105話 情報収集と援軍
ブロッケンから手に入れた金で、俺はリンドバーグを引き連れて毎夜町に向かうと飲み回っていた。
リンドバーグも辛いとは思うが、実は俺達二人は幾ら酒を飲んでも酔いつぶれる事はない。
その理由は俺が調合した薬を飲んでいるからだ。
薬を飲んで効果が発揮されれば、幾ら酒を飲んでもアルコールは全て分解されるので顔は赤くなるが酔う事は無い。
町には三軒の酒場があるのだが、俺とリンドバーグはその全ての店を梯子している。
数日しかたっていないが、酒場に顔を出せばそれなりに金を使っていたので、店員達とも仲良くなり今では気軽に話しかけてくれる様になっていた。
俺に話しかけてくる者には必ず酒を奢り、逆に俺の方から飲んで居る客に話しかけ酒を奢ったりもした。
そんな飲み方を続けていると、たった四、五日程度で地元の常連客にも俺達は顔を覚えられ始める。
伯爵様の屋敷を出て一週間が経過したが、これで伯爵様の行方を探す準備は整った。
俺は今の状態になるのを狙っていたのだ。
「なぁ、あんた達一緒に飲まないか? 俺に一杯奢らせてくれよ」
真っ赤な顔ですっかり出来上がった状態に見える俺は、隣のテーブルで楽しそうに飲んで居る二人組の男に近づくと気軽に声をかけた。
「ん? あんたは最近羽振りが良いって有名な冒険者の人だな!? 奢ってくれるって言うなら一杯だけ付き合ってもいいぜ」
二人組は俺の顔に見覚えがあるようだ。
二人組は既に酔っぱらっているので、全く警戒する事も無く二つ返事で了解してくれた。
「ありがとうよ。それであんた達はどんな仕事をしているんだい?」
俺は新しく注文した酒が届くと乾杯をした後、世間話を始める。
「俺達はこの町で商店を営んでるんだよ。最近街の近くにC級ダンジョンが現れただろ? だから冒険者達が遠征に来てくれる様になって、商売繫盛って訳さ。二人でその祝いをしていた所だ」
ダンジョンは人間が住む場所の近くに発生するのだが、住んでいる人間の数によってランクが変わる。
この町の大きさで言えば、普通でC級、良くてもB級ダンジョンまでだろう。
首都の【ストレッド】には何十万人もの多くの人間が住んでいる為、S級や伝説のSS級ダンジョンが現れると言う訳だ。
ダンジョンは生き物なので、確かにイレギュラーで想定外の事も起こる場合もあるが、そういう事は稀である。
ダンジョンで生まれる魔物は人々の天敵であるが、ダンジョンが現れると多くの冒険者を呼び込むので、町を潤す潤滑油にもなっていた。
「そいつは知らなかった。ダンジョンが出現していたんだな」
「あぁ、出現して丁度一週間位経つぞ。だから二、三日前位から少しづつ冒険者達がこの町に集まり始めているんだよ」
「なるほど」
「今日なんてダンジョンに潜るからと言って、数名の冒険者達が店に来てくれてよ。食料品からアイテムまで、店の商品を根こそぎ買ってくれたんだ。商売繁盛でハッキリ言って笑いが止まらねぇぜ」
「俺の店でも同じ様な感じだな。繁殖期以外じゃ、ダンジョン様には足を向けて寝れないな」
そう言いながら商人の男は豪快に笑い合う。
冒険者が集まって来ているのなら、酒場で新しい情報も手に入りやすいので俺としても好都合だ。
俺はその後も酒場に集まる人達に酒を奢りながら、色々な情報を集めて行く。
そんな日々を更に数日間続けていると、ある時、酒場にいた俺達に二人組の冒険者が俺に話しかけて来た。
俺の噂話を聞きつけて、酒をたかる者も居るので別におかしな事ではない。
しかし俺は二人の顔を確認すると、笑みを浮かべ空いているテーブルに座らせた。
リンドバーグには事前に教えていたので、二人を見ても特に驚く事なく、無言で俺の隣に座っている。
「来てくれると思っていたが、正直不安でもあったんだ。助かるよ」
「何を言ってるんだよ。リオンちゃんが呼んでくれているのに俺が来ない筈がないだろ?」
「お前間違っているぞ、依頼主はラベルさんであって、冒険者リオンじゃない」
「うっせーよ。そんな事はわかっているんだよ。これは気持ちの問題なんだよ」
「それじゃ、そろそろ本題に移ってもいいか?」
俺に声をかけて来たのは、情報屋として活動をしている【ブルースター】のレクサスとプルートであった。
この二人の実力は前回の依頼で分かっている。
今回の事で協力してもらう為、執事長のマルセルさんに手紙を渡していたのだ。
報酬金額は多めに提示していたので、【ブルースター】にとっても遠征込みで悪い依頼ではない。
彼等が来てくれたおかげで、本格的な行動を開始する事ができる。
俺はブルースターが来てくれる事を前提に今日まで酒場で情報を集めて来たのだった。
今までの経緯とこれからの行動内容、そして今日まで集めた情報を元に俺が考えた考察内容などを話していく。
「話は大体理解した」
「頼むぞ。ダンジョンが現れて多くの冒険者達が行き来する状況となっているのにも関わらず、伯爵様が未だ動き出さない理由が気になる」
俺は懸念事項を口にする。
「伯爵様にはA級を含む冒険者達が二十人近く付いているんだろ? まだまだ戦えると考えて、様子を伺っているだけなんじゃね?」
レクサスが軽口を叩いた。
「そうかもしれませんが、伯爵様達は最初の話し合いの時点で一度襲われて逃げています。なので逃げ出したくても逃げ出せない状況という可能性も考えられます」
さっきまで無言を貫いていたリンドバーグが補足説明を口にした。
「それもそうだな。どっちにしろ俺達はラベルさんが教えてくれた場所から探してみるわ」
「もし、合流できたなら、これを渡してくれ。いつもミシェル様が身に着けていたアクセサリーとミシェル様からと俺からの手紙だ。これを渡せば信用して貰える可能性が高い」
俺は事前に用意し、ずっと持ち歩いていた手紙とアイテムを二人に渡した。
「あぁ、後の事は俺達に任せてくれ。今はダンジョンが出現してくれたおかげで、俺達冒険者が町の中を動き回っても怪しまれる事もないしな。好都合だ」
レクサスは胸を叩いている。
「もし今回の事が上手く行った暁には追加報酬も出すつもりでいるからな」
「へっラベルさんは流石に分かっているじゃねーか。それじゃ追加報酬はリオンちゃんとのデートで……」
レクサスがふざけた瞬間、隣にいたプルートがレクサスの後頭部を死角から殴りつけていた。
「ぐへぇっ!!」
レクサスは後頭部を殴られ、そのままテーブルに勢いよく頭をぶつける。
「今は仕事だろ!? 余りふざけすぎるな」
「痛てて…… わかっているって! ほんの冗談だろ?」
「お前の場合は冗談に思えないんだよ」
この二人は実に良いコンビである。
お調子者のレクサスとしっかり者のプルート。
二人の実力が高い事はわかっているので、俺の期待通り結果を出してくれる事だろう。
俺とリンドバーグはレクサス達と別れた後、屋敷に戻ると【ブルースター】の参戦を仲間に伝えた。
そして今後の予想や作戦をミシェル様を含めたギルドメンバー全員で話合う。
俺の予想は的中し情報屋【ブルースター】の参戦により、事態は一気に動き始める事となる。




