


「アリス、何か問題でもあったのか?」


「別に…… 何も無かったよ」


 素っ気ない返事が返って来る。

 どう考えてもいつものアリスとは違う。


「それならいいけど、体調が悪いのを黙っていたりしないか?」


「もぅ、ラベルさんしつこいよ! 何もないって言っているでしょ!!」


 アリスが珍しく、声を荒げていた。

 普段は見せないその姿に、俺以外のメンバーも驚いた表情を浮かべる。

 だが一番驚いていたのは、大声を上げたアリス自身だった。


「ごっごめんなさい! 今日はちょっと疲れているみたい。少し早いけど私見張りの時間まで休ませて貰うね」


「あっああ…… ゆっくり休めよ」


 冒険者は命を賭けてダンジョンに挑む。

 その限界ギリギリの状態下で、様々なストレスを感じている。

 結果、溜まったストレスがダンジョンアタック中に爆発する冒険者がいたりもする。

 そんな時は当事者を刺激しない事が一番良い。


 問題を解決するには、自分でストレスをコントロールする方法を手に入れるしかないのだ。

 アリスが離れた後、俺は頼りのリンドバーグに視線を向けた。


「アリスの奴、どうしたんだ?」


「今日は朝からあんな感じですね。理由は解らなくはないのですが、この場で話したら余計ややこしくなるんで、後でお話しますよ」


「ややこしくなるって…… 一体なんの事だよ」


「大丈夫です。多少荒れてはいますが、アリスさんは強いです。このダンジョンに現れる魔物に足元をすくわれる事はありませんから」


「そりゃ、そうだけどよ。その理由を俺にも話せないってよぉ……」


 俺に忠実だったリンドバーグが俺に話せないと言っている。

 その事が余りにも衝撃過ぎて、俺はダンの様に拗ねてしまった。


 その日、アリスとは一言も話す事はなかった。



 ◇  ◇  ◇



 翌朝、捜索ポイントを変更して捜索を始める事にする。

 昨日の場所はすみずみまで魔水晶を採取しているので、これ以上は捜索しても時間の無駄だからだ。


 しかし次に移動したポイントは空振りとなる。

 

「申し訳ありません」


「何を言っているのですか!? 昨日あれだけ採取できたのはフランカさんのおかげです。切り替えて、次のポイントに移動しましょう」


 捜索ポイントが空振りだった事を気にして、フランカさんは俺に頭を下げる。

 俺はフランカさんを元気づけながら、次のポイントを目指した。


「うぅぅ、ここにも無いなんて……」


 フランカさん達は必死に魔水晶を探したが、移動したポイントでも魔水晶は見つからなかった。

 俺が視線を向けると、フランカさんが泣きそうになっている。


「大丈夫です! 気を取り直して次です! 時間はまだありますから!!」


 肩を震わせ泣きそうになっているフランカさんを慰める為に、俺は彼女の背中に軽く手を置いた。


「こうなったら、もう最後の手段です。今回行くつもりは在りませんでしたが、あのポイントに向かいます!!」


「あのポイント? 行くつもりがなかった?」


「えぇ、実は魔水晶が発生しやすい場所は他にもあるんです。ですがその場所は少し特別な場所なので、候補から外していました。次はそこに向かわせて下さい」


「特別な場所? それは何処ですか?」


 俺が地図を広げてフランカさんに移動するポイントを教えて貰う。

 その場所は確かに気を引き締めないと、けが人が出る危険な場所だった。

 しかし俺の目から見ても、今のメンバーなら十分対応できると判断する。


「解りました。行きましょう」


「はい! ありがとうございます」


 俺が了承を出した事で、次はその場所に向かう。


 到着した後は全員を集めて、俺が注意点を話して聞かせる。


「みんな聞いてくれ、次はこの奥で捜索を行う」


「はい」


「見ての通り、この場所は地面に大きな亀裂が無数に入った危険な場所だ。足を踏み外せば崖下まで落とされる」


 目の前にはフロアの様に広々とした場所で、地面に大きな亀裂が無数に入っている。

 亀裂で作られた巨大迷路と言えば解りやすい。

 

 俺が近くの亀裂に石を放り込むと、カンカンと何度も崖に当りながら落ちていく。

 数秒後、石が破裂する音が響く。

 底にたどり着く時間から計算しても相当な深さの崖である。


 メンバー達も危険性を理解し、真剣な表情へと変わった。


「対処法としては、常に自分の足元に意識を向けて行動する事だ。しかし当然魔物も襲ってくる上に、崖ギリギリは崩れやすいから気をつけてくれ」


「はい」


「そういう理由で、この場所の戦闘は遠距離攻撃が重要となるだろう。各班の遠距離攻撃が出来る者が主体となり、戦いを進めてくれ」


「はいっ!」


「やったぜ。やっと戦えるぞ」


 無数の「はいっ」という返事の中に、ダンの嬉しそうな声が混じっていたのを俺は見逃さなかった。


(ダンの奴も戦えなくてストレスが溜まっていたという訳か)


