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113話 脱出その2

 背中に背負った矢筒から四本の矢を抜き取ると、ダンは構えを取る。

 器用に一本づつを指の間に挟んで弓を引き、スキルを使用するとダンの手元は大きくブレれていた。

 それは物凄い速度で動く手が見せる残像、スキルという特別な能力によって引き起こされる超常現象である。


 行く手を阻む敵の数は四人、後方の一番強い相手はリンドバーグが相手をしている。

 

 ダンはギルドに途中加入したリンドバーグの実力を全く疑っていない。

 リンドバーグが【オラトリオ】に加入して、今日まで何度もダンジョンに潜り続けてきた。

 なのでリンドバーグが強い事は十分理解している。


 ラベルがパーティーメンバーに求め続けているのは連携である。

 ラベルの求める高度な連携を行う為には、ただ動きを合わせるだけではだめだった。

 仲間の能力をすべて把握し、様々な状況下で仲間がどう動くか予想し、それに合わせて自分の動きを合わせる。


 ダンは後方職の弓使いだ。

 なのでずっとパーティー全体を後方からずっと見てきた。

 リオンやリンドバーグがどんな動きをして、どういった選択を選ぶのか?

 中衛のラベルがどんな状況でどういった立ち回りをしているのか?

 今日まで培ってきた経験が今のダンを作り上げてきている。

 時間をかけてお互いが納得できる連携が取れる様になった頃には、自然と信頼関係も構築されていた。

 

 そんな信頼できるリンドバーグが、ダン達に向かって後方の男は自分が対応すると告げたのだ。

 

 その一言を聞いた時点で、ダンの意識は目の前の敵へと向けられていた。


「リンドバーグさん、後方の事は意識から外すからな!」


 独り言の様にダンは呟いた。

 

 ダンの横でミシェル令嬢がメアリーさんに守られながら戦いを見守っている。

 メアリーさんは軽装に身を包み、剣を抜いてミシェル令嬢を守る構えを取っていた。


 メアリーさん自身も本当は強いのに、自分から戦おうとせずにミシェル令嬢の護衛だけに徹している。

 たぶんそれはオラトリオの邪魔になると判断しての事だろう。

 メアリーの気配りはダンだけでは無く、リオンやリンドバーグも気づいていた。


 ダンは新たに矢を抜くと、狙いを定めて矢を放つ。

 放たれた矢は敵を倒す牙であり、失敗してもリオンの援護になる二重の意味を持つ強力な一撃だ。


 リオンはスキルを起動し、数秒先の未来を見ていた。

 ほんの少しの未来であるが、このスキルのチート具合は自分でも理解しているつもりだ。


 後方から放たれる矢の線上に自ら立つと、自分に矢が刺さる瞬間にリオンはその身を翻した。


 敵は目前のリオンの動きに合わせようとしたのだが、リオンが居なくなった場所から矢が突然現れた事に驚愕する。

 リオンが射線上に居た為、矢が放たれる瞬間を見逃していたのだ。

 残念な事に急に現れた矢に対応する能力をこの男には備わっておらず、必死に身体を動かし急所から逸らすのが限界だった。

 

 そしてダンが放った一撃は襲撃者を貫く事に成功する。


 この攻撃は以前、SS級冒険者であるカインにも試した事がある。

 しかしあの時は昼間で視界も明るい上に、相手が強すぎた為、上手く防がれてしまった。

 今回は夜で視界も悪く、もしこの攻撃を避ける者がいたとするのなら、それはSS級冒険者カイン以上の強者しかいない。


 リオンは翻したその勢いをバネに変え、一度だけステップを踏むと、急転換と共に隣の襲撃者に襲い掛かった。


「貴方の相手は私よ!!」


「クソたれぇぇぇ! さっきからちょこまか動き回りやがって!! やりづれぇぇんだよ」


 襲撃者は減らず口を叩いているが、その表情は必死でリオンの連続攻撃を凌ぐのがやっとであった。

 リオンの連続攻撃に押されながら、何歩もその身を下がらされていく。


 そして後退を続けた結果、石に足を取られ襲撃者は尻もちをついてしまう。


「ヤバい!!」


 襲撃者は悲鳴を上げ、自身の死を覚悟する。

 しかし襲撃者が見上げた先ではリオンは何故か急転換しており、別の襲撃者に向かっていた。


「へっ!?」


(止めを刺さずに何故?)


