118話 活動再開
ギルバード伯爵領で起こった反乱事件が終わり、街に帰った俺達は任務の疲れを癒す為、三日間の休暇を取る事を決める。
何十年も碌に休暇を取っていなかった俺は、休暇と言ってもやる事が無く初日から暇を持て余してしまう。
初日は装備の手入れとアイテムの在庫をチェックし、二日目に市場で不足アイテム品を購入。
そして最終日を迎えたのだが、やる事が無くなってしまった俺はギルドホームで屍と化していた。
そんな時、ギルドホームのドアが開きリンドバーグがホームに入ってくる。
「やはり、いらっしゃいましたか」
「リンドバーグ、どうしたんだ? 今日は休暇だからホームに出てくる必要はないんだぞ」
「それは解っているのですが、実はやる事がなくて…… 気晴らしに散歩をしていたら自然とホームに」
リンドバーグは恥ずかしそうに吐露をする。
「あはは、それじゃ俺と同じって訳だな。俺達も趣味でも見つけた方がいいかもしれないな」
「そうですね。折角ホームに来たんで、今日は装備の手入れでもやろうと思います。そっちの方が時間がたつのも早いので」
「装備の手入れかぁ~ 俺は既に終わらせているんだよな。後、不足しているアイテムも購入したし…… あっそうだダンジョンの情報でも集めるってのはどうだ!? 今の内に集めておいた方がスムーズに動けるだろ?」
「マスター、それはいい考えですね」
「それじゃ、ちょっと行ってくる」
俺はギルドホームを飛び出しギルド会館に向かった。
ギルド会館に入ると、室内には多くの冒険者が集まっている。
俺は周囲を見渡して、話しやすそうな冒険者を見つけると、気さくにダンジョンの話を振っていく。すると彼等は自分達が持っている情報を教えてくれた。
彼等の話によれば、新しいB級ダンジョンが出現しているらしい。
思い返せば、前回B級ダンジョンを攻略してから既に二カ月が経過していた。
サイクル的には新しいダンジョンが出現していてもおかしくはない。
更に詳しい情報によればB級ダンジョンは出現してから、まだ数日しか経過していないとの事なので、今から攻略に参加してもメリットはあるだろう。
はやる気持ちを押さえながら、俺は足早にギルドホームへ帰って行く。
「リンドバーグ、新しいB級ダンジョンが出現したらしいぞ」
「ラベルさんはしゃぎ過ぎ、子供みたい」
リンドバーグがホームにいる事は知っていたが、俺がホームに帰った時には何故か全員が揃っていた。
話を聞けば、どうやらみんなも時間を持て余していたらしい。
全力疾走でギルドホームに飛び込んだ俺を見て、アリスがクスクスと笑い出していた。
「マスター、必要な備品もある事ですし、明日からでもダンジョンアタックは可能ですね」
「ダンジョンに潜るの久しぶりな気がする! 俺、うまくやれっかな?」
「ダンの場合は身体が覚えているから、きっと大丈夫よ」
リオンとダンは相変わらずのコンビである。
不安を口にしている者もいるが、顔は笑っている。
どうやら全員でダンジョンに挑む事が楽しみといった所か?
「みんな聞いてくれ! 明日からダンジョンに潜るつもりだが、今回は攻略するのでは無く、捜索をメインにやっていこうと思っている」
「捜索……? 何か特殊な素材が手に入る情報でも入ったのですか?」
リンドバーグが俺の真意を探る為に質問を投げかけて来た。
「いや、そんな情報は入っていないが、俺達ってずっと攻略ばかりだったろ? だから今回はリオンとダンに捜索のやり方とかも教えておいた方がいいと思ったんだ」
「なるほど、それはいい考えですね。攻略と捜索は全然違うので、二人には良い経験になると思います」
リンドバーグの横にいたアリスがスッと手を上げた。
「実は私も捜索ってやった事ないかも」
アリスはS級冒険者なのだが、捜索はやって来なかった様だ。
S級冒険者になる為にはS級ダンジョンを攻略しなければいけない。
今の若さでS級冒険者になっている事から推測しても、今日までずっと最短ルートを突っ走って来たという事位は容易に想像できる。
アリスにとっても勉強となるならば、今回のアタックはギルドにとって有用なものになるだろう。
ついでに各々のレベルアップと連携の強化を兼ねれば、一石二鳥だ。
ギルドの目的が決まった所で今日は解散し、後はダンジョンアタックの準備をする時間とした。
◇ ◇ ◇
翌朝、俺達は出現しているB級ダンジョンの入口の前に来ている。
今回のB級ダンジョンも大人気で、俺達がダンジョンの入口に到着した時には、既に多くの冒険者達が集まっており、それぞれの準備やダンジョン内部の情報の交換などを行っていた。
「うっひやぁ~ 今回は人が多いな~」
ダンが周囲をキョロキョロと見渡しながら、素直な感想を口にする。
「潜っている冒険者の数が一番多いのはC級ダンジョンなんだろうけど、C級ダンジョンは同時に複数現れていることが多いからな。冒険者が分散されるんだよ」
俺はダンジョンの常識をダンに教えた。
「へぇー、そう言えば俺達も冒険者が少ない方のダンジョンを狙って潜っていた様な気が……」
「潜っていた様な気が…… じゃなくて、潜っていたのよ。どうして覚えていないの?」
「いやぁー、ラベルさんの言う通りやっていれば間違いないって、ガリバー師匠が教えてくれたから。俺、最初は何も考えなかったんだよなぁ」
「ほんと、馬鹿!」
リオンはダンの発言を聞いて、頭が痛くなったのか?
