122話 レイド
総勢十五名の冒険者がB級ダンジョンの入口前に集まっている。
ギルドマスターである俺とフランカさんが並んで立つ前には、オラトリオとグリーンウィングのギルドメンバー達が並んでいた。
並んでいると言っても、規律ある部隊の様では無く、ギルドに関係なく知人同士が並んでいたりもしている。
全員が集まっている事を確認した俺は話を始めた。
「今回はオラトリオとグリーンウィングで行う初めてのレイドだ。まず最初にみんなに問いたい、レイドとは何だと思う?」
俺の問いに集まっている仲間達が互いに見合い、相談したりしている。
少しの時間が経過した後、リンドバーグが手を上げた
「レイドとは複数のギルドやパーティーが協力して、一つの目的の為に行動する共同作業の事です」
流石はリンドバーグである。
教科書通りの回答が返って来た。
「その通り、レイドとは大人数で行う共同作業だ。そしてレイドをやる以上、今回この場にいる全員が仲間となる。ダンジョン内で共に食べ、共に眠り、共に戦う仲間だ」
俺がメンバー達に視線を向けると、全員が真剣に話を聞いてくれている。
全員の士気も高く、これなら大丈夫だろうと感じた。
「そしてレイドでは普段関わり合いの少ない冒険者と共に行動をする為、何も考えず普段と同じ様に行動していると、連携が上手くいかず仲間に迷惑を掛ける事になる」
考えながら動くと言う事は、俺がギルドメンバー達にいつも教えている事だ。
今回はグリーンウィングのメンバーが居たので、あえて言葉に出しただけである。
「今回は攻略組と捜索組の双方の経験になるという考えから、混合チームを組んでレイドを行う事が決まった。各チームで最初にきちんと話し合いを行い、連携や役割を決めてから捜索活動に挑んで欲しい」
「「はい!」」
「それじゃ、レイドの詳細について話すぞ。今回の目的階層は五階層。採取アイテムは【魔水晶】だ。既にパーティーは二つに分けている」
パーティー表は既に全員に配っている。
「この後は各パーティー内で役割分担や連携、捜索方法などを話し合って貰う」
今回集める魔水晶は高値で売れる為、このB級ダンジョンで注目度の高い素材である。
複数の条件下でしか結晶化しない為、数が少なく見つけるのが困難なアイテムだ。
ちなみに魔水晶は魔具や装備に使われたりしている。
既に多くの捜索組のギルドが魔水晶を求めて五階層で捜索を行っていた。
俺達が集める素材を魔水晶に決めた理由は至ってシンプルだ。
一言で言えば「人数が多い」からである。
捜索作業は大人数で行えば行う程に効率が良くなる。
人の数が作業効率を上げ、一度に運べる量が増える事に直結していた。
そして人数が多ければ、他のギルドに襲われる危険も少なくなる。
捜索作業において、一番効果的な方法は人数を増やす事で間違いない。
なので人数が少ない捜索組のギルドは、同じ程度のギルドに声を掛け、レイドを組んで素材を集めたりしている。
しかしグリーンウィングが瓦解寸前にまで追い込まれた事件の様に、ギルド間の問題も数多く耳にしていた。
レイドを組む際には、相手を見極める力が必要なのだ。
俺の話が終わった後、次に隣に立つフランカさんが一歩前に出る。
「今、ラベルさんが仰った通りです。今回パーティーは二つに分けています。今から各パーティーに分かれて各パーティーの役割分担や連携について話し合って下さい」
フランカさんがミーティングの開始を告げた。
俺は第一パーティーである。
ギルドマスターと言う事もあり、俺の元に第一パーティーのメンバーが集まって来た。
リオンと親友の弓使いエリーナ、そしてグリーンウィングのギルドマスターでもある魔法使いのフランカさん。
それ以外にもグリーンウィングのメンバーが数名集まってきており、総勢七名のパーティーだ。
一方、アリスの第二パーティーはリンドバーグとダンを含む、総勢八名のパーティーである。
行動が開始された後は、第五階層までは十五人で一気に向かう事になる。
普通に攻略しながら五階層に移動するなら、二、三日は必要だ。
しかし数の力で突っ切る場合は、一日でたどり着く事ができる。
