123話 レイド開始
目的の五階層に到着した後、一晩過ごした俺達は翌朝から活動を始めた。
グリーンウィングと事前に行った打ち合わせの中で、捜索の方法についても話し合っている。
この五階層で採取出来る魔水晶は人気の素材である為、既に多くの捜索組が活動をしている事はわかっている。
なので最初にやる事は、メンバー全員で手分けをして、この広大な階層の何処で捜索活動が行われているのかをチェックする必要があった。
そして調べた情報を、フロア全体が記載された地図に書き込んでいく。
地図は信用の出来る情報屋から購入した物を購入している。
人海戦術でまだ手つかずの場所を割り出した後は、候補の中から魔水晶が採取出来そうな場所に当たりを付けて捜索を行う。
それでもし魔水晶が見つからなかった場合は、また捜索ポイントを変更するという寸法だ。
フロア全体の調査は十五名が手分けしたおかげで、二時間程度で完了する事が出来た。
メンバーが書き記した地図を俺が一つにまとめて書き直し、出来上がった地図をフランカさんに手渡す。
「まぁ凄い…… とても見やすい地図ですね」
「ありがとうございます。地図は書き慣れていますから、要領を掴めれば誰でも作れますよ」
「それなら、今度私にも地図の作り方を教えて頂けませんか?」
「地図の書き方をですか? もちろんいいですよ。ではレイドが終わった後に、希望者を集めて地図の書き方の講習会を開くのはどうでしょうか?」
「はい! 是非お願いします」
フランカさんが嬉しそうに笑う。
こうした交流の積み重ねが、ギルド間の絆となっていくのだ。
そして今更なのだが、フランカさんはとても美しい人だった。
数多くのエルフとダンジョンに潜ってきた俺でも、つい見惚れてしまう程の美女である。
今の会話は単なる打ち合わせであって、他意がない事は解っている。
しかしフランカさんと会話する程、俺にすり寄って来るので困ってしまう。
俺の無粋な気持ちと裏腹に、フランカさんは機嫌が良さそうにしていた。
密着してくるフランカさんにドギマギして少々混乱していたが、雑念を振り払い捜索ポイントを話し合いに話を戻した。
その後、フランカさんが捜索ポイントを決定し、俺達はそのポイントへと向かう。
「みんな聞いてくれ、今から各班に分かれて捜索活動を始める。注意点としては、二つに分けたパーティーが余り離れない事だ。今回はレイドで互いに助け合える人数がいる。それを分散するのは得策じゃない。仲間同士が助け合えるという利点を最大限に活用するんだ」
「「はい」」
捜索ポイントに移動した後、最初にミーティングを行う。
「各自、役割分担をしっかりと決めて行動して欲しい」
「はい」
俺とフランカさんが並び、その正面にはメンバー達が綺麗に整列していた。
最初に俺が手短にレイドの内容を説明した後、フランカさんが話し始める。
「今回のレイドはギルド間の交流も兼ねています。目的である魔水晶を集めるのも大事ですが、今回はあえてオラトリオとの混合パーティーにしています。なのでパーティー内でも交流を深め、両ギルドの関係をより良いものにしましょう」
「「はいぃぃぃっ!!」」
俺の時より、返事に元気がある。
やはり俺と違って、フランカさんは人徳があるようだ。
ただ男性冒険者が異様に盛り上がっているのが少々気になっていた。
彼等の視線の先には、どうやらアリスとリオンが映っているようだ。
俺は彼等の盛り上がっている理由を理解する。
アリスとリオンもフランカさんにも引けを取らない美女である。
なので勘違いしている者も多いが、二人ともこの国でもトップレベルの実力者だ。
(迂闊に手を出して痛い目に合わなければいいが……)
俺も二人が誰かと恋に落ちる事に口を挟むつもりはない。
しかし、俺がそう考えた瞬間、胸の奥で少しだけ不快な感情が込み上げる。
(まさか俺が仲間の事で、こんな感情を抱くとはな!? オラトリオの仲間が俺の中で大きな存在となっているという事か……)
自分の感情の変化に驚きつつも、悪い気はしなかった。
その時、アリスが俺に視線を向けて笑いかけているのに気付く。
(俺の異変に気付いたのか?)
俺は顔を手で隠しながら冷や汗をかく。
余計な考えはすぐに捨て、俺はレイドに意識を戻した。
両ギルドマスターの挨拶も終わり、いよいよ俺達はレイドを始める。
◇ ◇ ◇
魔水晶は普通の水晶よりも多くの魔力を含んだ水晶で、青色に発光しているのが特徴だ。
しかしダンジョン内には、ダンジョン内を照らしている光水晶や他の鉱石が無数に点在している。
そんな状況下で数の少ない魔水晶を見つけるのは、難しい作業でもあった。
「リオン、素材を探す者が集中出来る様に守ってやるんだ。エリーナは友達なんだろ?」
「うん、エリーナちゃんの事は私が守るから 」
「では私はラベルさんに守って貰わないと」
俺とリオンの話を聞いていたフランカさんが、お茶目に舌を出す。
第一パーティーの素材を探す者はグリーンウィングのエリーナとフランカさんだった。
「安心してください。当然フランカさんにも傷一つ負わせませんから」
「うふふ、ありがとうございます。お姫様の気分ですね」
「冗談はその位にして、捜索を始めましょうか」
「そうですね」
雑談を終えた俺達は、本格的にレイドを始める。
サーチャーであるエリーナとフランカさんが隊列の先頭で捜索しながらダンジョンを進行していく。
そしてその両脇を俺とリオンが付き添っていた。
エリーナとフランカさんは、壁際や光水晶の裏側を調べていた。
しばらく進んだ時、フランカさんが声を上げる。
「見つけました! 魔水晶です」
すぐに採掘要員のメンバーがピッケルを手に持ち、フランカさんの元に駆け寄って行く。
フランカさんは場所だけ指示を出した後、再び魔水晶の捜索を再開させた。
「流石は捜索組のマスターだな。素材を見つけるのが上手い」
フランカはレア素材の魔水晶を、豊富な経験を生かして軽々と見つけていた。
「これでハッキリしたな。俺達の推測通り、この辺りはまだ手つかずだ!」
フランカはエリーナを呼び寄せると、魔水晶の見つけ方をレクチャーしている。
エリーナもフランカの教え通りの場所を重点的に捜索し、魔水晶を見つけ出す事に成功した。
リオンと手を合わせて喜び合う姿はとても可愛らしい。
「第一パーティーは順調だな。さて向こうはどんな感じだろうか?」
俺は少し離れた場所を捜索している第二チームに視線を向けた。
第一パーティーと第二パーティーは、目視ができる距離の範囲内で離れている。
第二チームのサーチャーはグリーンウィングのメンバーが担当しており、俺達と同じ様に護衛の担当に攻略組のアリスとリンドバーグが担当していた。
俺が視線を向けた時、ちょうどアリスが現れた魔物を一撃で倒した所だった。
「ん?」
俺はアリスの様子を見て違和感を覚える。
「あいつ…… 何か苛立っていないか?」
アリスはストレスを発散させているかのように暴れまわっていた。
(もしかしてグリーンウィングのメンバー達と、何かトラブルでもあったのか?)
俺はそんな事を考えていたのだが、レイドはまだ始まったばかりである。
アリス自身で解決するかもしれないと考え、今はまだ見守る事に決めた。




