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103話 行動開始

 俺とリンドバーグは手に入れた情報を伝える為にミシェル様の部屋へ戻ってきた。

 今から説明をするのだが、この部屋に仕掛けがない事は荷物を運びこんでいる時に調べている。

 特に怪しい所は無かったので、盗み聞きされない様に注意すれば大丈夫だろう。


 部屋の中ではメアリーとミシェル様が忙しそうに、俺達が運び込んだ荷物の整理をしていた。

 俺はミシェル様の傍に駆け寄り、頭を下げ挨拶を行う。

 そして先ほど手に入れた情報を伝えた。


「やはりそうでしたか」


 ミシェル様もある程度予想していたのだろう。

 俺の話を聞いても眉一つ動かさなかった。

 

「ブロッケンのあの焦りようから推測すれば、ギルバート伯爵様は絶対に生きています」


 今までは伯爵様の弟だから敬語を使っていたが、敵だと判明した以上使う必要はない。


「その為に私はこの地までやって来たのです。お父様は必ず助け出します」

 

 ミシェル様は強く頷いて覚悟を秘めた瞳で俺を見つめる。

 俺もその意思に答える為に今後の作戦を話し出した。 


「それにはまず伯爵様の隠れている場所を特定する必要があります」


「それはわかっています。私はどう動けばいいでしょうか? ラベルの話ではおじ様は私を人質に取ってお父様をおびき出すのでしょう? ならすぐにでもこの屋敷から逃げた方がいいんじゃないでしょうか? 私はお父様の負担にはなりたくありません」


 ミシェル様は年に割にはしっかりしており、判断力もある。


「そんなに急がなくても、逃げるタイミングは今後もあります。もしも無策のまま屋敷から逃げ出して、もし追手に捕まってしまったら屋敷での自由はもうありません。だからこそ注意しながら行動するべきです」


「ではどうしろというのですか?」


「まだブロッケンは私達が真実を知っているとは思っていません。ならば逃げるルートだけ作っておいて、今はまだ油断させておきましょう。そしてその間に我々が情報を集めて、伯爵様の居場所を突き止めます」


「なるほど…… わかりました。ラベル、貴方の作戦で行きます。逃げるルートも段取りしておいて下さい」


「わかりました」


 俺は部屋の中にいるダンに声をかけた。


「ダン、今回はお前の働きが重要だぞ。ミシェル様はお前が必ずお守りしろ。いつ手を出されてもおかしくない状況だと自覚しておくんだ」


「あぁ、任せてくれ」


 ダンは力強く頷いた。


「それに私も付いています」


 ダンに続いたのはメイドのメアリーさんだ。

 彼女が戦える事はダンから聞いていた。


「メアリーさん、ダンから貴方がそれなりの実力者とは聞いています。本来なら詮索するのは間違っているのでしょうが、今はこんな状況です。貴方がどの位戦えるのか把握しておきたい。最悪の場合は戦力として数えさせて貰いたいので」


「貴方達なら話してもいいでしょう。気付いていると思いますが、私は元冒険者です。訳がありまして今はミシェル様にお仕えさせて頂いております」


「言っておくけど、メアリーに対して変な詮索はしないで。メアリーとは私が物心ついた頃からの付き合いで、私から見れば姉妹の様な存在。ハッキリ言って貴方達よりメアリーの方が信用できるわ」


 その時、ミシェル様が割って入って来た。

 それはメアリーさんを助ける為の行動であり、二人の間には深い信頼関係があるのだろう。


「わかっています。冒険者の時の階級を聞いても?」


「元はB級冒険者です。攻略組としてダンジョン攻略をしていました」


「B級冒険者…… 解りました。基本的にはダンに護衛を務めさせますが、もし手に余るようでしたら手を貸してください」


「勿論です。ここに来る事が決まった時から戦う覚悟はできています」


「そう言う事なら、武器とアイテムを渡しておきます。使い方は説明しなくても大丈夫ですね」


 俺は部屋に置いていたリュックから幾つかのアイテムを取り出して、テーブルの上に置いて行く。


 その時ドアが開き、アリスとリオンが部屋へと戻って来た。


 リオンは普通なのだが、アリスは明らかに不機嫌で頬を膨らませている。


「二人共ご苦労様、それで何かわかったか?…… って言うか、アリス、何を怒っているんだ?」


 俺の問いかけに反応したのはリオンの方だった。


「アリスさん綺麗だから男の人達に囲まれちゃって、その時にどうやらアリスさん、誰かにお尻を触られたみたいなの…… 」


 リオンは言い辛そうにしている。

 リオンの場合は触られる前にスキルで察知できるから、今回被害があったのはアリスだけだろう。


 しかし問題はお尻を触られた事だけじゃない。


「おっお尻を触られた!? それでどうなったんだ? まさか勢い余って、そいつを殺したりはして無いだろうな?」


「どうして殺す事が前提になってるのよ!? 私だって今問題起こしたらヤバいって事位は分かっているから必死に我慢したのよ。だけどもう腹が立って!! 顔は覚えたから別の場所で会ったら絶対にボコボコにしてやるんだから」


