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112話 脱出 その1

 襲撃者を確認したリンドバーグは誰よりも早く動き始めていた。


「ダン君はミシェル令嬢を連れて早く門から外に向かって下さい! この男の相手は私達がやります」


 現れた男とミシェル令嬢の間に移動したリンドバーグは、ダンに向かって的確に指示を飛ばす。


「わかった! それじゃミシェル様、俺について来てくれ」


 ダンは屋敷から逃げ出す為に閉じられていた裏門の扉を両手で押して扉を開く。


「そう簡単に逃げれると思っているのですか?」


 ナイフの男はクックックと笑いながら、口元を手で抑えている。

 ダンが裏門を開いた先には、五人の黒いマントを着た男が立っていた。

 マントの男達はリンドバーグ達を待ち構えていた様で、ジリジリと近づいてくる。

 挟み撃ちの状態となったリンドバーグ達は、圧力に押され門の中央部分で集まると互いの背中を守り合う様に背中を合わせた。


「私の名前はシャウトと申します。そして門の前にいる彼等は私の部下です。我々はブロッケン殿に雇われている訳ではありませんので、別に手伝う義理はないのですが、このままミシェル令嬢を逃がしてしまっては、組織内で私の評価も下がってしまうので、今回は特別にお手伝いさせて頂きました」


 シャウトと名乗った男は大袈裟な素振りでお辞儀をしてみせた。


「リンドバーグさん、私はどう動けばいいですか?」


 リオンは冷静にリーダーであるリンドバーグの指示を仰ぐ。


「目の前の男は私が相手をします。外の敵の数の方が多いので、リオンさんはダン君の応援に向かって下さい」


「うん、わかった。だけど目の前の男、もの凄く強いから気を付けて」


「ご忠告ありがとうございます。ですが私達の目的は逃げ出す事であり、勝つ事ではありません。勝たなくていいのなら、多少の実力差があっても何とかなるものです」


 そう言うとリンドバーグは左手で持つ盾を自分の前面に押し出し、顔の半分だけ出した状態で相手の男を見据える。


「シャウト殿、私の名前はリンドバーグ。無理は承知で聞いてみますが、ブロッケンに雇われていないのなら今回は見逃して貰えないですか?」


 リンドバーグはシャウトにそう話しかけた。 


「ふふふ、確かに私達はブロッケンに雇われてはいませんが、今回の騒動が成功したあかつきには、私達が大きな利益を得る事になります。なので残念ですが、その申し出を受ける訳には行きません」


 その問答の間にリオンはダンの隣に移動していた。


「仕方ない。なら私が相手をさせて頂く!」


 リンドバーグも戦闘態勢に入り、二人の戦いは始められた。

 まず最初に、リンドバーグはすり足でシャウトとの距離を詰めて行く。

 その間も視線はシャウトから離していない。

 最初の攻撃から想像するに、シャウトは小型のナイフを投擲してくる。

 リンドバーグはそれを警戒していた。


 リンドバーグの装備は右手で片手剣を持ち、左手には普通の冒険者が使うものより少し大きめの盾を持っていた。

 盾が大きい分、防御力には優れているが、重量があり動き辛いのが難点だ。


 その為、シャウトが投擲攻撃を仕掛けて来ても盾を構えれば十分に対応は出来るとリンドバーグは考えていた。


 すり寄っていたリンドバーグは一定の距離まで近づくと、その場所で動きを止める。

 リンドバーグが止まった場所は、自分が持っている片手剣を振っても相手に届かない距離だ。


 シャウトもしばらく警戒していたのだが、先に痺れを切らしていた。


「それ以上近づかないのなら、こちらから攻めさせて頂きますよ」


 シャウトは両手で四本の小型ナイフを持つと、リンドバーグに向けて投げつけた。

 ナイフは黒塗りの為、殆ど認識する事は出来ないが、シャウトの身体の動きからナイフの軌道を予測し、リンドバーグは盾を構えた。


 すると盾にナイフが当たる音が聞こえる。

 投擲の攻撃をリンドバーグは見事に防いだと思えた。


「ぐぅぅっ!」


 しかしその後聴こえて来たのは、リンドバーグの苦痛を含んだ悲鳴だった。


 投げられたナイフの半分は盾で防ぐことに成功したのだが、残りの二本はリンドバーグの足に刺さっていたのだ。


 ナイフが刺さったリンドバーグの姿を見たシャウトは、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「おやおや、あの程度の攻撃も防げないとは…… これではすぐに終わってしまいそうですね」