手で頭を押さえていた。
その様子が可笑しくて、俺とリンドバーグとアリスは同時に噴き出して笑う。
「ラベルさん、お久しぶりです。最近お見掛けしませんでしたが、お元気でしたか?」
その時、背後から声を掛けられた。
振り返ってみると、絶世の美女が微笑みながら立っている。
美女の後ろにも顔見知りがずらりと並んでいた。
「【グリーンウィング】の皆さん、お久しぶりです」
俺は頭を下げてグリーンウィングのメンバーに挨拶を返した。
グリーンウィングは、B級ダンジョンで活動している捜索組のギルドだ。
数ヶ月前、グリーンウィングとデザートスコーピオンの抗争を切っ掛けに知り合っている。
抗争が終了した後も友好ギルドとして、交流を続けていた。
「エリーナちゃん!」
「リオンちゃん!!」
リオンとエリーナはその時に友達となっているので、お互いに駆け寄り手を取り笑い合っていた。
「ダンくん。ちょっと」
ダンに声を掛けたのは、エリーナの双子の兄であるハンネルだ。
「ん? なんだ」
ハンネルはダンを引っ張り、俺達から少し離れた場所に連れて行く。
視線を向けてみると、どうやらアリスが気になっている感じだ。
そう言えばグリーンウィングの人達は、アリスが【オラトリオ】に入った事を知らない。
丁度いい機会だと考え、俺はグリーンウィングのメンバーにアリスを紹介する事にした。
「フランカさん、ご紹介します。【オラトリオ】の新しいメンバー、アリス・ルノワールです。以前、ホームで打ち合わせしていた時に会っているので、覚えているとは思いますが」
「もちろん覚えています」
「アリス、こちらは【グリーンウィング】の皆様と、ギルドマスターのフランカ・ヴェーダさんだ」
「うん、覚えてる。私も忘れた事はないから。アリス・ルノワールです」
「フランカ・ヴェーダです。私もアリスさんの事は覚えていますわ。ラベルさんのギルドに入っているのは驚きましたけど……」
二人はお互いに笑みを浮かべているが、何か鬼気迫る雰囲気を放っていた。
「フランカさん、実は今回は捜索組として潜るつもりなんですよ。グリーンウィングの皆さんには捜索組の先輩として、色々と教えて貰えると助かります」
「そうなんですか!? それならお力になれる事もあるかと思います。あっそうだ!! もし良ければ私達と一緒に潜りませんか? 数が多い方が素材も多く集まりますし」
俺が話のネタを振ってみると、ありがたい事に予想以上の喰いつきを見せてくれた。
フランカさんは、【オラトリオ】と【グリーンウィング】のレイドを提案してきた。
レイドとは何組かのギルドやパーティーが手を取り合い、共同で行動を起こす事の略称である。
確かに捜索組のグリーンウィングと一緒にダンジョンに潜った方が効率は良いだろう。
「いえ、申し出はありがたいですが、今の私達ではハッキリ言って足手まといになります。メンバーには俺が捜索の基本を教えるつもりですので、それが終わった後に一緒に潜るのはどうでしょうか?」
「【オラトリオ】の皆様の実力なら問題ないとは思いますが…… ラベルさんがそうおっしゃるのなら…… わかりました。それでは十日後に一緒に潜るのはどうでしょうか?」
「十日後ですね。それなら何とかなるかもしれません」
「よかった! それじゃ十日後、楽しみに待っています」
フランカさんは少し残念そうな表情を浮かべていが、俺が十日後のレイドを了承した瞬間、笑顔へと変わった。
「わかりました。準備ができましたらグリーンウィングのギルドホームに連絡を入れますので」
「楽しみに待っていますね」
フランカさんは頭を下げた後、メンバー達とダンジョンの中へと入って行った。
「私、絶対に負けないんだから! ラベルさん、私達も速くダンジョンに行こうよ!!」
アリスがやけにやる気をみせている。
俺はアリスに背中を押されされながらダンジョンの中に入って行く。
リンドバーグはそんな俺を見つめて苦笑していた。