 アリスは復讐に燃えていた。

 触った男にはアリスに近づかない様に言っておいた方が良さそうだ。


「それは災難だったな。それで何か情報は手に入ったか?」


「そうそう。伯爵様が襲われた時に、たまたま近くにいた冒険者を見つけたの」


「それは大当たりだな。それでどんな話を聞けたんだ?」


 アリスの説明によると、伯爵が襲われたのはここから一番近い町にある集会場らしい。

 そこで鉱山で働く者達と伯爵様達が集まって、話している最中に男達の方が突然暴れだしたとの事だった。

 鉱山の者達は仕事で使う道具を持ち込んでいたらしく、多くの怪我人も出たらしい。

 伯爵様は身の危険を感じたのか、そのまま姿を隠しているとの事だ。

 

 ただその町には鉱山で働く者の関係者が多く、町の中で隠れるのは難しいとの事。

 街道を抜け別の場所に移動した形跡も無い為、この地域の何処かに身を潜めている可能性が高いと噂されているらしい。


 アリスからの話を聞いた俺は自分の頭の中で推理してみた。


「暴動って言うのは多分間違いだろう。真相はブロッケンが話し合い中に伯爵様の身柄を拘束しようとして、逃げられたんだろうな。戻ろうにも街道は張られているので今は隠れている。そんな所か」


「マスター、今の予想が合っていると仮定して、どうやって伯爵様の居場所を見つけるのですか? 我々は地理に詳しく無い上に、ブロッケンの様な地元の協力者もいません。かなり不利な状況だと思いますが?」


 リンドバーグは尤もな質問をしてきた。


「リンドバーグの言う通りだ。だから伯爵様の居場所はブロッケンに見つけて貰おうと思っている。そして居場所がわかったら土壇場でブロッケン達を出し抜いて、一足先に伯爵様と合流しこの地域から逃げて貰う」


「口で言うのは簡単ですが、そう上手く行くとは思えませんが…… どうやって出し抜くんですか?」


「そうだね。私もリンドバーグさんと同じ意見だな」


 リンドバーグの意見にアリスも同意する。

 よく見るとアリス以外の者達も同じ意見のようだ。

 

 だが俺は首を左右に振り、自信たっぷりに言い聞かせた。


「ブロッケンに俺達の事を信用させる!! 俺達がブロッケンの味方だと思いこませ、伯爵様の隠れている場所に向かう時に同行させて貰うんだよ」


「信用させるって、一体どうやるんですか? 相手にとってこちらは気の抜けない相手なんですよ?」


「そこは一芝居打つんだよ。みんなも覚えているといい。人間って言うのは最初に持ったイメージが正しいと思い込んでしまう傾向があるんだ。だから相手に不審がられる前に逆に信用させれば勝ちなんだよ」


 その後、俺は全員を集めて作戦を告げた。




◇   ◇   ◇




 その日の夕方、ミシェル様の部屋から絶叫に近い叫び声が響いた。

 大きな声だったので、使用人が気付きブロッケンの元にも報告が届く。

 部屋の前の廊下には多くの人だかりが出来上がっていた。


「どう責任を取るつもりなの!? 本当に使えないわね! この食器が幾らするか分かっているのかしら? 貴方達の様な底辺冒険者が払える金額だと思っているの!」


 床には割れた皿が何枚もあり、その皿を指さしながらミシェル様が頭を下げている俺達に向かって罵声を投げかけていた。


「ミシェルどうしたんだ? 何があった!?」


 慌てた様子のブロッケンが部屋に入って来た。


「おじ様、良い所に来てくださいました。聞いてください。この護衛達が荷物を運びこむ際に乱暴に荷物を扱ったせいで、食器がこんな事になってしまって……」


 ミシェル様が指さした床には何枚もの割れた食器が散らばっている。


「それは確かに酷いな。お前達その話は本当なのか?」


「はい。申し訳ございません」


 俺が代表して謝り、他のメンバーが俺の後ろで頭を下げた。


「いいえ、絶対に許しませんわ。必ず弁償して貰います。払えない時は一生私の奴隷として生きなさい」


「そんな…… それは余りに酷い、我々は屋敷でお嬢様の為に必死に戦ったんですよ?」


 俺は泣きそうな表情を浮かべて、縋る様に懇願する。


「ふんっ!! それは仕事としてでしょ? 当たり前の事をしたのに、お前は私の為って言うのですか!? ふざけないでお金の為でしょ!! お父様を救い出した暁には必ず弁償して貰います」


「お願いです。許してください……」


「ミシェル、お前が怒る気持ちもわかるが、今は大事な時だ。少し落ち着きなさい」


 見かねたブロッケンが仲裁に入る。


「おじ様がそう言うのなら、わかりましたわ。ラベル、この話は後でしっかりと行います。わかりましたね」


「はいっ!」


「貴方達には二度と私の私物を触って欲しくありません。今すぐこの部屋から出ていきなさい!!」


 ビシッと宣言され、俺達は追い出された。

 ダンだけは俺が懇願し、何とか傍に置いておく許可を貰う。


 廊下に集まっている人達も全員さっきの騒動を見ている。

 そして彼達の注目は廊下に追い出された俺達に向けられた。


「マスター、どうしましょう」


「あの気性の荒いお嬢様が宣言したんだ。それなりの金は要求してくるだろう。クソっ! どうすればいいんだ。俺達のギルドにそんな大金なんて……」


 俺は困った素振りをして肩を落としてみせた。

 ブロッケンはそんな俺達を無言で見つめている。


 それから数時間後、俺はブロッケンに部屋に来るようにと呼び出された。

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[気になる点] わざとお嬢様の不興を買い窮地に陥ったところをブロッケンが利害の一致で仲間に取り込む・・・。相手の弱みに付け込んで仲間にしたと思っているブロッケンは信頼するだろうな。 なかなかの策士です…
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