基本的に魔物とは戦わず出来る限り無視をし、仕方なく倒したとしても魔石も回収しないのが条件だ。
俺達は二つに分けたメンバー達で集まり、リーダーや各役割を決めて行く。
「俺で良いんですか? 今回は捜索が目的のレイドなので、フランカさんがリーダーになった方がいいと思うのですが?」
「いえ、ラベルさんから上に立つ者の立ち振る舞いなど、色々と学びたいと考えています。なので今回は傍で勉強させて下さい」
「立ち振る舞いって……」
立ち振る舞いを教えられるほど、俺は礼儀正しい人物ではないのだが
まぁ、他のメンバー達からも特に異論が出ている訳ではないので、今回はリーダーを受ける事にする。
「それでは各自の役割を決めよう。まずは素材を探す者から」
「サーチャーは私がやります」
立候補をしたのはエリーナだった。
「それじゃ、サーチャーはエリーナに任せる」
サーチャーの仕事はダンジョン内で目的の素材を探す者の事だ。
前衛にいる事が多く、それなりに危険を伴う役割である。
「今回はレイドで人数が多いから、人員にゆとりもある。サーチャーの護衛者をリオンがやってくれ」
「はい」
「リオンちゃん、一緒に頑張ろうね」
「うん、エリーナちゃんの事は私が守るから」
「それじゃ、サーチャーをもう一組作るぞ。残りのメンバーはサーチャー達のバックアップだ」
捜索組で何が一番大切かと言うと、素材を見つける事だ。
素材が見つからなければ、集める事も出来ない。
その理由から俺は素材を探す人員を増やす事にした訳だ。
もう一組のサーチャーを決めている間、俺は一度パーティーの話し合いから抜け出し、もう一つのパーティーの元に訪れた。
「話はまとまったか?」
「ラベルさん、大丈夫だよ。今は自己紹介を兼ねて、色々と話し合っている所」
俺の姿を見て、アリスが近づいてきた。
「打ち合わせ中悪いな。そっちのリーダーは誰になったんだ?」
「推薦で決めたんだけど、何故か私になっちゃって…… ダンはリンドバーグがいいって言ってたんだけどね」
どうやら推薦の結果アリスが選ばれたみたいだが、話を聞いた感じで言えばアリスが綺麗だから選ばれた様にも聞こえる。
「指揮を執るのはシャルマンで慣れているだろ? 別に良いじゃないか? 」
「前はキャラを作って、敢えて厳しくしていたから、素の自分だと今回が初めてなの。上手く出来ればいいけど。シャルマンのキャラが出ちゃうかも……」
「お前なら大丈夫だよ。それにパーティーを分けたと言っても、それ程離れる訳じゃないからな。困った事があれば相談してくれ」
「うん。わかった」
「それでアリス、そっちのパーティーでも二組のサーチャーを作って欲しいんだが」
「わかったわ。サーチャーを二つ作ればいいのね。それで残った人達はバックアップでいいのかな?」
「その通りだ。話が早くて助かるよ」
これで二つのパーティーでサーチャーを四組作る事が出来た。
広範囲を一気に捜索出来るので、魔水晶を見つけだす速度が上がる筈だ。
一通りの打ち合わせが終わった後、俺達はレイドを始めた。
五階層にたどり着く迄は、全力で走り抜ける予定だ。
攻略組の俺達が前衛を務めながら疾走する。
その後、十時間後俺達は五階層にたどり着く事ができた。
煙玉を使って陣地を作り上げた後、グリーンウィングのメンバー達は一斉に地面に伏せて行く。
「もぅ、駄目だ~ 何度も途中で倒れそうになった」
「前回の時も一日で五階層まで走ったけど、本当に死にそうになったもんな」
「それにしても、攻略組の体力って本当に化け物……」
ポーションを飲みながら、グリーンウィングのメンバー達が元気な俺達をみて驚いていた。
「ねぇ、俺達って化け物なの?」
意味が分からないって言う感じでダンがリオンに話しかけた。
「ダンジョン攻略中でも止まる事なんて休憩以外では殆どないから、いつもとあまり変わらないよね?」
「それに、ただ走るだけなら何も考えないで良い分楽だぜ」
二人のそんな言葉を聞いて、グリーンウィングのメンバー全員がドン引きしていた。
今日はこの陣地で一晩過ごし、明日から本格的なレイドを再開させる予定だ。