 それなら一石二鳥である。

 俺達は捜索を始めた。


 この場所は光水晶の光だけでは足元が見え辛いので、先頭の冒険者が魔道具のランプを手に持って進んでいる。


 先頭の者が足元の情報を仲間に周知しながら進むという感じだ。


「エリーナちゃん、あそこから魔物が現れるよ」


「そうなの? えっ嘘。どうして解るの!? リオンちゃんすごーい」


 エリーナはリオンが指示する場所に矢を放ち、軽々と魔物を殲滅していた。


「あの子の索敵能力、本当に高いですね。現れたとほぼ同時に教えているじゃないですか!?」


 フランカさんがリオンを見て驚愕していた。


「俺が色々と教えているから慣れているんですよ。なのでフランカさんも安心して捜索してください」


「その様ですね。私は捜索に集中しましょう」


 リオンの先読みのスキルの事は上手く伏せておく。

 俺達はその後も順調に捜索を進めた。

 しばらくして、別ルートを進んでいるアリス達が心配になり視線を向ける。


 俺達とアリス達の距離は近いのだが、亀裂の迷宮によって阻まれていた。

 亀裂の幅は三メートルと言った所で、ジャンプで飛び越えるには難しい。

 逆に歩ける通路幅は二メートル程度、装備を身につけた冒険者にとっては狭いと感じる幅である。

 これほど俺達に不利な場所はない。


「リンドバーグ、そっちは大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。先ほど魔水晶も見つけました。この辺りには魔水晶があるみたいです」


「そうか、無理はするなよ」


「お任せ下さい」


 俺はリンドバーグからダンに視線を変える。


「ダンくん、ラットが現れたよ!」


 エリーナの双子の兄であるハンネルが魔物を見つけ、仲間に知らせる。

 攻撃担当は魔法使いであるハンネルと、アーチャーのダンが主導で行っていた。

 

「任せろ! 確か弱点は眉間だったよな。クイックショット! 」


「僕だって! ファイアーボール!!」


 ラットとはネズミを大きくした魔物で、的が小さく動きが速い。

 こういった狭い場所で連携をとって襲ってくる。

 ハンネルは素早く動き回るラットに攻撃を当てる事が出来なかったが、逆にダンの矢はラットを外す事は無い。

 スキルで放った三本の矢は全てヒットし、一撃で三匹のラットを仕留めた。


「ダンくん、凄い!」


「へへへっ! 任せろって、言っただろ?」


 今のダンは水を得た魚の様に、生き生きとしていた。


(ダンは大丈夫だな)


 そして最後にアリスに視線を向ける。

 アリスは直ぐに俺の視線に気づいたようだ。


「大丈夫か?」


「大丈夫」


「そっちに何かあった時はお前が頼りなんだ。頼むぞ」


「ラベルさん昨日は……」


 どうやらアリスは昨日の事を気にしている様で、言葉から察するに謝りたいのだろう。


「俺は気にしていないぞ」


「本当?」


 アリスの表情が明るくなった気がした。


「ラベルさん、見つけました。魔水晶です! こちらに来て頂けますか?」


 その時、背後からフランカの魔水晶を見つけたという声が聞こえる。

 魔水晶の採取には護衛が付いていないと危険だ。

 俺は身を翻しながらアリスに声をかける。


「悪い、呼ばれたみたいだ。そっちは頼むぞ」


「あっ!?」


 アリスは俺に手を伸ばしたが、途中でその手を引きとめた。


「うん、解った。こっちは任せて」


 一旦言葉を飲み込み、アリスが俺にそう告げる。

 俺は頷くと、採取中のフランカ達の護衛を始めた。

 

 それからしばらくした時、ダンの叫び声が聞こえた。


「アリスねーちゃん。邪魔だって! 射線上に入らないでくれよ!!」


「何言ってるの? 今回の場合は私が倒した方が速いって!!」


 アリスのそんな声も聞こえる。


(喧嘩か!? あいつ等、何をやっているんだよ?)


 俺は二人に視線を向ける。

 ダンが弓を構えているにも関わらず、アリスが二匹のラットに向かって突っ込んでいた。

 

「せあっ!」

 

 アリスはラットの間をすり抜けながら、同時に二匹の首をはねていく。

 現れた二匹のラットは一瞬で殲滅されていた。


 アリスは崖ギリギリで立ち止まると、優雅に剣を鞘に納める。

 そして翻して戻ろうとした瞬間、足元付近の地面が崩れた。


「えっ!?」


 アリスはバランスを崩し、そのまま崖の中に吸い込まれる。


「だから言っただろ! 馬鹿野郎がぁぁぁー」


 アリスが崖に落ちるのと同時、俺はアリスを助ける為に腰からナイフを抜き取り魔石を飲み込むと、アリスが落ちた崖に向けて飛び込んだ。


「ラベルさんっ!?」


 背後からはフランカの叫び声が聞こえていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 特殊スキルバレるか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