 そう頭に疑問を覚えた瞬間、男の両腕に二本の矢が突き刺さっていた。

 

「ぐあぁぁぁぁ」


 矢が刺さったのは腕を曲げる肘の部分であり、両腕の肘を貫かれた男は矢を抜く事も出来ずにその場に倒れたままうずくまる。


「残り三人!」


 リオンが呟いた。


「おいっ、こいつら強いぞ! こっちも組んで叩くぞ」


 襲撃者もリオン達の実力を把握し、残りの襲撃者が集まりリオンに対峙する。


 リオンもただ真っ直ぐに突っ込むのではなく、襲撃者の周囲を走り回り隙を伺っていた。


「おい、この女はやっかいだぞ。一旦放っておいて、令嬢を直接狙った方がいいんじゃないか?」


「いや、情報によれば令嬢に付いているあの女は元A級冒険者らしい、もし殺し損ねたら俺達の方が挟み撃ちでやられてしまう」

  

「ならどうする?」


「一人づつ倒すしかないだろ! こっちは三人もいるんだ。一斉で掛かればいくら素早いと言っても所詮は女だ。何とでもなる」


 襲撃者達は手短に話し合い、目標をリオンと定めるとすぐに攻撃に転じた。


 三人は同時に動き始め、隙を伺っていたリオンと並走を始める。

 そのままリオンの周囲を取り囲むと手慣れた動きで一斉に襲い掛かった。

 襲撃者もそれなりの強者であり、標的をリオンと決めた後から攻撃を仕掛ける迄の動きに迷いはない。


 しかし周囲を取り囲まれてもリオンに焦る素振りはなかった。

 素早い動きで、襲撃者の攻撃を軽々と避けて行く。

 リオンは小柄の体格であり、リオン自身も自分の特性を理解していた。

 身体をくねらせ、敵の間隙を突き包囲網を一瞬で突破する。


 そして最終的には襲撃者の背後に回り込むと一人を切り伏せた。

 

「残り二人!」


「流石はリオンねーちゃんだな。俺の援護なんて要らないんじゃないの?」


 矢を放つタイミングを図っていたダンが、感嘆の声を上げた。


 このままの勢いで襲撃者を殲滅しようとした時、叫び声が響きダンが背後を振り返る。


「ぐわぁぁ!」


 それはリンドバーグの悲鳴だった。


 今まで意識から外していた為、リンドバーグの姿を見てダンは息を飲んだ。


「リンドバーグさん!?」


「すみません、気を散らしたみたいですね。私の方はもう少しなら時間を稼げますので、まずはリオンの方を急いでください。退路を確保する事が最優先です」

 

 ダンに声を掛けられたリンドバーグは心配するなと言っている。

 しかしリンドバーグの全身には数本のナイフが突き刺さっていた。


 一瞬、リンドバーグが一方的にやられているとダンは考えたのだが、相手の表情を見るにそうでもないらしい。

 敵の方には大きな怪我は見えないが、肩を大きく揺らし息を切らしている。


「本当に忌々しい。私の手をこれ程まで煩わせるとは……」


 シャウトは眉を顰め、苦虫を嚙み潰したような悔しそうな表情を浮かべていた。。

 それは思う様にならない現状に、かなり苛立っている様子だ。


 それにナイフが刺さっている場所の殆どが手足であり、致命傷にはなっていない。


 リンドバーグはナイフが刺さったままの状態で、盾やスキルを上手に使い分けながら、相手の隙をついて敵に突進を仕掛けたり、また敵の攻撃を避けたりもしている。


 盾を使った戦闘をリンドバーグは得意としていた。

 基本に忠実であり、無茶をせずに自分が出来る事をきっちりとやり遂げる姿を見て、ラベルが褒めていた事をダンは思い出す。


 ダンは援護として一本の矢をリンドバーグが相手をしているシャウトに向けて放つ。

 矢が当たる事は無く、シャウトは余裕を持ってバックステップで矢を避けている。

 その後、シャウトが追撃に意識を向けた事で一瞬の間が作られた。


「リンドバーグさん、今の内に治療して!」


「ダン君、ありがとうございます」


 リンドバーグは素早くナイフを抜き去ると、その上からポーションを振りかけた。

 ポーションを振りかけた事により、出血は止まり痛みも引いて行く。


「もう私の事は大丈夫です。さぁ早く!」


「了解! すぐに俺達も応援に戻るから」


 ダンはリオンの援護をする為に、再び前方へと視線を向けた。

 リオンは二人の冒険者を相手取り、戦いを繰り広げている。

 

 ダンは矢を放つタイミングを伺っていた。

 

 その時、襲撃者の背後から別の影が近づいて来ている事に気付く!

 

(まさか応援部隊か? 時間が掛かってしまったらリンドバーグさんの方がヤバい)


 それと同時に矢の残り本数を頭に思い描く。

 ダンの仕事は弓による攻撃と援護である。

 ダンジョン戦では使用した矢は戦闘終了後に回収して再利用していた。

 魔石を抜いた魔物は崩れ去る為、矢先を砥石の魔石で研ぐだけで再利用できる。


 しかし戦闘が長引けば、戦闘が終わるまでに矢が尽きる事があった。

 そうなった場合は、ダンの戦闘力は格段に下がってしまうので、矢の本数確認には注意する様に教えられている。


「やっべーな。足りるかな?」


 ダンは多少の不安を覚えながらも、新たに近づいて来る陰に向けて標準を合わせた。

 

「出て来た瞬間に一発かましてやるからな!!」


 これ以上敵が合流すれば、連戦続きのリオンの負担も大きくなる。

 なので増援は必ず阻止しなければいけない。


 ダンは矢を構えて弓を引く。

 しかしその矢が放たれる事はなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 新たな影に気付いたのはダン? だとすると、モノローグでも リンドバーグを呼び捨てにするのは違和感があります
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