「確かに私は凡人です。それは最初から自覚している」


 リンドバーグはそう吐き捨てると、シャウトの隙を見つけて刺さったナイフを抜き去る。

 そして再びシャウトと向かい合った。

 しかし今回もまたリンドバーグから攻撃を仕掛ける事は無かった。

 リンドバーグは時間稼ぎに徹していたのだ。


 その事にシャウトも気づく。


「どうやら、最初から私の部下を倒すまで時間を稼ぐのが目的だったようですね。それならこちらも遠慮なくやらせて頂きますよ」


 そう言って再びナイフを手にした瞬間、リンドバーグがスキルを発動した。


「ダッシュ!!」


 すると盾を構えた状態のまま、リンドバーグは物凄い速さでシャウトに向かって突進を始める。

 普通で考えるなら移動する時は足を動かして移動するだろう。

 しかしリンドバーグは盾を構えた態勢のまま、低空移動で飛んでいるかの様に物凄い速度で移動していた。


 咄嗟の出来事にシャウトも驚いたが、ギリギリのタイミングで身体を捻り体当たりを避ける事に成功する。


「何ですか!? それは? 貴方のスキルですか?」


「魔物が相手だと避けられる事は少ないんですが、人間が相手だと想像通りには行かないですね」


 リンドバーグのスキル【ダッシュ】は決めたポーズのまま、自分を中心とした四メートル以内の範囲を瞬時に移動できるスキルだ。


 盾を構えたまま使用すれば、その状態のまま目的地に突っ込んだり、剣を敵に向ければ強力な突きとなって攻撃する事が可能である。

 その突進力は自分の倍の体格を持つ魔物すらも簡単に弾き飛ばす事が出来る。

 更には仲間が襲われている場合、一瞬で援護に入ったりもできる。

 欠点はスキル使用後に一瞬だが硬直時間が発生する事だろう。

 集団戦闘においてこの硬直時間は危険を伴う事も多く、リンドバーグのスキルは強力であるが、無作為に使用すれば自分の命を危険に晒すスキルだった。

 

 だが対人戦闘に置いて、初見殺しのスキルでもあり、初見で避けられたのは実は初めてである。


 初見殺しの技を躱された動揺を隠しながら、目の前の敵が強敵である事をリンドバーグは再確認する。

 

 リンドバーグが戦っている間、ダンとリオンも激戦を繰り広げていた。


「リオンねーちゃん。いつもの感じでいいよな?」


「確認取らなくても、ダンの好きに動いていいよ」


「じゃあ、連射するけど勝手に避けてくれよ」



 ダンの手には五本の矢が握られていた。

 その矢をほぼタイムロス無しで一瞬で放っていく。

 

「クイックショット!」


 ダンのスキルは連続で矢を放つ事が出来るスキルだ。

 その速度は五連射をほぼ同時と感じる位に早く打つことが可能だ。

 しかもその五本をそれぞれ違う目標に撃ち分ける事も出来る。


 ダンは五人の敵に狙いをすましてスキルを使用した。

 五本の矢はそれぞれ敵の顔面に向かって飛んでいく。


 しかし相手も強くダンの矢は全て剣で叩き落される事となる。

 攻撃を全て防がれたダンであったが、その表情が曇る事はない。


 その理由は最初から矢で敵を倒すつもりが無かったためだ。

 敵がダンの放った矢で気を取られている間に、リオンが一番近い敵の懐に入り込み矢とほぼ同時に死角から一撃を加えていた。


 矢との同時攻撃を防ぐことが出来ずに、リオンの攻撃を受けた男はその場に倒れていた。

 

「残り四人!! ダンはそのまま攻撃を続けて!」


「おう! 任せてくれよ」


 ダンは矢筒から更に矢を素早く抜き去ると次の攻撃へと移っていく。

 リオンは矢の動きに合わせて、次の相手へと近づいていった

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[一言] ティアーズ・フォー・フィアーズ レコード持ってました
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